つま先立ちの恋 4






「知らない人に声をかけられたりしない?」


キッチンに立ったカカシがゴソゴソとフライパンを出しながら振り向かずに訊ねた。
サクラは初めてのカカシの家に落ち着かず、辺りをきょろきょろ見回していた為に自分にされた質問だと気付くのが遅れる。
「え?何?」
「・・・男の人にね、声をかけられたりしないかって聞いたの。」
そう言いながらもカカシは忙しく手を動かしていて・・・コンコンとシンクの縁で卵にひびを入れると片手で器用に割った。
[えぇ〜〜・・そんなことないよぅ。」
「・・・ホントに?」
「うん。あ、でもそういえば最近よく道を聞かれるなぁ。あと、時間とか。」
「・・・・。」

   声、かけられてんじゃん。

「でね、みんな決まって御礼にお茶でも、って言うのよ。もちろん、丁寧にお断りしてるけどさぁ。過剰サービス過ぎない?」
「・・・はぁ。」

   何だかどっと疲れが・・・
   サクラが鈍くてよかった、っていうか・・・天然?!

カカシは今日の『これから』を考えて少し不安を覚えながら、出来たてのオムライスをフライパンから皿へと移し変えた。




「オマタセシマシタ。」

サクラの目の前に置かれたのはふんわり卵にくるまれたオムライス。
それに彩り良くレタスとトマトが添えられている。

   完璧だわ!
   しかも・・・すごく、美味しそう。

「先生って・・・何でも出来るのね。」
「そんなことないよ。」
「またまた。謙遜しちゃって!」
「・・・いいから食べてみてよ。」
カカシに薦められるままにスプーンを取る。
「いただきます。」
サクラは一口の大きさを掬い取り、口へと運んだ。
「!!うっわ!メチャ美味しいよ、これ。」
カカシは向かいの席に座りサクラの反応を満足げに見ている。
「?・・先生のは?」
「いーのいーのオレは。大体、普段は夕飯なんて食べないし。」
「そうなの?」
サクラのスプーンの動きが止まる。

   悪いこと、しちゃった。
   私のためだけにご飯作らせちゃって・・・

俯いたままの小さな頭をカカシの手がくしゃりと撫でる。
「サクラはちゃんとご飯食べておかないと身体がもたないよ?」
「先生だってもたないでしょ?」
「だから、いいって。オレは・・・サクラを食べるんだから。」
ぼそり、と呟くように答えるカカシの声にサクラが顔を上げた。
「・・・え?何?よく聞こえなかった。」
「いや、なんでもない。さ、食べてよ!サクラの為に腕を振るったんだから・・・冷めないうちにね♪」
「・・・うん。」
わざとらしいほど陽気なカカシの声に、サクラは釈然としないままコクリと頷いた。




結局カカシはサクラの前で食事らしい食事は取らず、コップ2杯程度の冷酒とつまみの枝豆を食べただけで・・・
それも、サクラの目の前であったにもかかわらず、いつ面布を下ろし口にしたのか全くわからなかった。

   なんなのよぅ。
   いつ見せてくれるの?素顔・・・。

『ごちそうさま』をして、キッチンですっかり空になったお皿を洗いながらサクラは一人愚痴った。
『後で洗うからそのままでいい』とカカシには言われたが、やはり何もしないのは心苦しい。
テキパキと洗い物をこなし最後のグラスに手を伸ばした時、サクラのすぐ後ろで声がした。
「そんなことしなくていいって言ったのに。」
「わッッ。びっくりした。急にこっちこないでよ。」
「もう終わる?」
背後から覆い被さるように覗き込まれ、耳元に囁くカカシの声はいつもと全然違って聞こえる。

   先生じゃないみたい・・・

ピッタリとシンクとカカシに挟まれて身動きが取れなくなったサクラは、慌ててスペースを確保しようともそもそと動く。

   なんか、ちょっといつもと違う感じがする・・・

「ほら、早くしないとオレの素顔が見れないよ?」
自分を意識しうろたえるサクラを見て、思わずカカシに笑みがこぼれる。
「・・・先生・・ホントに見せてくれる気あるの?」
「あるある。だからこんなもんほっといてさぁ・・・」
サクラの手からグラスを取り上げるとシンクの中へと戻し、蛇口をひねって水を出す。
まずは自分の手についた泡を洗い流し、続いて強引に捕まえたサクラの手も水にさらした。
「よし!キレイになったな。」
そう呟くや否やカカシはサクラをひょいと抱き上げ、リビングへと戻った。





