砂上の楼閣 3






「火影様の用事、もう終わった?」
図書室の廊下側の窓からひょっこりと顔を出したサクラが二人に笑顔を見せた。
少し伸び始めた髪をかき上げる仕草が得も言わず色気を漂わせている。
ナルトもとよりサスケまでもが頬を染めたことに気付かず、サクラは窓から身を乗り出して二人に呼びかけた。
「ねぇ、お腹減らない?帰りに何か食べに行こうよ!」
突っ立ったままの二人からは返事がない。
いつもならすぐに誘いに乗ってくるナルトでさえ無言のままだった。
サクラが訝しげに眉を顰める。
その様子にいち早く気付いたサスケが慌てて隣にあるナルトの足を踏みつけた。
「痛てぇ!何すんだよ、サスケッ!」
「・・・・いつも通りにしてろ。ウスラトンカチ」
小声で囁かれてはっとする。
サスケの視線の先を辿れば心配顔のサクラが目に入った。
「何かあったの?」
大好きなサクラの、幾分トーンの落ちた声が耳に届く。
「な、なんでもねーってばよ!ハラが減りすぎてぼーっとしてた。こういう時は一楽のラーメンが一番ってね!」
「えー・・・またラーメン?アンタ、そればっかりじゃない!」
ナルトの大げさなほど大きな声に、サクラもつられて返事を返す。
「サクラ」
「何?サスケくん」
「・・・早く荷物をまとめて来い」
「うん!」
サスケの言葉にサクラは頭を引っ込めると、ガタガタと音をたてながら立て付けの悪い窓を力任せに閉めた。



サクラが視界から消え、二人はまた宙を睨む。
それぞれに先ほどの綱手の言葉を思い出していた。

『春野サクラの護衛を頼む。もちろん、本人にはくれぐれも内密に。被害者を調べてわかったことなんだが、春野は犯人の好みそのものみたいでね。犯人がサクラの存在に気付いていなければよいが・・・気付かれれば間違いなく襲われる。護衛とはそうならないための用心だと思ってくれ』

サスケは確かめるように服の上から胸を押さえる。
綱手に渡された笛が、そこには隠されていた。

『特殊な笛だ。それで暗部が呼べるから・・・もし犯人が現れたらすぐに吹きな。間違っても戦闘なんかするんじゃないよ』

・・・とは、言われても。
服ごと笛を握り締めると、その頼りなさに溜息が漏れる。
あの被害者の少女達の写真を見てしまった後では尚更落ち着かなかった。

   サクラが、ああなるかもしれないんだぞ?
   冗談じゃない!

『カカシも上忍だからな』

火影の部屋を出る直前、サスケにだけ耳打ちされた綱手の言葉。

   深読みを・・・するべきなのだろうか?
   師を疑えと?

「ナルト、サスケくん、お待たせ!」
図書室から出てきたサクラが小さな手提げ鞄を抱えて走り寄ってくる。
「ナルト、気取られるなよ」
「・・・わかってるってば」
ナルトとサスケは顔を見合わせて頷いた。

犯人が捕まるまで、とりあえずオレ達でサクラを守り抜くしかないのだ。

カカシにも秘密のうちに。




















「おい、カカシ。あの子達は・・・お前のところの生徒じゃないか?」

ガイの言葉に振り返ると、そこには確かに自分の教え子達の姿があった。
三人とも皆揃っている。
自分自身の任務のため(とは言っても例のパトロールなのだが)今日はアカデミーの図書室で自習を言い渡したはずなのに・・・目を放すとすぐこれだ。
「・・・そうだけど。」
「どうやら三人で一楽へ行くようだぞ?仲の良いことは美しいことだな!」
カカシはすぐ隣でガイが熱弁を振うのを無視して食い入るように三人を見つめていた。
何かが変だ。
サクラを挟んで歩くナルトとサスケ、この二人の雰囲気が妙に気になる。
カカシは首の後ろにぴりぴりと電気が走るような違和感を覚え、軽く舌打ちした。
第六感というべきか・・・昔からこれを感じる時はろくなことがない。
「ガイ・・・」
「交代時間まであと十五分か。どうせその辺をひと回りしたら終わりだしな。後は私がやっておこう」
ガイが気を利かしてカカシを促す。
「恩に着る」
「いいさ。たまにはメシを食いながらコミュニケーションをとるのも師として大切なことだ!」
ちゃんと奢ってやれよ、とカカシの肩を叩いてからガイの気配が消える。
カカシは暫く動かず瞳を閉じて、ガイが完全に自分から離れたことを確認してから三人の姿を追った。



「サクラちゃんは何にする?」
「アンタは?」
「味噌だってばよ!」
「私は・・・そうね、サスケくんと一緒がいいな!」
そう言いながらサスケの腕に絡み付こうとするサクラの後姿が見えた。
ナルトとサクラのなんら変わりないいつもの会話が聞こえてくる。
カカシは三人に気付かれないよう建物の影に身を潜めて、殺気だけをちらつかせた。
ほんの微量の殺気。
現にサクラは気付いていない。にも関わらず、サクラの脇を固める二人の少年は瞬時にこちらを振り向いた。
サスケに至っては足に装着してある手裏剣ホルダーに手を突っ込み、その指に手裏剣を絡ませてさえいる。

   なるほど、ね。
   そういうことか。

   カカシは納得して殺気を絶つ。
   綱手の差し金に違いない。
   となると・・・バレたかな?


カカシは三人が一楽の暖簾をくぐるのを確認した後、声を掛けることなく静かにその場を離れた。







to be continue








2004.06.27
まゆ