Anniversary 2 「で、今日の計画は?」 サクラに合わせ、ゆっくりとした歩調で歩くカカシが問い掛ける。 「んーとね…まずは映画。それからお昼にパスタ食べて、ショッピングでしょ?あ、三時にはお茶して。あとは…」 「あとは?」 あとは…最近出来た高台にある公園で夕焼け見てサスケくんと初キス!の予定だったんだけど…先生じゃ、ね。 「…なんでもない」 「ふうん?じゃ、とりあえず映画館に行きますか?お姫様、お手をドウゾ」 差し出された手に戸惑っているサクラを見て、カカシは微笑むと強引にサクラの手をとった。 「なにすんのよっっ」 「何、ってデートだもん。手ぐらい繋ごうよー。本当は腕を組みたいところなんだけど」 カカシによってキツク握られた手は、容易に振り解けそうにない。 サクラは私服を着ているカカシが、いつもの良く知っている先生とはチョット違って見えて、必要以上に意識してしまう。 やだ、手…汗かきそう。 カカシは、うっすらと頬を染めるサクラを見下ろしながら、薄く笑う。 忍服で来なかったのは正解だったなぁ。 まさか、こんなに意識してもらえるとはね! …触れた指先から伝わるサクラの鼓動の早さが… ウレシイネェ? 先生と二人、手を繋いで歩く。 男の人と手を繋ぐのは別に初めてじゃないのに… なんだかとても、くすぐったい。 途中、すれ違う女の人たちが羨ましそうにこちらを振り向くのがわかり、サクラは満足げに微笑んだ。 とても気分が良い! もはやサクラは、カカシが『しょうがなく』の『身代わり』だったことはすっかり忘れてしまっていた。 …それにしても、先生って意外とモテるのね? 映画を見た。 パスタも食べた。 ここまでは至って順調、だったと思う。 …ショッピング…は、ヤな予感がしてたんだよなぁ。 大体、なんで女の買い物ってこう… 「先生!こっちとこっち、どっちがイイと思う?」 左右の手に持たれた、小さな花がついた色違いの髪留めはカカシにとって大差のあるものではなく。 どっちでもイイんじゃない?と言いかけて、サクラの不穏な視線を感じる。 「えっと、…右、かな?」 「そう?じゃあ、こっちね」 そう言うと、持っている買い物籠の中へいれた。 サクラが持っている籠は、すでにごちゃごちゃとした雑貨で一杯になっている。 なのに、いそいそとまた違うものを手にとるサクラを見て、堪り兼ねたカカシはサクラに尋ねた。 「サクラ、オレちょっと店の外でタバコ吸ってきてもいい?」 「うん、もうチョットだから…」 少しだけカカシを気遣う表情になったが、やはりもう少し店内を見ていたいらしい。 普段、任務で休みがほとんどないしね…しょうがないか。 しかも、今日はサクラの誕生日なんだから、ガマンガマン。 もっと、スキンシップのあるデートがしたかったんだけどなぁ… サクラの楽しげな様子に、カカシは苦笑を浮かべて店内を後にした。 カカシは店の外へ出て、タバコに火を付けると、フーっと白い煙を吐きながら何気なく辺りを見渡す。 サクラが入っていた店の隣は宝石店だった。 明らかに客層が違うであろう店内には現在客はいないらしい。 若い女の店員が陳列してある宝石を磨いているのがカカシのいる場所からよく見えた。 イイ女だ。 店員はカカシご愛用のイチャパラに出てくるような女だった。 体のラインが艶かしくてすばらしく良い。 だからといって、サクラには勝てないんだが。 自分にとってはサクラが一番なのだ。 「あれ…」 その時、カカシの目が店員の胸元に止まった。 そこには淡い桃色の宝石が輝いていて… サクラの、色だ。 絶対似合う!! カカシは急いでタバコをもみ消すと、宝石店へ入っていった。 カカシが店を出てすぐ、サクラは子供っぽい自分の行動を反省した。 そうよね…男の人がこんなカワイイ系の雑貨屋さんに長時間居れるわけないよね。 カカシ先生は良く付き合ってくれたほうだと思う。 きっと、サスケくんならすぐに帰っているに違いない。 サクラは急いでレジを済ませると、店の外へ出た。が、待っている筈のカカシはどこにも見当たらない。 …帰っちゃったのかなぁ 先生に限ってそんなことは無いと思うのだけど。 もう一度店の方を振り向くと、サクラの視界の隅に黒い影が映った。 「いた!!」 でも、それは、隣の店の中で…しかも、すごくきれいな女の人と一緒だった。 カカシ先生の頬を染めたテレ笑いなんて、初めて見る。 女性の、背の高いカカシとつりあいが取れたスレンダーな体には、豊満な胸を強調するかのように、胸元が大きく開いたタイトなワンピースが身につけられていた。 軽くウェーブの掛かった髪は一つに束ねられていて…白い肌に赤い口紅がよく映えている。 サクラは思わず二人から視線を逸らした。 胸の辺りがギュッとなる。 ヤダ!! 最初に思ったのは、それだけ。 他には何も考えられなくて…… ただ、ガラス張りのショーウィンドウに写る自分の姿がとても貧相に見えた。 居た堪れなくなったサクラが、くるりと踵を変えてその場を離れようとした瞬間、腕をグッと引っ張られる。 「どこいくの?」 