天然微熱少女 2



真ん丸な満月が背中を照らし、その光に押されるようにサクラは塀から塀へと飛び移り駆けていた。

(なんだか忍者みたい……ホントに忍なんだけど)

任務でもないのに、つい作られた道を歩かずにこうしてしまう。忍であるがゆえなのか―――職業病なのか。
苦笑しながらもサクラは夜道を急いだ。



カカシの家には何度か行ったことがある。ナルトとサスケと三人で。
興味津々なのを隠すこともなく、家主を放ったらかしで家の中のあちこちを覗いたり触ったり。
カカシも「こらこら」と渋い顔をしながらもお茶を出してくれて、とても楽しい時間を過ごせた。
純粋な探究心で探るナルトを諌める振りをして覗いた部屋のあちこちには、一人暮らしであることを証明する物ばかりが目についた。
溜まった洗濯物、洗いっぱなしの食器(一人分の茶碗や箸など)、一つだけぽつんと置かれたベッド。
だからきっと、カカシ本人が言うように一人暮らしなのは間違いない筈だ。

(もし女の人を連れ込んでたら帰るしかないわね)

そりゃそうだ。もしそんなところへのこのこと行ったら、邪魔者以外の何者でもない。
そうであったとしても大人の男の人なのだし、当たり前のことだ。お邪魔虫はこっそり退散しよう。

そう考えながら、胸の奥が重くなるのを感じる。
いつも自分達の隊を叱咤しつつもDランクの任務に付き合ってくれるカカシ。部下ばかりにやらせることは決してなく、自分も一緒になって任務を遂行してくれる。
今日だって泥だらけになりながら草抜きしていた。
サボってグラビアなんか見ていたナルトに半分本気でヘッドロックかけてたくらいだから、きっと一生懸命やっていたに違いない(シカマルやキバ達と捨てられたものをまたも拾ってきていたらしい)。
そんな姿を常に見ているから、カカシがプライベートで女性と会っている、なんて光景を想像出来ない。
当たり前のことなのに。そんなことがあっても全然おかしなことなどないのに。
誰か綺麗な女性とキスをして、それ以上のことも。

何故か急に荷物が重くなったような気がして、トートバックを肩にかけ直す。
「それ以上のこと」が詰め込まれたものがこのバックの中に入っている。いずれは知らなければならない分野だ。

選択を誤ってはいない筈だ。
ビデオを見ると決めたことも。
カカシの家に行くと決めたことも。

もやもやした思いを吹っ切るように、タンッ、と最後の一歩を軽く跳躍してサクラは地面に降り立った。
目の前にはカカシの自宅。明かりはついている。
とりあえず留守である可能性は少ない。
呼び鈴を押そうとして、やめた。
もし見知らぬ女性が玄関口に立っていたら、何か気まずいだろうし。知っている人なら尚更だ。
少々躊躇ってから、サクラはそっとドアを開けた。

(玄関に女の人の履物があったら……帰ろう)

音もなく開くドアに少しほっとしながらも、注意深く隙間から視線を走らせた。
女性の履物らしきものは……と、

―――ポツン……。

落とした視線の先に一つ、水滴が落ちた。

「……?」

屋内なのに雨なわけはないし、水が落ちるようなものなど何も……。
不振に思いつつ、少しだけ玄関内に顔を差し入れた。
―――と、その刹那

「きゃあッ!?」

急に襟首を誰かに掴まれ、中へと引っ張り込まれた。
息苦しさを感じる暇もなく、ただされるがままに。

驚きに目を見開き、万が一の為にと懐に忍ばせていたクナイに手を伸ばす―――が、それよりも相手は早かった。
瞬時に武器所持を見抜いたその者は、即座にサクラの懐に手を潜らせクナイをいち早く掴み取り―――…

