pussy cat 2






『サクラがカカシに愛想をつかせている。別れるのも時間の問題だ。ていうか、別れた。』

木の葉の里の若者の間に一晩で広まった噂。
情報の出処がいののだけにあながち嘘とも言い切れず、さらにカカシの顔についたキズ(実は歯型なのだが)は信憑性を高めた。



   子供で悪かったわね。
   どうせ、私が告白なんかしたからしょうがなく付き合ってくれてたんでしょう!
   そんな同情みたいなの、いらないわよ。
   こっちから願い下げだわッッ

落ち込んでいた気持ちもさっぱりと消えた。
「おかわり!」
空になったお茶碗を母へと突きつけ、逆の手でコップを掴みお茶を一気に流し込む。
「あらあら、今日はよく食べるのねぇ。ダイエットはどうしたのかしら?」
「それどころじゃないわ!気合いれないといけないんだから食べるの!!」
「大変な任務でも?」
「恋は戦いよッッ!!」
我が娘ながらワケがわからない。
返事に困って黙ったままご飯をよそったお茶碗を娘へかえす。
サクラは奪い取るようにそれを受け取ると、梅干を乗せてまたガツガツと食べ始めた。

   こうなったら絶対浮気してやるッッ!!
   ・・・どうせなら、サスケくんがいいんだけど・・・。








「サクラ。・・・ご飯粒、付いてるぞ。」

「え?」
サスケの声に振り返る。
「え・・・えぇ〜〜?!どこどこー!!」
一瞬ワケが解らないといった風に首を傾げたサクラだが、無言で右の頬を指差されてパニックになった。
焦って、てんで方向違いのところをなぞる少女にサスケが近づく。
すっと手が伸びてきて、頬に触れた。
「何やってんだ・・・ココ!」
「うえぁ・・・あ・・りが・と。」
「ぶっ。なんて声出してるんだよ。」
軽く噴出すサスケなどそうそう見られるものではない。
自分が晒した醜態も忘れてサクラは瞳を丸くした。
「・・・なんだよ?」
「な、なんでもない!」
「へんなヤツ。」

   サスケくんってこんなに優しかったっけ?

カカシばかり追いかけていたサクラにはサスケの変化など少しも気付いていなかった。
真っすぐと自分を見返してくる漆黒の瞳に、サクラのトクンと鼓動が跳ね上がる。
こんな感じは久しぶりだった。
自分気持ちが昔に戻ったみたいだと、サクラはにっこり微笑んだ。

程なくナルトも現れて、たわいのない会話が始まる。
昨日アレからどうした、とか、テレビドラマなどいろいろ。
そんななか、今日は割と早くにカカシは現れた。

「よ!今日は目覚まし時計が・・・」
「言い訳はもういいってば。それより任務任務!」
「・・お前ね。オレ、一応上司よ?」

上司とは思えない拗ねた言葉を返しながら、カカシは違和感を覚えた。
いつもはナルトと一緒に突っかかってくるサクラが今日は妙に大人しい。

   目も合わせてこない・・・?

不思議に思いながらもカカシは3人に今日の任務の内容を手早く説明する。
・・・その間もサクラは一度もこちらを見なかった。








今日の任務は『水口さん宅の兄弟の子守と庭の草抜き』。
子守とはいってもその内容は夏休みの宿題を見ることが含まれていたため、必然的に草抜きはナルトの担当となった。
「サクラちゃんはともかくサスケはズルイってば!!せんせぇー・・サスケと交代させてよ!」
暑さに耐え切れなくなったナルトが側にあった木を仰いで愚痴る。
木の上の木陰ではいつものようにカカシが愛読書をめくっていた。
「ん〜・・駄目。お前は教えるどころか一緒になって遊んじゃうデショ?」
「ケチ!カカシ先生のドケチ!!」
「はいはい、ドケチですよー。」
「ちぇっ!」
カカシの態度に無駄だと悟ったナルトが諦めて再び草をむしり始める。
ソレをチラリと一瞥して、カカシはサクラを盗み見た。
カカシの今いる木の上からは部屋の中が良く見える。
サクラもサスケも真面目に家庭教師の役目を果たしているようだ。
ふと昨日のことをまだ怒っているらしいサクラを思い出し、カカシは肩をすくめて苦笑する。

   サクラを好きだと思う気持ちは確かにある。
   だからこそ告白を受けとめて付き合ってるんだし。
   でもなぁ・・・
   何考えてるのかさっぱり解らないときも多いからねぇ。
   遊びなれた女のほうが随分と楽なのは事実なんだから・・しょうがないデショ。

