大人のオモチャ.....sleepig beauty......






一日目。担当:猿飛アスマ♂27歳独身 職業:上忍師



 アスマは嵐のような展開に、胃が痛むのを感じながら一際大きな溜め息を吐いた。

 空は青い。
(あぁ…。いい天気だな、畜生)

 こんなにも良い天気の日で、しかも任務も非番で、ガキ共のお守からも解放されたというのに、何故今自分はこんなにも最低な−それこそ人生の中でも上位に食い込む程の−気分で窓の外を睨んでいるのだろう。

 部屋の中は恐ろしい程の静寂で、ともすれば脳内での思考すら音となって聞こえてしまうのでは無いかと錯覚する程だった。

 入り口辺りの壁にもたれ掛るようにしてこちらを伺っていた紅が、まるで本当にアスマの心の声を聞き付けたかのように絶妙のタイミングで口を開く。

 直射日光の当たらない、冷んやりとしたどこか無機質な部屋に、紅の冷めた声は一層の極寒をアスマに感じさせるに十分だった。


「丁度良い機会じゃない。献身的に介護して上げなさいよ」

 型の良い唇をゆるりと笑みの形に結んで、紅は続ける。しかしその声と瞳には明らかに異質な光りが見て取れた。

「手取り足取り、腰取り。何ならナニも取って献身的にね」
「はい?」

「好きでしょ?お医者さんゴッコ」
 躊躇いも無くとんでもない事を口にするこの美女は、瞬き一つしないでサラリと言った。

「……く、紅…さん?」
「好きでしょ?」

 氷点下に達する程の冷えた声と口元にだけ貼付いた偽者の笑顔に、アスマは全身の毛穴が泡立つのを確かに感じた。そのお陰で−という言い方には語弊があるかもしれないが−彼の自慢の髭が通常よりも5度程上を向いていたかもしれない。ついでに睫なんかも3度程上を向いていたなら、その時の彼はすこぶる可愛らしい顔をしていたかもしれない。しかし今はそんな事はどうでもよかった。

 問題は、紅のまるで『アスマは里一番の変態だ』とでも言うようなこの台詞だ。しかし当のアスマは彼女のその言葉に微妙にではあったが心当たりが無いわけでも無かった。だからこそ分が悪い。


「好きよね?」

 違っても「はい」と言わせる程の気迫で、紅はもう一度言った。

 新米の上忍であるはずの紅は、いまやベテランの暗部の拷問尋問部隊のようだ。下手をすればイビキなど目ではないのでは無いかと、アスマは痛む胃を押さえつつぼんやりと思った。



「ちょっと待て、紅!お前あの時の事を言ってるんなら…」

「誤っても無駄だし、弁解なんてそれこそ許さないわよ?」
 先回りだ。

 最後まで言う事さえもはや許されない。

 大体、問題になっている『お医者さんゴッコ』疑惑は元を正せばアスマに非があるので、彼もその事でご立腹の紅に強くは出られないのが事実だった。
 …いつも尻に敷かれているではないか、と言う事実は今回は黙認する事とする。

(って言うか、あれも愛情表現だっつーの…)

 夜の営みの際、ほんの少しだけいつもと違う、何かスリリングな事をしてみたくなったアスマが、何処かのイカガワシイ店で購入したグッズで紅と楽しもうとしただけだ。そう、カワイラシイ純粋な好奇心。
 しかし、彼女はそれがお気に召さなかったようで…。

(一番ヤバかったのは注射器型のあれで……アレを。こう………)

 完全に空回りしたお互いの言い分は青い空に溶けるようにして消えていった。否、消えたのはアスマ一人の言い分だった。紅は尚も有無を言わさぬ怒りのチャクラを微塵も隠さぬまま、抑揚の無い声で続ける。


「カカシは今意識無いんだから何でもあんたの好きな事させてくれるわよ?こんな機会滅多に無いわよ?光栄に思いなさいね。普通なら雷切で真っ二つにされるんだから」

「オイ。話しが見えねぇ…」

「あら?そのイカツイ頭蓋骨の中にあるのはやっぱり筋肉だったの?」
 雷切で真っ二つにされる前に、紅の言葉で真っ二つにされた。

「………………どうぞ、続けてください…………」

 項垂れて小さな声でそう呟くと、ふいに目の前に紅が何かを差し出した。

 窓の外の太陽の光りを鈍く反射させるそれを、一瞬アスマは何なのか理解できずに直視した。

 …直視する事約十秒。

 その直後、まるでビデオの画面の一時停止を解除したかのように、アスマは後ろへ大きく飛び退きながら何とも間抜けな声で「うぉ!」と叫んだ。

 飛び退いた勢いで行儀悪く腰掛けていたイスから受け身も取らず落下して、情けなくも尾髄骨を直撃させてしまう。
 あまりの激痛に声も出せずに蹲る姿はとても上忍には見えないだろう。


