櫻の季節に 3  age15




修行をつけてもらっているのはもちろん強くなるため。
でもそれ以外にも先生に会う理由はある。
とっても大事な理由だ。

ナルトが里に居ない今、先生はサスケくんとの思い出を共有出来る唯一の人だから・・・







暁の動きが活発になるにつれ、難度の高い任務が増える。
里には最低限の人数の上忍しか残っておらず、当然カカシも里を空けることが多くなった。
先生と会える時間は日増しに減っていく。
幻術の修行の回数も週に一度が隔週になり…今では月に一度あれば良い方だ。
今日だって二週間の長期任務を終えて里へ戻ってくるというから受付でずっと待っていたのに…結局会えないままサクラは一人家路についていた。

アカデミーの正門を抜けて木の葉通りを進む。
大きな橋を渡りきり、右に行けば繁華街で左に行けば五分足らずで自宅だ。
サクラが左に足を踏み出そうとしたとき、視界の端に青銀の髪の男を捕らえた。

「カカシ先生?」

慌てて首を右に振れば確かにカカシはそこに居た。
女の人と…一緒に。
いつか見た、長い黒髪の綺麗なヒトだ。
彼女が不自然にまで絡めた腕をカカシは嫌がりもせず、いつものように飄々と歩いていく。
耳の奥に心臓があるようにどくどくという音に支配され何も考えられない。
サクラはカカシに背を向けるとその場を離れるために一目散に駆け出した。







「いいんですか?」

夕顔が問いかける。
もちろんカカシもサクラに気付いていた。
カカシは遠ざかる気配を感じながら鬱陶しくなりつつある前髪を面倒臭そうにかき上げた。

「…あぁ。いい加減サクラも大人にならないといけないからね。頼られてばっかじゃ困るのよ」
「逆のくせに。先輩があの子から離れようとするのは彼女が大人になってきた、だからでしょう?」

夕顔の探るような眼差しにカカシは苦笑を滲ませた。
確かにその通りだ。
痩せすぎていた身体が女性特有の丸みを帯びてきて…。
おまけに。
何も付けていない筈のサクラからはすごくいい匂いがするのだ。
不意に起こる、抱きしめたくなる衝動。
それは「男」としてももので…「先生」としてのものではなかった。

普段上手く隠しているが、本来自分は短気で我侭な人間だ。
任務においてそれが押さえられているのはチームワークの大切さを教えてくれたオビトのおかげにすぎない。
恋愛に関しては歯止めとなるものがなく、他人の女でも強引に奪ったり飽きればすぐに捨てたりもしていた。…サクラに出会うまでは。
最初は初めて受け持った生徒(しかも女の子だ)ということで何かと気に掛けていただけなのに、いつの頃からか…サクラの一途にサスケを想う気持ちを知れば知るほど自分もサスケみたいにサクラから愛されたいと願うようになってしまったから、始末に負えない。

こっちを向いて欲しいと思う。
サクラに、はたけカカシという個人に興味を持ってもらいたい。
しかしその望みは薄く、このまま傍に居ればきっと近い将来有無を言わせず強引に奪ってしまうだろう。
サスケの話を聞き、相槌を打つ余裕もなくなってきたし……

それが任務を言い訳にカカシがサクラとの距離を置く理由だった。

「あの子のこと、本気なんだ」
「…年甲斐もなく馬鹿みたいだろ?」

カカシの言葉に、夕顔はそうですねと笑った。

「それでも先輩が羨ましいです」

彼女と結ばれることがないとしても…生きているのだから。
声を掛ければ返事が返ってくるのだから。

「夕顔…」

地を見つめる彼女の瞳に悲しみが溢れている。
夕顔もまた一途な女だった。
恋人だった男の仇はとったものの未だ過去に囚われたまま……

「今日は慰めてくださいね、先輩…」

夕顔の掠れた声にカカシはハヤテを思い出し、彼女の肩をそっと抱いた。








「どうしたんだい、サクラ。朝から全然修行に身が入ってないじゃないか」

調合を間違えた薬がフラスコの中で白い煙を吐いている。
完璧な失態だ。
サクラは下唇を噛んで俯いた。

「…すみません」
「もういい。今日は帰れ」
「綱手様!」
「帰るんだ、サクラ。頭を冷やして来い。何があったか知らないが明日もこうだと破門にするからな!」

有無を言わさない綱手の口調に、サクラは深々と頭を下げるより他は無かった。
バタンとドアの閉まる音がして綱手が部屋から出て行く。

「ハァー…」

サクラは簡素な備え付けの椅子に腰を下ろして大きな溜息を吐いた。

「先生のせいよ!」

先生が女の人と腕組んで歩いてるのが悪いの!
私ずっと待ってたのに…

思い出せば、またイライラと腹が立つ。
サクラはカカシにとって理不尽なその怒りの正体が嫉妬であることに気付かず、もう一つ大きな溜息を吐いた。









更にだらだらと続きます(爆)

2008.01.01
まゆ