先ほど座っていた椅子ではなくて、ベランダへと出られる大きな窓のそばにあるソファにゆっくりと降ろされる。
「あの・・・先生?」
何故だか跳ね上がっている鼓動を誤魔化すように、サクラがカカシへと声をかけた。
カカシは立ったまま腰を屈め、ソファに座らせたサクラが逃げられないように、両手をサクラの身体を挟んでソファの背に押し付けている。
「ん?」
「何、してるの?」
「何って・・・見たいんでショ、素顔。」
「・・うん。でも・・・」
あまりにも不自然な体勢。
息が触れそうな距離で顔を覗き込まれ、サクラは顔を真っ赤にして視線を反らした。
「いいよ、サクラ。面布、取って・・・」
「え?」
「サクラが、取って。」
再び視線を合わせたとき、いつの間にはずされたのか・・カカシの左目を覆っていた額あてはなく、色の違う両目がサクラを見ていた。

   まるで色の違う宝石だわ・・・

無意識に伸びた小さな手がカカシの頬に触れる。
人差し指を軽く曲げ、面布を引っ掛けるとそのままゆっくりと引き降ろしていった。

「・・・先生、なんで顔を隠してるのよ?もったいない!」
現れた素顔に戸惑い気味のサクラの声。
「それは褒め言葉ととっていいのかな?」
くくく、と喉の奥でおかしそうに笑うカカシもまた素敵だった。
すっと通った鼻筋も、涼やかな口元も。
薄い唇から時折覗く白い歯も・・・全て。

「サクラ?」
翡翠色の大きな瞳をさらに丸くして自分に見とれている少女。

   カワイイねぇ

「は、はいッッ!」
「どう?」
「どうって・・言われても・・・」
「見たかったんでショ?・・オレは、合格?」

   合格も何も・・・
   こんなにカッコイイだなんて思わなくて。
   
   やだ、私・・・
   先生のことカッコイイって・・・思っちゃってる!!

「百面相だな。」
赤くなったり、青くなったり・・・眼下の少女は表情豊かだ。

「・・・もっと違う表情も見てみたいんだけど・・イイ?」

もちろん返事を求めているわけではないカカシは、不意に桃色のやわらかそうな唇に自らのそれを重ねた。
「んんッ」
突然の視界の変化と息苦しさに、サクラは両手でカカシの胸を押し戻す。
そんな些細な抵抗を気にも止めず強引にねじ込まれた舌は、歯列に沿って口腔内を蹂躙し、逃げ惑うサクラの舌を絡めとった。
「ふぅ・・っ」
僅かに空いた隙間からサクラが酸素を取り込むと、代わりにお互いの交じり合った唾液が溢れ出し、小さな顎から首すじへと伝う。
その冷たさにサクラがビクリと身体を強張らせた時、ようやく口腔内を圧迫していた舌が引き抜かれた。
「はっ・・は・・は・・」
細切れに息をするたび、柔らかなふくらみが薄い生地を押し上げて上下する。
そこにカカシの右手がそっと触れた。
「や・だ!・・せんせぇ・・・」
「コワイ?」

