baby baby 4 カカシとの簡単な顔合わせが終わり、サクラ達は離宮へ案内された。 当面はこの離宮が生活の空間となるのだろう。 部屋の南側はすべてガラス張りになっていて色とりどりの花が溢れる広い庭が見渡せる。 サクラの背の二倍はある庭木は整然と並んでおり、まるで巨大迷路の壁のようだ。 「探検しなくちゃ!」 エメラルドグリーンの瞳がキラキラと輝く。 此処にはいのの知らない花もありそうだ。 いつも自信あり気な姉の困った顔が見れるかもしれないとサクラは笑みを浮かべた。 カカシは…自分の探検という名の庭の散策に付き合ってくれるだろうか? サクラが今しがた別れたばかりの婚約者を頭に思い描いた、そんな時。 「帰るわよ、サクラ」 今まで言葉を発しなかったいのが急にサクラを振り向き、仏頂面でたった一言吐き捨てる。 「どうして?」 「……悪いことは言わないから帰りましょう」 いつもはきはきとした姉には珍しく言葉を濁した。 「嫌だもん!着いたばっかりなのに何でそんなこと言うのよぅ…それに私はカカシ様と結婚するんだから帰るわけにはいかないの!」 「アンタ、気づかなかったの?」 あの男は一番最初に紅を見た。 私達ではなく、紅を。 どんな理由で、どんな人選でサクラを嫁にと請ったのかわからないが、彼はサクラの顔を知らなかった。 …おまけに年も。 あの様子だとロリコンって訳でもなさそうだし…今頃向こうも慌てているに違いない。 案外簡単に婚約破棄をしてくれるのではないかといのは考えていた。 「何に?」 「…まぁ、いいわ。とにかく帰るのよ」 「やーだー」 「これは遊びじゃないのよ、サクラ」 「そうですね、私もその方が宜しいかと」 荷物を運び終えたイルカが二人のそばへ寄ってきた。 「紅はどう思う?」 一人荷解きに取り掛かっている紅に全ての視線が集中した。 早速必要になるであろう晩餐用のドレスを手にした紅はそれを忙しく衣装ダンスへと移しながら答える。 「いの姫の仰りたい事は十分に理解できますがここはひとまず様子を見てはいかがでしょう?」 「様子って…」 「今すぐ帰るのは現実的に不可能ですから。まず、旅費がありません」 「え…?」 「それに王の許可無く転移門が使えるとは思えませんし、例え旅費が何とかなったとしても春の国へ着くのはかなりの日数を要します」 「…どれぐらい掛かるの?」 「多分、結婚式に出席する春の王がこちらへ着く方が早いかと思います」 その答えにいのはがっくりと肩を落とした。 要するに秋の王の了承無くしては帰国もままならないらしい。 「わかったわよ。じゃあ、サクラが婚約破棄されるまで此処に居座るしかないのね」 「そういうことです」 イルカが加わる間もなく会話は終了した。 確かに紅の言うことはもっともだった。 自分たち大人が感情的に動けば結局のところ辛い思いをするのはサクラであり、いのだろう。 冷静に考えれば今すぐ此処から立ち去るなんて不可能なことだし、そんな素振りをみせるだけでも外交的問題にも発展しかねない。 イルカは冷静な判断を下した紅に近づき無言で荷解きを手伝い始めた。 「探検するんでしょう?」 いくわよと手を取られ…強引に庭へ連れ出されたサクラはずんずんと先を歩くいのの背中を不安げに見つめていた。 秋の王、カカシと対面してからいのは明らかに不機嫌だ。 あんなに素敵な人だったのに何が気に入らないのだろうとサクラは思う。 月の雫のような銀の髪。 洗練された優雅な物腰はサクラの大好きな物語に出てくる王子様そのものだった ではないか。 それにあの瞳…両の色が違う瞳など見たのは生まれて初めてでとても神秘的に感じられた。 サクラは初対面ながらカカシのことがとても気に入ったのに、自分以外の三人…特にいのはそうではなかったらしい。 しかも着いた早々春の国に帰ろうと言う。 それはサクラにとって悲しいことだった。 「あ!」 慣れない踵のある靴はほんの小さな段差さえサクラを不安定にさせる。 よろけたサクラを頭一つ分背が高いだけのいのに支えられるはずも無く、二人してその場に尻を付いてしまった。 「痛いじゃないの、サクラ!」 「…ごめん」 更にいのの機嫌を悪くさせたようで、サクラは泣きそうな顔で謝った。 「ごめんじゃないわよ!ホントにもうっ」 涙が零れそうになる。 俯けば、伸ばし始めたばかりの薄紅の髪がサクラの顔を覆った。その時。 「…キーキーうるせぇな」 何処からともなく声が聞こえてきた。 男…とは言ってもまだ子供っぽさが抜け切れていないソレに、いのは鋭い視線を投げかける。 「木がしゃべった!」 サクラが目を丸くして驚きの声を上げたがそんなことはありえない。 いのは立ち上がるとサクラを庇う様に一歩踏み出し、そして深い緑の向こうにチラチラと見える人影を見据えた。 …曲者? 離宮とはいえ警備兵は居るはずだ。 それを掻い潜りここまで進入してきたとなれば相当の手足だろう。 「そこの者、出てきないさい」 「ヤだよ。めんどくせぇ」 「…は?」 「そんなことよりお前たちこそそこを出て行けよな。何処の貴族の娘だか知らないがその離宮は王が未来の王妃のために用意したモンだ。お前たちみたいな子供が遊んでいい場所じゃないんだぜ」 どうやら会話の流れからして怪しい者ではないらしい。 城の下働きの線が濃厚だ。 それならばといのは見えない相手に向かって声を張り上げた。 「子供子供って…アンタだって子供でしょう?こっちに来て名を名乗りなさい無礼者!」 「…親切に忠告してやってんのに。これだから貴族って嫌いなんだよ」 ぶつぶつと不平を漏らす声の主はそれでもこちらへ来る意思があるのか、そこをどいてろと怒鳴り返してきた。 形良く手入れされた庭木の天辺が不自然に揺れる。 いのとサクラが見上げれば太陽を背に受けた黒い影が今にも飛び降りようとしているところだった。 まさか上からやってくるとは思わなかったいのと…状況をよく飲み込めていないサクラは互いの手を取りぎゅっと目を瞑る。 その直後、とんという軽い音と共に何者かが二人の前に降り立った。 「ここいらの警備はオレの担当なんだよ。悪いけど早く出てってく……」 男が言葉を詰まらせる。 寄り添うようにして自分を見上げている少女達が文句なしの美少女だったから。 特に蜂蜜色の髪の少女はシカマルの目を釘付けにさせた。 怒り心頭の王を宥めていたアスマも諦めてしまったのか、今はもう居ない。 ゆっくりと踏みしめるように歩いて辿り着いた先、地下の宝物庫の前にカカシは一人立っていた。 大きく息を吸い込んで吐き出す。 それを何度か繰り返してからカカシは勢い良く重い扉を開けた。 「クソ狐!さっさと出て来いっ!!」 鏡の前に立ち怒鳴りつければ寝ぼけ眼のナルトがゆっくりと浮かび上がってくる。 昼寝でもしていたのかナイトキャップを被ったその姿に、カカシは更に苛立ちを募らせた。 「鏡に住んでるくせにそんな細かい芸はいらないデショ!」 『…住んでるんじゃないってば。閉じ込められてんの。…で、何の用?』 手の甲でごしごしと目を擦るナルトを睨みつけながらカカシは言葉を続けた。 「さっきサクラ姫に会った」 『ふぅん。良かったね』 「ど・こ・が?!」 『完璧だっただろ、お前の条件に』 「……」 『春の国の姫ならば他の国との力の均衡を崩すこともないし、小さいなりにも一国の姫様なんだから国内の貴族だって黙るしかないだろ?だから政治的に全く問題は無いもんね。それにあの子ああ見えてもスゴイ賢いんだ!知ってる?』 「政治的にも問題なくて…って、これはまぁいいよ。でも、美人でしかもナイスバディな女っていう条件はクリアーしてないデショ。あの子、いくつだと思ってんの!」 『胸が小さいのは最初に言ったはずだけど?それに年齢はカカシの条件の中に無かった』 「常識で考えろよ!!」 『まぁまぁ、そんなに怒るなって。十年…いや、七年後には間違いなく大陸一の美人になるからさ。それは保障する』 「七年…待てと?」 『たった七年だってば。あっという間じゃん』 妖弧の時間の感覚でモノを言わないで欲しい。 「オレは人間なんだよ、化け狐!」 『…そこまで言うなら追い返すなり何なり好きにしろよ。そんでもって山積みの見合い写真を片っ端から見てけばいいんだ。一人で!』 「……」 ぐっと言葉を詰まらせたカカシにナルトは初めて勝利の予感を感じた。 もう一押し… 『いいもの見せてやるってば』 鏡の表面がぐにゃりと歪んでナルトが消える。 代わりに映し出されたのは自分とさほど年が変わらないと思われる令嬢だった。薄紅色の長い髪、エメラルドグリーンの瞳。 「…サクラ姫?」 『ブッブー。はずれ。五年前に亡くなったサクラのお母さんのモモカさん』 今は亡き春の国の第二王妃。 その可憐な微笑みにカカシは息を呑んだ。 洗練された「美」とは少し違う。 身に纏うオーラは春の日差しのように暖かく…カカシの心に沁みた。 癒されるとはこういうことなのだろう。 『な?いいだろ』 「…サクラ姫もこう、なる?」 先ほどと同じように唐突に画像が切り替わった。 見慣れたナルトの顔がニヤニヤと笑っている。 カカシは何か言いたげに口を開いたが、結局何も言わないままナルトに背を向け宝物庫を後にした。 実は地味に書いてたんです。えぇ、ホントに亀のようなスピードで。 前回更新が2006年で笑った… シカマル出したし、次はサスケだな! 2008.0.5.06 まゆ 2010.08.15 改訂 まゆ |
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