つま先立ちの恋 3





   いつもこんな格好をしているのかと聞かれれば・・・
   答えはNO!
   今日はトクベツだよ?
   中でも一番大人っぽいヤツだもん。
   買ったばかりのおニュウだし。

   なんで・・・って?
   ・・・・・・なんでだろ?
   
   たぶん、褒められたかったの。
   かわいいって言われたかったの。

   ワタシ・・・。   
   ・・・ダレニミテモライタカッタノ・・・?!



抱きかかえられたまま、沈黙が続く。
どれぐらいの間そうしていただろうか・・・不意にカカシが視線を逸らし、再び歩き始めた。
「え、・・っと・・」
言葉を捜すサクラに諦めた声が降り注ぐ。
「いいよ、そんなに考え込まなくても。考えて出す答えでもないでショ、こういうことは。」
「う・・ん。でも・・・」
「いいのいいの。・・・ほら、もう家に着くし。」
目前にまで迫ったサクラの家を顎で指し、カカシは歩幅を広げた。

はっきりとした答えをサクラの口から聞くにはもう暫くかかりそうだなぁ、と内心すごく面白くない。
カカシはサクラを早く家へ帰してしまいたかった。
このもどかしい気持ちが表に出てこないうちに・・・。
一度出てしまえば自分の気持ちのみを押し付けて、きっと取り返しのつかないことになる。

   ・・・そんな気がする。



玄関の門の前で、サクラはカカシの腕の中から重力に従いするりと降ろされた。
「じゃ、また。」
あっけなく背を向けて歩き出したカカシに声もかけられないまま・・・サクラはそっと息を吐く。

   本気なのだろうか?

不思議なことに嫌悪感は全く感じられなかった。

   っていうか、嬉しい・・・みたい。
   なんて言えばいいのかわからないけれど・・・ヤじゃない。
   それだけは伝えたかったのに!

言葉が見付からず黙り込んだ自分をカカシはどう思っただろう?
はぁ、ともう一度溜息をつき、サクラはだんだん遠くなる背中を見送っていた・・・。



玄関のノブを回す。
「あ・・れ?・・鍵かかってる・・・・そーだった、誰もいないんだっけ。」
『鍵はいつもの場所に』と言っていた母の言葉を思い出し、玄関脇の鉢植えをずらす。
「・・・ないじゃない!!」
辺りの鉢植え全て持ち上げて下を見るが・・・ない。
「こっち?」
サクラは牛乳ビンが入っている小さなポストに手を入れてゴソゴソと動かせたが・・・

   ない・・・

玄関の門まで戻り、備え付けの郵便ポストにある夕刊を放り出し、頭が入りそうなほど覗き込んだけど見当たらない。

   だから何度も言ってるでしょ・・・
   隠し場所をそんなにころころ変えないでって!!
   お母さんの馬鹿ー!

今までの隠し場所は全て調べた。
完全にお手上げだ。
母が帰ってくるのは明日の昼過ぎ。・・・このままだと一晩外で過ごすことになる。

   任務でもないのに!冗談じゃないわッッ

サクラはさっき別れたばかりの、カカシの背中が消えた方へと一目散に走り出した。






「先生!!」
淡い紅色の髪をなびかせ、家へと送り届けたハズの少女が走ってくる。
ヒラリと舞い上がるスカートの裾が目に付いて。

   だーかーら、ダメだって!!
   ・・・反則。
   少しは自覚してもらわないと・・・。

足を止め、振り向いた自分のもとにやってきたサクラは何度か肩で大きく息をしてから顔を上げた。
「せんせぇ・・・家に入れない。」
「は?」
「鍵、ないの。」
「家の人は?」
「それが・・・今日は誰も返ってこないのよ、どうにかして。」
「どうにか・・・ってピッキングのやり方、教えたでショ?」
サクラはため息をついて両手を広げた。
「先生・・・私、今、針金とか持ってそうに見える?」
「・・・見えないな。」
「でしょ?!先生、開けてよ!」
「はいはい。しょうがないね。」

   ホントに、しょうがない・・・・

カカシは騒ぎ出す気持ちを押さえつつ、今まで歩いてきた道をサクラと共に引き返し始めた。


「・・・先生・・私、先生のことキライじゃない。」

唐突なサクラの言葉にカカシの足が止まった。
頭2つ分下にあるサクラの顔は夕焼けも手伝って赤く染まっている。

   精一杯の言葉なんだろうケド。
   それくらいではもう満足できないよ。

「そりゃ・・・微妙だね。スキでもない?」
イジワルな切り返しにサクラは言葉が詰まる。
「スキじゃない、なんて言ってない・・・」
「じゃ、スキなんだ?オレのこと。」
「うっ・・・スキかも、しれないわ。でも!!サスケくんとなんて比べられないよ。」
「ふぅん?以前なら間違いなく即答でサスケだったのにね?」
「!!」
カカシに言われて初めて気付く。

   ・・・そうだよね。
   どうしちゃったんだろう、私。
   サスケくんとカカシ先生・・・比べるまでもなかったのに。
   
カカシは黙りこくったサクラにそっと視線を落とす。

   もう一押しかな?
   ・・・これはきっとチャンスなんだ。
   逃してはいけないタイミング!
   この際、大人の男のプライドなんて・・・捨ててしまおう!!

「サクラ、最近よくオレのこと見てるよね?そんなに気になる?素顔。」
「・・・」

   ・・・バレてる。
   私、そんなに露骨にしてたかしら?

「見たい?」
カカシの囁くような声にサクラが顔を上げた。

   どこかで警告が鳴ってる。
   でも。
   きっと後悔はしない。
   ・・・そんな気がするわ。


なぜだか不意に紅先生の言葉が思い出された。

   『頑張ってね!』


「・・・見たいわ。」

ちいさな返事を確認してから、カカシはもう一度確かめるように言葉を紡いだ。
風にのったそれは優しくサクラの耳に届く。
   
「オレの家に、来る?」



   せっかく家まで送り届けたのに・・・
   戻ってきたのは、サクラの方。
   だから、もう・・・知らない・・・・・・・









2002.07.14
まゆ