櫻の季節に 2 age13 私だけは特別で、私だけがサスケくんを止められると思っていた。 そんなの勘違いもいいところだ。 彼は私にたった一言「ありがとう」と告げて…いなくなった。 「先生、ありがと!」 いきなり背中に飛びつかれて、カカシは箸で掴んでいた弁当の焼き鮭を床に落としてしまった。 サクラはメインのおかずを失って呆然とするカカシに気付かない。 「綱手様に私のこと売り込んでくれたでしょ…って、あれ…どうしたの?」 「どうしたのじゃないでしょーよ!オレのお昼ご飯がッ」 「いや、まだ食べれるかも」 床で泳ぐ切り身の鮭に気付き、サクラは引きつった笑顔でフォローを入れてみる。 「食・べ・ら・れ・ま・せ・ん」 「…ごめんなさい」 予想以上にしゅんとなったサクラを見てカカシは慌てた。 どういうわけか彼女が泣きそうだったり寂しそうだったりすると胸に石が詰まったように息苦しく感じるのだ。 重くなった空気を換えるようにカカシは明るい声で話題を切り替えた。 「で、サクラの話は何だっけ?」 「実は…綱手様に弟子にしてくれってお願いしてきたの」 「そっか。もちろんOKだったんだろ?」 「うん。先生のおかげでね!早速明日から修行よ」 「…なんか複雑だなぁ。サクラが成長していくのはすごく嬉しいけど、オレの手を離れていくのは寂しい」 「先生…」 確かに私が綱手様に弟子入りしてしまえばカカシ班は事実上解体したも同然だ。 ナルトも怪我が治り次第、自来也とまた修行の旅に出るというし…サクラはカカシの気持ちを考えず、はしゃいでしまったことを後悔した。 「で、でもね、先生にも今まで通り幻術を教えてもらいたいの」 空き時間に少しずつ教えてもらっていた幻術は最近やっと実践で使えるレベルになってきたところだった。 とはいっても、ナルトやサスケのように決め技となる大きな術はまだなく…出来ればオリジナルの術を開発したいと思っている。 「サクラ…医療忍術は片手間に習得できるものじゃない。両方いっぺんになんて無理だよ。ほら、二頭追うもの一頭得ずって言うだろ」 「でも…強くなりたいの。今度は私もナルトと一緒にサスケくんを迎えに行きたいのよ。頑張るから…お願い!」 上目遣いでカカシの顔色を伺えば、すごく困ったふうに眉毛が下がっていた。 こんな時、大抵カカシはサクラの言うことを聞いてくれる。 暫くの沈黙の後、先に折れたのはやはりカカシだった。 「わかった。じゃあ…週に一回だけ。日曜のお昼に」 日曜の昼下がり、サクラが自分を起こしに来るようになってから半年が経つ。 本当は演習場での待ち合わせだったのだが…相変わらずの遅刻癖にサクラが愛想をつかした結果だ。 まぁ…それはいいのだけれど、そのせいで気付いたことが一つある。 部屋でサクラと二人きりでいると必要以上に…なんていうか、その…彼女を意識してしまうのだ。 例えば無防備な笑顔を見れば抱きしめたくなるし、悪戯な風が薄紅の髪を揺らせば見え隠れする白いうなじにドキリとしたりする。 最近忙しすぎてあっちの方がご無沙汰のせいだと思いたかったがそうでもないらしい。 だって…サクラ以外の、どんな魅惑的な女を見たってそんな気持ちにはならないのだから。 そこから導き出される結論は…… 「先生…先生ったら!」 サクラの声にカカシは現実へ引き戻された。 此処は第二演習場で、しかも今はサクラと修行中、だ。 「あ、何?」 「何じゃないわよ。早く写輪眼出して!練習にならないでしょ」 「はいはい」 声は四方八方から反響して聞こえるが肝心のサクラは空気に溶けたかのように存在しない。 サクラの幻術で作った結界の中、カカシはぐるりと周囲を見渡した。 「そこだ」 写輪眼を発動したカカシが瞬く間にサクラ本体を見つけ出す。 投げた手裏剣の先の空間が歪み…手裏剣を吸い込んだ。と思えば、昼間だというのに闇が辺りを支配する。 サクラの気配もまた闇に溶けてしまった。 見事な術の移行に、カカシは思わず微笑んだ。 「…何笑ってんのよ」 「いや、成長したなって思ってさ」 相変わらず声だけのサクラにカカシは顔を引き締めた。 くだらない事を考えている場合じゃない。 多少本気を出さないと先生としての威厳を保てなくなりそうだ。 「いくよ」 写輪眼が空間の僅かな綻びを見つけ…カカシはクナイを構えると瞬時にそこへ飛び込んだ。 「カカシ先輩」 修行の合間、大木に背を預けて休息を取っていた二人の前に長い黒髪の女が現れた。 少しの気配も感じさせなかった突然の訪問者に警戒の眼差しを向けたサクラだが…カカシはそんなサクラを余所に、親しげに声を掛けた。 「夕顔じゃないか…元気だったか?」 「はい。ご無沙汰しています」 「どうした、こんな昼間に」 「任務の報告に寄っただけですよ。そうしたら懐かしい気配を感じたものだから」 「そうか。他の奴らはどうしてる?」 「…一ヶ月前、弥勒が殉死しました」 夕顔が目を伏せる。 「まだ、ですか?」 暫くの沈黙の後、苦しげに絞り出された彼女の質問にカカシもまた同様の声で答えた。 「…すまない」 「わかりました。でも…もうそんなに待てないことを覚えておいてください」 「あぁ」 女はちらりとサクラに視線を向けたがそのまま何も言わずに来たとき同様音もなく姿をかき消した。 「…誰?」 「んー…昔の仲間」 サクラの問いに、カカシが応えた。 言い難そうな様子から多分暗部の人なのだろうとサクラは勝手に想像する。 それにしても… 「カカシ先生にもあんな美人の知り合いがいるんだ」 「まぁね」 長い睫毛、大きな黒い瞳。 深紅の薔薇のようなふっくらとした赤い唇。 スレンダーな身体だったけど、出るところは出てて引っ込むべきところは引っ込んでる。 脚も細かったし…確かに綺麗な人だよね。 私もそれは認めるけどさ。 先生が美人という言葉を否定しなかった。 それがサクラは何となく気に入らない。 まぁねって…彼氏でもないくせに。 「サクラ?」 いきなり黙ってしまったサクラの顔をカカシが下から覗き込む。 そのあまりの近さにサクラは思わずカカシを突き飛ばした。 「…何すんの」 「だ、だって!」 息が触れそうだったもん。 「なによ、デレデレしちゃってさ。エロ親父!」 「え、えろオヤジ!?」 「今日はもう帰る。修行に付き合ってくれてありがと、カカシ先生!」 サクラは立ち上がりお尻の砂を払うと、捨て台詞のような言葉を残して演習場の出口へ向かって走り出した。 突然の出来事にカカシはただその背中を見つめて…ぼそりと呟いた。 「なんだ、あれ?」 だらだらと続きます(爆) 2008.01.01 まゆ |
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