一つ屋根の下で 3




カカシは利き手に納まった黒いケータイをじっと見つめていた。
それはサクラの手元にあるはずだったもの。
受付ではなく、綱手へ直接報告書を提出した際にカカシへと返却された。

会いたくない…てことなんだろうね。

溜息と共に握り締めた小さな高性能機械は僅かに悲鳴を上げ、その華奢な造りをアピールする。
自分の握力では簡単にスクラップだ。
カカシは一週間と一日前に使ったままの、乱れた寝具の上にケータイを放り投げた。

サクラに会って何を話す?

今回ほど集中できない任務は無かった。
何をしててもサクラの顔が浮かんでくる。
特に夜は酷く、会いたくなる衝動を抑えるのにかなり苦労した。
単独任務であったなら任務放棄というとんでもない行動をとったかもしれないと今でも思う。

だからこそ気がついた。
アレはきっかけに過ぎない。
むしろ気がつかないうちに溢れた自分の気持ち故の行動だったと。

ちゃんと伝えたい。

カカシは大きく息を吸い込んだ。
シーツの上にぽつんと置き去りにされているケータイに手を伸ばす。
言葉にしないと想いはきっと伝わらないだう。

このままじゃ、駄目デショ?

二つ折りのケータイを開け、カカシはサクラの名前の検索を始めた。












下着をむしり取られた。

下品に歪んだ笑みを滲ませて、男は細い鉄の棒のようなものをサクラの目の前に翳す。
その先端をぺろりと舐める仕草に、サクラの背筋に悪寒が走った。

「イイコにしてな…今、確かめてやるから」

空気に晒されたサクラの秘部へ男は何かを押し当て、じわりじわり確かめるように挿入する。
もちろんそれはたった今、突きつけられたばかりの棒だと容易に想像できた。

「ひぃ…っ」

押し入ってくるモノの冷たさにサクラは声にならない悲鳴をあげた。
先ほど食べたばかりの夕食が食道へと押し戻される感覚。

「くそッ!処女じゃないじゃないか!!」

抵抗なく入っていくソレに男が怒りを露に低い声で唸る。
どういうことだと睨みつけられたが、サクラは繰り返しこみ上げてくる嘔吐感に支配されたままで…大きな瞳からただ涙の雫を転がり落とす。

そんな時だった。
突如、流れ出す軽快なメロデイ。
男は慌てて音元を探し始めた。が、サクラにとってそれはとても耳になじんだ音。
自分のケータイの、着信音だ。
頭の上で男に押さえ込まれていた両手が不意に自由になる。
サクラは男が気付くよりいち早くポケットへ手を入れた。

電話が掛かってきた場合、ケータイはどのボタンを押しても繋がるようになっている。
そんな当たり前の機能にこれほど感謝したことは無い。

誰かわからないけど助けて!

サクラは手探りでボタンを押すと助けを呼ぼうと身を捩る。
しかし、そんなことで自分の上に圧し掛かっている男の身体から逃れれるわけが無く…結局のところサクラの口は再び男に覆われて、くぐもった声が漏れただけだ。
男は薄ら笑いを浮かべてサクラの手からケータイを取り上げた。

「残念だったな」

容赦なく電源を切られ、ケータイはベッドからも見えるキッチンの方へと投げられる。
カツンと床に転がる音がサクラの耳に届いた。

「たとえ電話の相手が怪しんで此処へ来ても…その頃には全てが終わってるさ」

サクラが射殺さんばかりに睨みつけても、男は動揺しない。
むしろ、逆に嬉しそうですらある。

「処女じゃないんだ。せいぜい派手に抵抗してオレを喜ばしてくれないか?泣き叫ぶ女の声は…」


ドォン!


男の声は大きな破壊音によってかき消された。
不意に起こった出来事に、男どころかサクラさえも今自分が置かれている状況を忘れて音のした方…隣の部屋との仕切りの壁を見やる。
ぽっかりと開いた穴。
もうもうと立つ埃混じりの煙の向こうに人影が見えた。

「先生!!」

サクラの声にカカシが顔を向けた。
大きく開かされた足。
そこに下着などあるはずも無く…しかも何かが突き立てられているのが目に入る。
カカシの頭の中は一瞬にして真っ白になった。

「…覚悟はいいか?」

視線をサクラから男に移したカカシがそんな台詞を呟いた時には、すでに派手な音と共に男は自らが侵入してきた窓際の壁へと叩きつけられていた。
振動でぱらぱらと割れたガラスが降りそそぐ。
カカシはとっさに頭をかばって丸まった男の顔を下から蹴り上げ、上を向かせた。

「…写輪眼の、カカシ…?」
「馴れ馴れしいよ、オマエ」

鷲掴みにした髪の毛を引っ張るようにして男の上体を起こすと、カカシは顔を近づけて囁いた。
男の呻き声だけが辺りに響く。

「簡単には殺さないから。すぐに楽になんて、してやんない……」













ちらりと小耳に挟んではいたが…よりによってサクラが被害に遭うとは。
アスマの奴、何やってんだよ!

