pussy cat 1 「お、今日は空いてるねぇ。」 久々のデートで訪れたカフェの入り口で、中を覗き込んだカカシの第一声である。 その一言にサクラの浮かれた気持ちが一気にしぼんだ。 「・・・今日は?」 オクターブ下がった声で聞き返され、カカシは『しまった』という顔をした。一瞬だけ。 その一瞬を目敏いサクラが見逃すはずもなく・・・ 「いや、・・・いつも混んでるって聞いてたから・・・」 「へぇー・・誰に聞いたの?ていうか、誰と来たのよッ!?ちなみに私はこのお店、ハジメテなんだけど。」 サクラは言い訳を始めたカカシに一歩近寄り、問い詰めた。 「だから・・その・・・・」 カカシの目は完全に泳いでしまっている。 合わせようともしない。 面布の上からポリポリと顎を掻く仕草に、サクラは大げさに溜息を吐いた。 「ま、ホラ・・なんだからさぁ、とにかく中に入らない?」 また丸め込むつもりなのだろうか? それとも知らぬ存ぜぬを主張するのだろうか、この男は。 肩に置いた手を小さな手がパシッと払いのける。 この時初めてカカシが目を見張った。 カカシの予想以上に目の前の小さな恋人は怒っているようだ。 唯一晒された群青の瞳がまじまじとサクラを見つめる。 「・・サクラぁ?」 不意にベストの裾をぐっと引き寄せられ、カカシがよろけた。 腰を折るカタチとなり、視線の高さが合う。 ガブッ 瞬間、激痛を感じたカカシが声にならない呻き声と共にその場に蹲った。 「不用意な言葉には気をつけることねッッ!」 サクラは人差し指を突きつけてそう叫ぶと、1ヶ月もの間指折り数え楽しみにしていたデートを自ら放り出し、身を翻して駆け出した。 カカシの恋人は自分なのだ。 誰がなんと言おうとも!! ・・・先生もそう思ってくれてるんじゃないの? なんで他の女の人と逢ったりするかな・・・ カカシと別れたその足で真っすぐ目指したのは自分の一番の理解者、蜜色の髪の少女。 今、サクラはいのの家へ上がり込んで汗を掻いたグラスを傾けている。 カランと氷が涼しげな音を立て、フレーバーティーがサクラの喉を潤した。 「やり返せばー?」 暫く黙って話を聞いていたいのがストローを咥えたまま言葉を発した。 ストローの先の水滴が飛んできたことに眉間にシワを寄せてサクラが聞き返す。 「え?何を?」 「何を・・って、浮気よ、浮気。アンタもすればいいのよ。そうすりゃーアイツも解るんじゃない?アンタの気持ちがさぁ・・」 アンタがそれほど惚れられてればの話だけど・・とは、声にしない。 やられてることをやり返す? そんな単純なこと、思いもつかなかった。 目から鱗とはこういうことを言うのだろう。 サクラは瞳をぱちくりさせた後、カカシにやきもちを焼かせらせられるなら悪魔に魂をも売り飛ばしそうな勢いでいのに詰め寄った。 「ね、いの!具体的にどうすればイイと思う?!」 「そうねぇ、まずは手当たり次第に話しまくる・・とか?」 「手当たり次第?」 「そうよー。声を掛けてくる男ども皆に愛想良く♪アンタさぁ、いつも邪険にしてるじゃない?」 「邪険・・・」 「してるでしょー?ま、一番効果的なのはサスケくんと仲良くしてることだとは思うけど。なんて言ったて片思いの相手だったわけだし。しかも初恋vvv」 「無理無理、それは絶対に無理ー!」 「何で?」 「だって、ホラ・・・私、何とも思われてなかったし。ていうか、未だにうるさがられてるじゃん。仲良くなんてしてくれないよぅ。」 「そうかな?」 単にテレてるだけに見えなくもないんだけど・・・ 案外上手くいったりして?! ・・・それはそれでイイかもね。 アタシは相手が誰であろうとサクラが幸せならばいいんだから。 サクラを虐めていいのは私だけなのッッ! これは私のお返しでもあるわよ・・ 覚悟しなさい、エロ上忍! 「とにかく、騙されたと思ってやってみなって!私も協力するからさ。」 「う、うん。」 詰め寄っていたのは自分の方だというのに、逆にいのの勢いに押されてサクラは曖昧に頷いた。 『手当たり次第に愛想良く』、か。 いのの家からの帰り道、サクラはおもむろに足元の小石を蹴飛ばし、はぁーっと大きく息を吐いた。 自分に言い寄ってくれるのはせいぜい2人。 ナルトとリー先輩だけだ。 私がそんなにモテるわけないじゃない!いのの馬鹿!! サクラは知らなかった。 カカシを敵に回すのが恐ろしくて二の足を踏んでいる男が沢山居たことを。 カカシしか見えていないばかりに自分が他の男からのアピールに全く気付いていなかったことを。 「サークラちゃーんvvv」 振り向くと見慣れた姿が駆けてくる。 「ナルトこそ何してんのよ、こんな所で。」 「オレねー、イルカ先生ん家行くトコだってばよ!晩メシにラーメン奢ってもらうの。」 「・・・アンタ、一応下忍なんだからね。もうイルカ先生にたかるのやめなさいよ。」 「大丈夫、大丈夫。イルカ先生ってばオレのこと大好きだからよぅ!」 「あ、そう。」 その羨ましいほどの自信は何処から来るのよ? 「じゃーね。イルカ先生にヨロシクー。」 「うん、また明日。サクラちゃん!」 ナルトと別れ、長く影を作り始めた帰り道をサクラはまた一人でとぼとぼと歩き始めた。 今日は1ヶ月も前から楽しみにしてたデートだったのに・・・ 着飾っている自分がいやに惨めに感じられる。 本来なら二人で・・カカシと歩いているはずの道だ。 サクラはもう何度目かになるかわからない溜息を吐き出した。 確かにカカシには啖呵を切って別れたが、それはその場の勢いだった。 いのの家で散々グチって少し冷静になれ、今更ながらあることに気付く。 追いかけきてもくれなかったな、先生・・・ 実際は自分がカカシにやきもちを焼かせるなど、そんなことは夢のまた夢。 本当に付き合っているのかさえ疑わしくなってきているのに、そんなこと出来る訳がない。 「だって、まだ子供デショ。」 がっくりとうな垂れていたサクラの耳に、突然低い声が響いた。 カカシ先生!! 聞き間違えるわけがないその声の主に、はっと顔を上げる。 瞳に飛び込んできたのは仲良さげに歩くカカシと紅だった。 サクラは咄嗟に路地へと身を隠した。 「そんなこと言って、手遅れになっても知らないんだから。」 「手遅れってなんだよ?」 「さあ?でも、そんなキズを残すところなんて立派に女じゃない。」 紅の白い指がカカシの右目の下をなぞる。 ソコには少しだけ血が滲んだカットバンが貼られていた。 「そんなことなーいよ。」 「はいはい。私は一応忠告したからね。」 話の内容からして自分のことだとすぐに解る。 飲み屋の入り口をくぐり店内へと二人が姿を消すまで、サクラは唇をかみ締めたまま見送っていた。 2003.08.18 まゆ |
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