lolipop 4 「・・・は・・たけサクラと申します。宜しくお願いします」 春野、と言いかけて踏み止まる。 三年二組の教室で担任の海野に紹介された後、サクラは早口でそう言ってぺこりと頭を下げた。 カカシの就職先である青葉学院は小中高とエスカレーター式の学校だった。 勉学、スポーツ共に名を馳せている、歴史ある名門校だ。 その高等部でカカシは数学を担当するらしい。 別にそのことに関しては何の異存もないのだが・・・自分まで転入することになるとは思いもよらなかった。 ケンブリッジ大学をスキップで卒業し、帰国したばかりのサクラにとって、中学からやり直すなんてことは考えられない。 いくら名門と名高い青葉学院であれとも、だ。 その上・・・中三の三学期。 たった三ヶ月の中学校生活。 別に無理して行かなくてもいいのでは?というのがサクラの意見だった。 しかしカカシは義務教育だからと頑として譲らず・・・妙なところで仮初めの父親としての威厳を発揮し、それが更に彼女の怒りに油を注ぐ結果となったのは言うまでも無いのだけれど・・・。 サクラは朝から崩すことのない憮然とした表情で学校の門をくぐり・・・今、四十人ほどのクラスメートの前に立っている。 サクラが頭を上げると、一斉に向けられた好奇の瞳に掴まった。 どちらかといえば物怖じしないタイプのサクラもこれは正直怖い。 「席はあそこだ。隣はクラス委員で生徒会長のうちはサスケ。解らないことがあれば彼に聞くといい」 「・・・はい」 サクラは皆の視線から逃れるように、海野が指し示した一番後ろの席へ俯き加減で急いだ。 「よろしく」 「・・・あぁ」 窓際に座る彼はクラスの中で唯一サクラに興味を持たない人間に見えた。 ちらりと一瞥されただけで特に何も言われなかったことにほっとしつつ・・・サクラは席に座った。 「どっから来たんだってばよ?」 「家は何処?」 「オレ、後で校内を案内するからさー」 少し長めのHRが終わり海野が教室を出て行った途端、サクラは出来たばかりのクラスメイトに囲まれてしまった。 転入生の運命とはいえ・・・正直うっとおしい。 特に、この黄色い頭の子。 確かナルトと言ったか・・・ 例えるなら千切れんばかりに尾を振る子犬だ。 「あのぉ・・・もう帰っていいの?」 恐る恐るサクラが尋ねた。 「まっさかー!これから学力テストだよ」 「数学と英語と社会」 「ちなみに明日は国語と理科!」 「サクラちゃんも失敗したよね・・・どうせ転校してくるなら明後日からが良かったのにさ」 うんうんと頷きあう彼らの背後でドアが開いた。 入ってきたのは先ほどとは違う髭面の男。 「何だ、お前ら・・・これからテストだというのに余裕だな」 「んなことねぇってば。諦めてるの」 「ナルト・・・カブトの奴が泣くからもう少し頑張ってやれよ」 「えー・・・無理なものは無理だし」 ナルトが肩を竦めて席へ戻る。 その様子にアスマは苦笑を滲ませた。 数学の教諭、カブトがテストの度に学年最下位のナルトに涙しているのだが・・・どうやら今回もそうなる可能性は大きそうだ。 「ほらほら皆も席に着けよ。テストを始めるぞ!・・・あぁ、そういや・・このクラスに転入生が入ったんだよな?何処に・・・」 アスマはぐるりと教室内を見回して、サクラに目を留める。 「お!お前か。初日からテストで悪いが・・まぁ、頑張れ」 励ましだか何だか解らない言葉にサクラは曖昧に微笑んで、前の席の子から回ってきたテスト用紙を受け取った。 テスト自体に何ら心配は無い。 問題は解く自信がある。 例え・・・大学の、入試レベルの数式が出題されようとも。 「始め」 アスマのその一言で、ざわざわとしていた室内も静まり・・・皆、一斉にシャーペンを走らせ始めた。 三教科のテストを終え、更にHRも終えたのに・・・今日に限ってはまだ半数近くの人数が教室内に留まっている。 それも全員が男。 