櫻の季節に 1 age12 十二歳の春は、最高で最悪だった。 何が最高で何が最悪だったかだなんて…そんなの決まってる。 サスケくんと同じ班になれたことが「最高」で、ナルトっていうおまけが付いてきたことが「最悪」。 でも、その最悪のナルトにさえ敵わない私は超最悪……だよねぇ。 その年、アカデミーを卒業出来たのは二十七人。 元担任のイルカがそれを三人ずつの班に分けた。 すぐに下忍として活躍出来るものと思っていた私達は更なる篩いにかけられ…結局のところ合格したのはたったの九人だけ。 その中に私が残ることが出来たのはサスケくんのおかげだった。 あの時サスケくんがナルトにお弁当を分けてあげたから…だから私もそうした。 ナルトのことを考えて取った行動ではない。 サスケくんの、その心意気に感動して取った行動だもの。 私の在籍する第七班には「はたけカカシ」と名乗る上忍が上司として就いた。 第一印象は何を考えているかわからない怪しい男。 だけど実力だけは超一流で…私はそのスキルが羨ましくてしょうがなかった。 「も…やだ…助けてよ、サスケくん」 雨は酷くなる一方で、おまけにさっき近くの木に落雷したばかりだ。 これでは動きようがない。 サクラは偶然見つけた洞窟の中から地面をはねる雨粒を見つめて呟いた。 「まったく。こんな時でも呼ぶのはサスケなのね」 洞窟の入り口を覆う蔓草を分け、姿を現したのはカカシだった。 しかしサクラは咄嗟に身体を強張らせ…それを抗議するかのように腹の辺りでみゃあと子猫が鳴く。 「何だよ…本当にサスケじゃなきゃ駄目なのか?」 苦笑いしながら服の雫を払う。 最後に濡れた髪をかき上げながらカカシはなおも動かないサクラに近づいた。 「お、見つけたのか。お手柄!」 体育座りのサクラの膝小僧に顎を乗せるようにして白い子猫が顔を出している。 首には赤いリボンと小さな鈴が一つ。 今回の任務、迷子のペット探しのターゲットに間違いない。 「よく頑張ったな、サクラ。……サクラ?」 頭を撫でようとカカシが伸ばした手はサクラに届く前に宙で払い落とされた。 「そんなこと、全然思ってないくせに!また迷惑かけてって思ってるくせに!!」 優しくされればされるほどそれは刃となってサクラに突き刺さった。 チームワークを乱し、一人で突っ走った挙句こんな所で動けずにいる自分に腹が立つ。 「どうした、サクラ…」 「どうせ私は七班のお荷物よ!」 「…二人がそう言った?」 「言わないけど絶対そう思ってるもん。今日だってきっと…」 サクラがこの場から動けなかったのは天候のせいだけじゃない。 子猫を捕まえた時に足を挫いたようで、歩くたびにじんじんと痛みが響くのだ。 身体を負傷しており尚且つ天候が悪い。 こんな時どうするべきかはアカデミーで頭に叩き込まれており、サクラはその通りに動かず救援を待っていた。 昼間のはずなのに厚い雨雲のせいで薄暗く、わずかな光も差し込まない洞窟の中に一人きり。 心細さはサクラの中の闇を増大させた。 一生懸命隠していた気持ちが溢れ出る。 才能なんて欠片もない…努力だけではどうにもならない高い壁。 そして、ナルトとサスケはその先を歩いているという事実に涙が零れた。 このままでは二人に置いていかれる。 置いていかれる…私だけ… 悔しい 惨めだ 切ない …憎い。 ぐるぐると渦巻く負の感情を持て余してサクラはカカシに抱きついた。 二人の身体の間に挟まった子猫が不満の声を漏らしたが、サクラは抱きつく腕の力を緩めなかった。 「大丈夫だよ」 カカシの、低い声が耳元で囁く。 「…気休めはやめてよ。全然大丈夫なんかじゃないの、自分でもわかってるんだから」 「んー…いや、気休めじゃなくてさ。この間少しばかり幻術教えたデショ?その時思ったんだよねぇ。サクラには幻術の才能、あるよ」 「え?ウソ?!」 「ホント。今度サクラには基礎からちゃんと教えてあげる。もちろんあの二人には内緒でね。だから…」 大丈夫だよとまた囁いてカカシが笑った。 「諦めればそこで終わり。諦めない限り可能性は低くても決してゼロじゃないだろ?今は無理でもいつか必ず追いつける」 「…うん」 「じゃあ帰るか。…依頼人の猫が死んじゃう前に」 サクラが思い出したように身体を離せば、その隙間からころりと子猫が転がり落ちてきた。 みゃうと鳴く声が何処となく弱々しい。 「やだ!どうしよう?!」 「ははは。すぐに元気になるよ。猫も…サクラもね」 一度は払いのけた手を今度は素直に受け入れる。 カカシの大きな手はサクラの頭を撫でた後、背中に回り…サクラを抱き上げた。 「猫、落とすなよ」 そう言うなりカカシは洞窟の外に出た。 雨はいつの間にか上がっている。 サクラには雲の切れ間から差す太陽が希望の光のように見え…… 「やっと笑った」 「…八つ当たりしてごめんなさい」 「いいよ。拗ねたサクラも可愛かったから」 何故かかっと顔が熱くなる。 サクラはカカシの視線から顔を反らすと素っ気無く呟いた。 「カカシ先生って…ちゃんと先生だったのね」 「ちゃんとは余計だよ、サクラ」 不安は常に付きまとう。 消えてなくなったりはしない。 カカシの腕の中で揺られながら…それでもサクラは二人の背中を見失わないようにしっかりと前を見据えて歩いていこうと思った。 「先生…」 「んー?」 「私、頑張るね」 この日、サクラを応援するようにテレビの中のお天気お姉さんが梅雨明けを宣言した。 『桜月』用に書いていたネタの一つです(笑) えぇ、ちゃんとエロ以外のネタだって用意してたんです! 2008.01.01 まゆ |
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