飲み屋であろうとも食事であろうとも、誘われればひょこひょこと顔を出す。
そんなことは遊び好きのカカシには当然のことだ。
気持ちが入っていない、後腐れのない人とであれば例え共に夜を過ごしても浮気にはならい。
・・・カカシはそう思っていた。








「サクラ・・コレ。」
サスケが指差した巻物をサクラが顔を近づけて覗き込む。
サラサラと薄紅の髪が流れてサスケの頬にかかった。
同時に柑橘系のシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
「あ、コレね!コレはこっちの公式を使うの。そのほうが説明しやすいよ。」
アカデミーへ上がったばかりの男の子と2年生の女の子、その二人の夏休みの宿題をサスケとサクラで見ていた。
反応がないサスケに訝しげにサクラが問う。
「サスケくん?」
「え・・・あぁ!」
心地よいニオイに包まれ、ぼうっとしていたサスケはサクラの呼びかけに慌てて顔を上げた。
予想以上に近くにあったサクラの顔とぶつかる。
僅かだがサクラの唇が頬を掠めた。

   え?

咄嗟に手で頬に触れ、その頬が見る見るうちに赤く染まる。
きょとんとしていたサクラもサスケの思わぬ反応に体温の上昇を感じた。
お互いが赤い顔で見つめあう。
「あー!お兄ちゃん達アッチッチだー!!」
「付き合ってるの?」
「「ち、ちがーう!!」」
「ハモったぁ〜!!」
またしてもからかわれる要素を増やしたようで、サスケとサクラは頭を抱えた。








夕刻になり子供達の親が帰ってくる頃には3人は体力気力ともに使い果たしていた。
ナルトは炎天下での広い庭の草むしりによって。(それも一人で)
サスケとサクラは自分達より年下の子供からの冷やかしをかわしつつ宿題を終わらせることで。
ぐったりした3人にカカシののん気な声が降り注ぐ。
「ごくろーさん。任務終了〜。では、解散!」
「腹減った・・・オレってば死にそう。じゃーね、サクラちゃん!」
全然死にそうでもなんでもないナルトが真っ先に走り去った。
その方角には家ではなく一楽がある。
「ナルトのヤツ、今日もラーメンなの?」
座り込んでいたサクラは笑いながら重い腰を上げた。
「それにしても・・今日はもうホントに参ったなぁ。ね、サスケくん。」
「ああ。」
いつもはすぐに姿を消すはずのサスケの声がする。
その場から去りかけていたカカシが思わず立ち止まって振り返った。
「送ってく。」
「ん。ありがと。」
短い会話だが、何かいつもと違う。
僅かだった違和感は不信感となりカカシは低い声で名を呼んだ。
「・・・サクラ?」
「先生、さよーなら。報告書はちゃんと出すのよ。」
今日初めて視線を合わせてきたサクラは、軽く手を振ってあっさりとカカシに背を向けた。
そして数歩先に居るサスケと並ぶために小走りに駆け出す。

   なんだよ、ソレ・・・

長い薄紅の髪が左右に揺れるのを、カカシは呆然と見ていた。








「よぉ、カカシ。お前あの子と別れたんだって?」

突然肩を叩かれ、振り返る。
ソコには同じく任務を終了したばかりのアスマが立っていた。
「かなりの噂になってるぞ。ま、出処は俺の班のヤツだが。」
「・・・誰と誰が、別れたって?」
「お前と春野に決まってんだろ。」
「何でそんなことになってんの?」
「知るかよ。あ、何処行くんだ?飲みに行くんじゃなかったのか?自棄酒なら付き合うぞ。」
カカシはなんだか落ち着かない気持ちを紛らわすために酒酒屋へ向かっていた。
確かに、アスマが現れるまでは。
急に方向転換したカカシをアスマが不思議そうに目で追う。
「今日はヤメ。帰る。」
「へーへー。じゃあな。」
カカシの後姿が見えなくなった頃、ひょっこりと建物の影からいのが顔を出した。
こそこそとアスマに近寄って訊ねる。
「どぉ?アイツの様子は?」
「・・・あからさまに不機嫌だったな。」
「あ、そう。」
ニヤリと笑ういのにアスマが眉間にシワを寄せた。
「それより本当なのか?あいつ等が別れたって話は。」
「・・・近じかそうなるかもね〜。」
「オイオイ。」
「私のサクラを虐めたんだから・・それなりの報復はさせてもらうわ!」
いのの宣言にも似た言葉に、アスマはタバコを咥えたまま天を仰いだ。

   女って恐ろしい・・・















2003.08.18
まゆ