   涙を溜めてコクコクと頷くサクラに同情の余地はあるけれど。

「ゴメンね?」

   止めてはあげられないよ。

硬直して動けないでいるサクラに手を伸ばし、左手一つで器用にシースルーのカーディガンを剥ぎ取ると、剥き出しの白い肌が現れる。
傷一つない象牙の肌。
ソコに初めて所有の証であるシルシを付ける喜びにカカシは酔っていた。
何度も場所を変えては口づけ、そのたびにキツク吸い上げられた肌は赤い跡を残す。
「・つッぅ・・」
形の良い眉をひそめて痛みに耐えるサクラは、これまで抱いてきたどの女よりも扇情的でカカシをそそった。
「・・・サクラ、心臓がバクバクいってる。」
口の端に笑みを溜め、自分を覗き込んでいるカカシを押し戻すようにサクラは両手に力を入れた。
「どう・して・・こんなこ・・と・・」
「好きだって言ったでショ、オレ。」
「でも・・」
「あのねぇ。家について来た時点でサクラに拒否権はないの。何されたって文句言えないよ?」
それでも・・・、と潤んだ瞳で訴えかけるサクラを無視してカカシは愛撫を再開した。

   ホンキで嫌悪しているなら、止める。
   でも、そうは見えないから・・・。

添えていた右手がキャミソールの上からそっと動き出す。
何度か手のひらを滑らせただけで、ブラなど付けていない双丘の中心にある蕾がプックリと硬くなった。
「ひゃ・・・あんッ・・」
服の上から口に含むと転がすように舐め、そっと甘噛みをする。その刺激に耐えかねたようにサクラは身体を仰け反らした。
「はぁんッ・・」


いつもは首が痛くなるほど見上げなければならないカカシの顔が今は見下ろす位置にあった。
しかも、自分のさほど大きくもない胸に顔を埋めているこの現状。

   今日こそは素顔を見てやる!って思ってて・・・
   ただそれだけだったのに。
   告白されたのはほんの数時間前で・・・
   でも、今は・・・

サクラの思考が展開の速さについていけず、ただただ流されるように時間が過ぎる。
気が付くとキャミソールの肩紐さえも滑り落とされ、何も纏わない素肌をカカシに晒していた。


「綺麗だ。」

   お世辞でもなく、本当に。
   もう絶対手放してなんかやんない・・・

カカシはスカートをたくし上げ、内腿に指を這わせるとそのままサクラの中心に触れる。
胸への愛撫だけでしっとりと湿っているのを確認すると嬉しそうに微笑んだ。
「あぁ・・・んっ・ふぅ・・」
サクラの細い腰に腕を回し軽く身体を浮かせ下着を引き降ろすと、ついでに身体に絡まったままのキャミソールも剥ぎ取る。
カカシは、怯えで拒まれないうちに素早く足を開かせてソコへ顔を落とした。
尖った舌先でサクラの芯を突付くように刺激しすると、サクラは今までにも増して可愛い声で鳴いた。
「んっ・・・はぁ・やぁッ」
「処女はココが一番感じるんだよ。膣よりも、ね。」
カカシの言葉はサクラの耳には届いていない。
ただ繰り返し与えられる快感を追いかけて、答えるように喘ぎ声を漏らす。
それが精一杯。


何気なく向けられた視線の先の大きな窓。
外はもう十分に暗くて、カーテンを引かないそこは室内の明かりにより鏡へと化していた。
だらしなく快楽に喘ぐ自分の姿が映っている。
大きく広げられた足の中心には青銀色の髪が上下に揺れ・・・サクラは恥辱に身体を振るわせた。

しかし、暫くするとそれすらも新たなる快感へと変わる・・・。



「も・・だ・め。」
カカシがサクラの中へ挿入していた指を2本に増やした時、絡み付いていた膣道が収縮を始めた。
「サクラ・・・サクラ・・・」
切なそうにサクラの名を何度も口にする。
指の動きを早めながら左手でサクラの頭を引き寄せ、口付けを交わすカカシは普段からは想像も出来ないほど色っぽく見えた。

「あんッ」
上りつめたサクラは一段と高い声をあげて意識を手放すと、くたりと力の抜けた小さな身体を支えながらカカシもふぅっと息を吐く。

   俺の見込んだとおり・・・感度はバツグン。
   気持ち良かったでショ、サクラちゃん?
   これからが本番だよ?
   だってオレまだ挿れてないし。
   ・・・楽しみだねぇ・・・早く瞳を覚ましてくれないかな?

   夜はこれからなんだから。



快楽の果てに気を失った愛しい少女を優しく抱き上げ、カカシは寝室へと足を運んだ。









2002.07.22
まゆ