「…なんだよ!そんなもんどっから出して来た!?」

「あんなに好きそうだったから、あんたに使ってあげようと思って取ってたのよ」

 紅は白く長い手に持ったソレをアスマに押し付けると、ニッコリを微笑んだ。今度はちょっと好奇心が含まれるような、そんな笑顔。

 余計恐い…。

「だって、意識無くても死んでるわけじゃないんだから、出るもんは出るわよね?」

「……………そうですね……?」

 紅が差し出したのはいつぞやの注射器型の妙な機具。それをアスマの鼻先でゆらゆらと揺らしてみたり、無表情でアスマの下半身へ押し付けてみたりしながら、紅は最後には飽きたようにソレをぽいっとアスマの掌に投げてよこした。

「だから、ハイ」
「はい……。じゃねーよ!出来るか!んな事」

「じゃぁどーすんのよ?」

「何かあんだろ…?例えば…………例えば、尿瓶とか!」

「ああ、それはそれでイイわね」
「あ"?」

「正当派なお医者さんゴッコって感じで」
「オイ…」

 紅は今度は尿瓶をアスマの鼻先に押し付けて、もう一度ニッコリと笑った。

「だからおめぇーこんなもんどっから………」
「下らない詮索はいらないわ」

 ピシャリと言い捨てられて、アスマは今度こそ本気で項垂れてそれを受け取った。

 外の太陽の光りを受けて、それはキラリと無気味に輝く。クナイの輝きも、毒仕込みの千本の輝きも、こんなに恐ろしいと感じた事が果たしてあっただろうか?-----否、無い。
 アスマは背筋がゾクリと震えるのを確かに感じながら、気力だけでそれを無視した。

「冗談はさておき。死活問題なんだからちゃんと世話してあげなさいよ?」

「医療班とこ連れてけばいいじゃねーかよ」

「オロチ丸の一件以来病院も医療班の人手もベッドも不足してるのよ。まぁ、私が今から聞いて来てあげるからそれまででも面倒見てなさいって事よ」

(だったら最初からそう言えよ!)

 アスマはドップリと疲れるのを感じたまま、火の付いていないタバコを一本くわえた。

 紅が僅かに鼻孔をくすぐる女の香りを残して部屋を去る。
 ゆっくりと閉められる扉の音に耳を傾けて、気配が完全に消えた事を確認すると、アスマは再び大きな溜め息を吐いて、ベッドの上で死んだように眠るカカシに視線を移した。

「お・き・ろ・コラ!」
 忌々し気に、足でさらりとした珍しい銀の髪を蹴り飛ばすが、一向に目覚める気配は無い。
 蹴り飛ばした拍子に、まだ若干濡れたその髪の感触に、思い出したようにアスマは乱暴にタバコに火を付けた。
(そういやぁ、こいつ沈没したんだっけな?)

 元々カカシに指示された事で奴等の後を追った事は事実だったが、深追いした事で窮地事実は否定出来ない。だからアスマとて多少の罪悪感は抱えてはいたのだ。
(濡れたままの格好じゃいくらバカでも風邪くらい引くかねぇ?このままじゃ冷えるだろうし…)

「ん?冷える?」

 嫌な予感とは得てして当たるものである。

 グッタリと横たわるカカシが短くブルリと震えた。
 アスマはそれを確認すると血の気が引くのを感じた。
 知っている。これを自分は良く知っている。
「待て!ここですんな!」
 子供か犬猫にでも言い聞かせるような勢いで叫ぶと、アスマはカカシの趣味の悪い掛け布団を勢い良く剥がした。そしてげんなりと肩を落とす。

-----案の定カカシはガマンしている!

 少し内股ギ
ミのそれを見て、アスマは確信した。
(漏らされたらもっと面倒臭ぇからな………)
「オイ、カカシ。感謝しろよ?今日だけだぞ?」
 そう言うと、アスマは紅がどこからか持って来た尿瓶を構えてベッドの横にしゃがんだ。
 ゴクリと咽を鳴らしてゆっくりとカカシのズボンへと手をかける。
 オレはそういう趣味はねぇ!と心で何度も唱えながら、ぎこちない手付きで脱がせた。
(コイツが女ならそりゃ〜喜んで下の世話でも何でもしてやんのによぉ。あぁ面倒臭ぇ)
 そんな不謹慎な事を考えながら、ズボンを脱がし終えると、そのし下から現れたカカシの異様に白い足にゴクリと唾を飲む。
(………コイツ。マジかよ!?)
 アスマは自分はガタイは良い方だと自負していた。
 男らしい胸毛も臑毛も男性ホルモンのシンボルだと思っていた。
 しかしカカシはどうだろう?確かに微弱な臑毛−アスマとの比較−が生えているが、それはじっくり見ないと分からない。
「臑気も白髪かよ」
 正確には白髪では無く銀髪だが…。素肌の白さも相まって、それはまるで少年か少女の足のようだった。

(だからって何見掘れてんだよ!オレ!)
 自分の中で自分にツッコミを入れつつ、アスマは二・三度頭を左右に振って、最後に大きく深呼吸をした。
 取りあえず今は遊んでいる場合でもボケている場合でも、ましてや一人ツッコミをしている場合でも無い。
 覚悟を決めたようにカカシの下着の中の目的物に手をかけようとした矢先、アスマは気付いた。
 見た目は普通のトランクス。しかし問題は色だ。