ぴくりとも動かなくなった男にやっと興味を失ったカカシはアスマを探させるためにぱっくんを呼び出した。
主の一言二言で状況を理解した彼がすぐさま部屋を飛び出す。
残されたカカシはサクラに視線を向けた。
彼女は意識がはっきりしないようで、こちらを見ているがその瞳には何も映ってない。

…やりすぎたか?

男は縄紐で拘束される代わりに四肢をクナイで壁に縫い付けられていた。
すでに正常な精神を保っているかどうか甚だ怪しいがとりあえずは生きている…ハズだ。
サクラは自分の見せた残虐さに恐れを抱いたのかもしれない。
カカシが恐る恐る手を差し伸べた。
頬に触れた途端、色が戻った翡翠の瞳。
反射的に引いた手をサクラが掴み、掠れた声で有難うと言うのが聞こえた。
カカシは振り払われることの無かったその手でもう一度サクラの頬に触るとほっと息を吐く。
そして着ていたシャツを脱ぎ、サクラの頭から強引に被せた。





壁に開いた大きな穴をくぐり、サクラを抱きかかえたカカシは自分の部屋に移った。
ソファーとベッドを見比べて、とりあえずソファーの方へサクラを下ろし、手早く怪我が無いことを確認する。
乱れた服の上から着せたカカシの大きめのシャツはサクラの身体をきわどいラインで隠しており、カカシは僅かに目を伏せて視線を逸らした。

「…大丈夫?」
「うん」

強盗に襲われたのはサクラの責任ではない。
しかし、こんなことになる確率を上げているのは彼女の落ち度だ。

「そもそも此処はサクラが住むには適さないと思うんだけど?」

もっと良い場所はいくらでもあるだろうに。
…よりによってなんでこのアパートなんだ?

今更ながらの疑問だった。
自分には全く支障が無いため気が回らなかったがこの辺りはあまり治安が良くない。
繁華街に近いとはいえ大通りから筋二本分の裏通りだし、引ったくりの類ならその辺で簡単に見つけることが出来た。
サクラに限らず、冷静に考えれば女性が独りで住むような環境ではないことぐらい誰にだってすぐわかるというのに。

「…だって、ココ…家賃がとっても安いんだもの」

かなりの時間を空けてサクラの囁くような声が聞こえた。
意外な返答だった。
カカシは嫌な胸騒ぎを感じ、再び問いただすべく正面からサクラを見据える。

「サクラ。…ちゃんと説明しろ」





両親の死後、借金取りが現れたこと。
人の良い父親が何処の誰だかわからない人の保証人になっていたこと。
その借金返済に両親の保険金をあてても足りなかったこと。
家は差し押さえられたけれど、それで借金は全てチャラに出来たこと。
サクラはかいつまんで話をした。

「なんだよ、それ」

カカシが大きな溜息とともに髪をくしゃりと掻き上げた。
その横顔は険しく、自分にイラついているように見える。
怒られる!とサクラは反射的に身を竦めたが…次に聞こえてきたのは予想もしないカカシの、泣きそうに細い声だった。

「そんなことは早く言わなきゃ駄目デショ。オレはそんなに頼りないかな?」
「先生…居なかったモン」

言い訳のように呟いたサクラの言葉に、カカシは身を裂かれる思いがした。
確かに自分はサクラが一番大変なときに里を空けていたから。

八つ当たりだと自覚している。
それでもカカシは言わずにはいられなかった。

「探せば良かったんだ!追いかけて、どうにかしてって…言ってくれれば!」
「嫌よ!!」

同じぐらい強い口調でサクラの声が響く。

「先生はそうやって私を甘やかしてばかりなんだから!いつまで面倒を見るつもりなの!?」
「ずっと」
「…え?」
「今、決めた。オレはサクラが好きだから…だからずっと側にいる」
「そんな…何言ってんの、先生…?」

サクラの質問にあっさりと肯定の返事を告げたカカシを、サクラは驚きの瞳で見つめた。

「愛してるから側にいる」
「先…生……?」
「サクラが迷惑がったって絶対に離れない」

ソファーに座っている自分に視線を合わすように屈んだカカシが次第にぼやけてくる。
サクラは手の甲で目を擦ると、もう一度しっかりカカシを見た。
強気な台詞の割りには不安そうに揺れている瞳。
そんなカカシに手を伸ばし、サクラは首筋へと抱きついた。

「全然、迷惑なんかじゃ…ないよ!」











小出しで、まじゴメンナサイ…
言い訳させてもらえるなら言いますけども、休みの日は娘が背後でうろうろしててね…
続きが書けないんだよ、クソッッ
待たせた割りにしょぼくてスミマセン←謝ってばかりだ
ラブいのは書くの苦手かも。

2005.10.02
まゆ



2009.05.06 改訂
まゆ