「―――…サクラ?」

命の危機か。
そんな状況下で、間抜けた声がすぐ耳元で聞こえた。
ほとんど後ろから抱き込むようにして自分の体を捕縛する相手を、そっと見上げる。


「カ、カシ…せんせぇ……?」

濡れてヘタった髪からポツリポツリと雫が落ち、コンクリートやサクラの肩を濡らす。
何故か服は下にズボンしか身に着けておらず、裸の上半身には無数の水滴がついている。

「び…びっくり、したぁ……」
「そりゃ……こっちの台詞でしょ。玄関前でうろつく気配があったかと思えば、サクラが」
「――んッ」

ポツリとサクラのうなじに水滴が落ち、その冷たさにサクラがぴくりと身動ぎした。

その拍子に肌にじかに当てられたクナイがわずかに擦れ、今度は小さく悲鳴をあげ
る。

「いた……ッ」
「あ、と! 悪い、サクラ!」

クナイを放り出し、カカシは躊躇なくサクラのワンピースを肩から下げた。

「ちょッ…!? カカシ先生!?」

幸か不幸か、今日はワンピースの下がブラトップ。いや、だからと言って見られていいものでもないのだけれど。
胸のすぐ下まで下げられたワンピースごと腕を掴まれているので、サクラも抵抗のしようがない。
口をぱくぱくとしているサクラを他所に、カカシはその肌に視線を滑らせている。
わずかに紅潮した胸元にうっすら赤い筋が走っていた。

「あー……ちょーっと血が出てるなー。でも、ま、舐めときゃ治る……」

スッ、と顔が寄せられるのに驚愕し、サクラの口からようやく制止の声が飛び出た。


「ちょ、まッ、カ…カシ、せんッせぇッ!?」
「ん?」

いつものぽんやりした表情のカカシの口元には常日頃隠している筈の口布がなく、代わりに赤く妙に艶かしい舌が覗いていた。
今まさに、サクラの肌に触れんと。

「…さ、流石に、コレ、は…ないと思う」

見上げたサクラの顔がこれ以上ないくらいに紅潮し、胸の傷さえ薄れそうな程肌が赤く染まっている。
一度瞬きした後、カカシが動きを止める。
ようやく自分の目の前にある光景と、それに対する自分の行動とが理解出来たらしい。

「……あ〜………、ごめーんね、サクラ?」
「い…ッ、いいから……! 早く、手を、離して……!」

ぱ、とすぐさまカカシの手が小さく万歳するように離れ、サクラは後ろを向くとそそ
くさと服を直した。

まさかこんなことになるとは。

カァッ、と頭の天辺まで真っ赤になった気分で、サクラは落ちたバックを慌てて拾い
上げて抱きしめた。
どうやって切り出したらいいのか。
ぐるぐると混乱する思考はどれだけ経っても答えを出しそうにない。

―――…このまま帰ってしまおうか。

「あー…えぇと、その…なんだ。茶でも飲むか」

頭をかきながらカカシが小さな背中に話しかける。

「たいしたもんないけど、煎茶くらいなら出せるぞ?」

後ろを向いたサクラの頭をポンポンと軽く叩いて、カカシは奥の部屋へと引っ込んでいった。
こっそりとその後姿を覗き見て、そっと頭に触れる。

(カカシ先生って……)

細い体つきをしているようだけれど、がっしりと引き締まった腕だった。
背中に触れた感触も、想像していたよりもずっと逞しくて。
頭に触れた手も大きくて……

(……ちょっと、カサカサしてた)

カカシの手がほんのわずか触れたところ、傷のついた辺りに服の上から触れて……驚いた。
布越しでも分るほどに、大きな鼓動を感じたのだ。
止まらない。耳の奥にさえ響く心臓の音が。

カカシの体が触れたせいで濡れた筈のワンピースはまったく冷たく感じかなかった。

それどころか、どんどん体温が上がっていくような気さえする。

「わ…たし……、どうしちゃったんだろ……」

誰に問うでもなく、サクラは一人呟いた。





水を満たしたヤカンをコンロにかけ、お茶の用意をするでもなくカカシはじっとそれを見つめていた。
ぼんやりしたままポリポリと頭をかき、ため息を吐く。

「あ〜……オレ、ヤバイかも」

誰に語りかけるでもなく、カカシも一人呟いていた。







あちう様より頂きました



数年の時を経て・・・復活(笑)
だめもとでお願いしたリレーのバトンをあちう様が快く受け取ってくださったおかげですよ、みなさん!
しかもカカシがなんかめっさカッコイイ・・・萌萌
さて、次はアタシの番なんですが・・・どうにかビデオ鑑賞にまでこぎつけたいと思いますー
あちうさん・・久々のエロシチュで盛り上がろうぜ(爆)

2006.05.18
まゆ