「…………オレンジかよ………」

 コイツの趣味の悪さはどうにもなんねーか、と白けた目を向けた時、又気付いた。
 カカシのトランクスの左腿の部分に小さく赤い糸で刺繍がしてある。

-----イチャイチャバイオレンス 限定版。

「…………ノベルティかよ………」

 18禁小説ながら爆発的ヒットとなった前作・イチャイチャパラダイスの続編のバイオレンス編。それの初回限定版はノベルティが豪華だから何がなんでも手に入れないといけないとカカシが言っていたな、とアスマはあらためて頭痛を覚えた。
 他の蔵書と違い、特別待遇でカカシの枕元に並ぶそのイカ
ガワシイ本の表紙を見て、アスマはその確信を強めた。
 オレンジだ。
「本物の阿呆か、お前は」
 もはや躊躇いも無くその趣味の悪いトランクスに手をかける。勢いよく、まるで剥がすように脱がせると、アスマは再度ガックリと肩を落とした。

「…………バックプリントかよ………」

 後ろに男と女がこれでもかとイチャチャしている姿が鮮明にプリントされている。これはもはや大ファンだとか、趣味が悪いだとかいうレベルの問題では無かった。
「…………このまま逝っちまえ…阿呆が」
 派手なオレンジ色のそれを床に叩き付けた瞬間、カカシの体が再びブルリと震えた。それを見て、アスマは重大な事を思い出す。
(ヤベェ!)
 勢い良く剥がしたものの、だからと言ってそれをダイレクトに掴む気にはなれない。しかし今はビニール手袋など探している暇も無い。カカシの明らかに我慢しているような内股は、先程のそれよりも確実に角度を増している。そして、ブルリと震える感覚が短くなりつつあった。
「畜生。面倒臭ぇ奴!」
 アスマはきつく両目を閉ざして、そして目蓋
の隙間を力を緩めないまま少しだけ開いてみた。
 ぼんやりと見えるカカシのそれを、ビクビクと躊躇う己の右手を意識の中で叱咤しつつ中指と親指だけで、まるで汚物を掴むようにして摘まみ上げる。
 力が入り過ぎて、アスマの小指は綺麗に立っていた。
「頼む、もうちょっと待てよ!いいな?」
 左手で先程紅から受け取った−と言うか押し付けられた−尿瓶をそっと右手に近付ける。そして震える指先で、問題のブツをそれへと導く事に成功した。
 刹那、恐れていた音が軽快に響き渡る。

(ま、間に合った……………)

 脱力のあまりその場にバタリと倒れ込むと、アスマは鼻先に掠めるイカガワシイイラスト入りの趣味の悪いトランクスに短い悲鳴をあげた。
「畜生。何かしてやらんと割りに合わねーぞ?」

 ガイは飛び込んで来たアオバの言葉に駆け出したサスケを追って行ってしまった。当のアオバ本人は短く舌打ちした後、御意見番に報告してくると言ってあっさりと出て行った。そして、紅までも…。
(何でオレだけ貧乏籤なんだよ)
 窓辺に置かれている−正しくは紅
に渡されたソレをアスマがそこに置いたのだが−注射器型のソレを見て、アスマは閃いた。
 面倒を押し付けられているだけなんてまっぴらだ。
 タバコの長く成った灰がフローリングにポタリと落下した事も気にとめず満面の笑みを浮かべると、アスマはいそいそと腰のポーチからソレを取り出した。

「フフフ。感謝しろよ?カカシ。オレがお前にもっと素敵なオマケを贈呈してやる!」
 そう言うとアスマは持っていたそれをバサリと広げた。
 中央が妙に長い。
「この前、注射器とかを買った店でオマケにくれたもんだ。オレじゃちょっとサイズが合わねーがお前にならピッタリだ!」
 笑いを堪える事すら出来ぬまま、アスマは一呼吸でそう告げると、辛抱溜まらんとばかりにベッドを大きく叩いて笑い出した。
 心の中ではやり過ぎか?と思いつつも、しかし一人でこんな最低な仕事をさせられた事を思うと、このくらい安いものだろう。
 アスマはオマケでもらった、中央が異様に長い通称『ゾウさんパンツ』をカカシに優しく履かせてやる。
 装着が完了したその姿を見て、
アスマは再び吹き出した。

「悪く思うなよ?」

 ニヤリと笑みを称えて、アスマは晴れ晴れとした気持ちを隠そうともせぬまま、鼻歌混じりにカカシの部屋を後にした。
















作者からの一言

上記の注射器型血のアレであれをどうしようとしていたのかなどの質問には一切お答えできません。
ちなみに、速川の性生活もこんな無駄に充実したもんではございません(爆笑)

っていうか、要するに無駄にシモネタですいませんでした!
あ、でもこれは表ですよね?表でいけますよね?


ってなわけでまゆさんにバトンターッチ!!(書き逃げ?)