そして、目的はただ一つ。 『はたけサクラ』と一緒に帰宅したいがため、だ。 「・・・どけ。お前らウザイ」 机を囲まれて立ち上がれなくなっているサクラの隣でサスケが静かに声を発した。 ただそれだけでサクラの取り囲む輪がわずかに広がる。 サクラはその隙間からサスケを見上げた。 一目置かれているのは生徒会長という立場だけではなさそうだ。 「なんなんだってばよぅ」 上の名前は知らないが・・・『ナルト』と呼ばれるクラスメートが弱弱しく抗議する。 先生からも『ナルト』と呼びすてされていた辺りからすると、どうやら彼がこのクラスのムードメーカーらしい。 「さっさと帰って明日のテスト勉強をするんだな。それがお前の身の為だ」 「余計なお世話だっつーの」 「そうかよ」 フンと鼻を鳴らして立ち去るサスケが廊下からの視線に足を止めた。 そのほとんどが女のもので、サクラを見ている。 どうやら好意的なものではないようだ。 大方、男共が美人の転校生をちやほやするのが気に入らないのだろう。 そう・・・サスケの目から見てもサクラは十分に可愛かった。 「はたけサクラ」 サスケは振り向きつつぞんざいな口調で短く告げた。 「校内を案内してやる。さっさとついて来い」 「・・・ありがとう」 お礼の言葉は校内を案内してくれていることに対してだけではなかった。 あの状況から抜け出せたこと。 どちらかといえばそのほうが大きい。 「生徒会室へ行くついでだ」 一見、冷たそうに見えるが実はそうでもないのかもしれないとサクラは思った。 歩調の遅いサクラが遅れがちなのに気付き、彼が荷物を持ち替えるフリをして立ち止まってくれたから。 サクラが隣に並ぶとサスケは先ほどよりゆっくり歩き始めた。 「・・・お前、気をつけろよ」 「何が?」 「あんまり男に囲まれてると顰蹙を買う。女のイジメは陰湿で面倒だ」 要らぬ世話を焼かせるなということなのだろう。 サスケに対する、せっかくの好意的なイメージも一瞬にしてダウンする。 「あなたと二人で歩くのも十分その対象になると思うわ、うちはくん」 ツンと言い返したサクラをサスケは驚きの目で見た。 思ったより頭の回転がいい。 状況判断も出来る。 どうやら助けてやらなければならないだけの女ではないようだ。 サスケはフフンと笑ってサクラから視線を外ずし・・・ぼそりと呟いた。 「・・・サスケでいい」 校舎は四階建て。 サクラ達三年は四階で・・・二年は三階、一年は二階と続く。 各階に美術室、音楽室等の特別教室が設置されているのだが、生徒会室は二階の一番端にあった。 「この通路は?」 四階にも三階にもない通路がそこには伸びていた。 「中等部と高等部を結ぶ連絡通路」 サスケから簡潔な答えが返ってくる。 高等部といえば・・・カカシはどうしているのだろう? 一緒に帰る約束はしていなかったが、どうせなら・・・と思うその視線の先に人影が動く。 色素の抜けた、銀に近い灰色の頭だ。 「あ・・・」 女生徒に囲まれて歩いてくるのは紛れも無くカカシだった。 カカシもこちらに気付いたようでポケットに突っ込んでいた片手を上げて私の名を呼んだ。 「サクラ!」 なんなの、あれ・・・ デレデレしゃって! ・・・まさかそれが目的で教師になったんじゃないでしょうね?! 「サクラー?」 知らない! 「行きましょ、サスケくん」 「・・・呼んでるぞ。いいのか?」 「いいの!!」 サクラはサスケの腕に自分のそれを絡め、くるりとカカシに背を向けて歩き始めた。 ふわりと舞い上がった薄紅の髪がシャンプーの匂いであろう、フローラルの匂いを運び・・・頬を染めたサスケに気付かずに。 パラレル祭りの影響か・・・パラレルが書きたくなってさ。 カカシには嫉妬してもらいたい。 2006.07.09 まゆ |
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