いつのまにか店から出てきたカカシがサクラの手を掴んでいた。 「荷物、持つよ?」 さっき買ったばかりの、雑貨が入っている紙袋を半ば強引に受け取りながら、カカシは喋らないサクラを覗き込む。 「どうした?」 カカシのなんでもない態度に、サクラのモヤモヤしていた気持ちははっきりと怒りへと変わった。 「…今日は、私とデートなんでしょ?」 なんで、他の女としゃべってんの! しかも…テレ笑いなんか浮かべちゃってて!! 先生のエッチっっ サクラの豊かな表情で、店員のことを意識しているのを感じるとると、カカシは慌てて弁解する。 「あの人には、指輪を見せてもらってたんだよ。ただそれだけ」 「…それだけって、あの必要以上に引っ付いた不自然な姿勢が目に入らなかったわけ?!」 体を密着させるように寄り添っていたでしょ? しかも、アノヒトの手…さりげなく先生の背中に添えられてたわよ! 「あんなの気にしなくてもいいデショ。オレが好きなのはサクラなんだし」 「…別に気になんかしてないわ!それに、私が好きなのはサスケくんなんだもんっっ。カカシ先生が女の人とベタベタしても私には関係ない!!」 サクラは一気にまくしたてて、プイと横を向いた。 なんか、すげぇーウレシイんですケド。 そんなにヤキモチ焼いてくれちゃうと。 サクラの不機嫌そうな様子とは正反対に、カカシは至極幸せそうに微笑むと片手でサクラをすくうように抱き上げた。 「ちょ…ちょっと!」 急に視界の高さが変わり驚くサクラの額に不意打ちのキスが掠める。 「!!」 サクラはおでこを抑えながら軽くカカシを睨むが、なおも微笑みを崩さないカカシはサクラに謝罪の言葉を掛けた。 「ごめんね、サクラ」 微笑みながら謝られても誠実さに欠けるわ! カカシはまだ不機嫌な様子のサクラを抱き上げたまま歩き出した。 「ケーキ食べに行く?、少し早いけれど夕飯にする?」 カカシの言葉にサクラは少し考える。 時計の針は4時半を少し回ったところで…どちらをとるにもかなりハンパな時間だった。 でも、夕焼け見るにはちょうどいい時間よね? ここからだと三十分ほど歩くことになるが、普段鍛えている自分達にはたいした距離ではない。 先生と一緒に、とかそんな深い意味はないの。 ただ夕日が見たいだけなんだから!! サクラは自分にそう言い聞かせ、話を切り出した。 「先生、最近出来た高台の公園、知ってる?」 「あぁ、夕日がすごくきれいに見えるらしいね…サクラ、見たいの?」 「うん」 よし、と言って歩き出すカカシに、抱き上げられたままだったサクラは自分で歩く、と告げる。 胸にあったサクラの温もりが冷めていくのは嫌だったが、また機嫌を損ねられると困るので、カカシは素直にサクラを下に降ろした。 すると、今度はサクラの方からスルリと腕を絡めてきて…驚くカカシにいたずらっぽく微笑んだ。 「デート、なんでしょ?」 オンナノコは怖いねー。 …急にオトナになる… 夕焼けは思いのほかきれいで…二人は暫くの間、黙って見とれていた。 正確に言えば、カカシが見とれていたのは夕日に染まったサクラの横顔だったのだけれど。 カカシはこのまま時間が止まってしまえばイイのにと、子供のように思った。 夕食を食べる為、カカシに連れてこられたのは里でも有名な料亭だった。 「ここ?」 「ん。結構ウマイんだよ」 「…ここ、高いでしょ。雑誌で見たことあるもの」 お金あるの?と言わんばかりの視線に、カカシは吹き出しながら笑う。 「サークラちゃん…オレ、元暗部よ?お金の心配なんてしなくていいよ」 暖簾をくぐると和服姿の仲居さんが席の案内のためにやって来た。 「今日はどういったお席がよろしいでしょうか?」 「あー、一階の…」 「二階の座敷がいいわ!!」 カカシとサクラの声が重なる。 「…どうされますか?」 「二階のお座敷」 キッパリと言い切ったサクラに、仲居さんは確認のためカカシに顔を向けた。 「…じゃ、二階で」 「…かしこまりました。こちらへどうぞ」 二人はスリッパに履き替えると仲居さんに続いて二階へと階段を上った。 案内されたのは八畳ほどの広めの和室で…料理が運ばれてくる間二人はお茶を飲んで待っていた。 「サクラ、なんで二階なの?」 ここの『二階』のこと、知ってる? 「雑誌でね、オススメって書いてあったから…先生、一階が良かった?」 「いや。どちらかといえばこっちの方が好きだけど」 「?」 カカシの微妙な言い回しにサクラは首をかしげながら、窓の方へと近づいた。 「それにしても、何がオススメなんだろうね?景色かな?」 窓を開け、見を乗り出すようにして外を見ているサクラに再びカカシが問いかける。 「サクラ、その雑誌ってどんなヤツ?」 「恋人達のデートスポット」 なるほどね。 デートスポットと言えば、デートスポットになるのかねぇ、ここも。 オレに言わせれば単なる『連れ込み宿』なんだけど。 この料亭の二階部分は食事する部屋に小さな続き部屋があって…恋人達がいつでも情事を楽しめるようになっていた。 料理の代金のほかに時間制で部屋代を払う仕組みになっている。 料金が高いのはそういうわけだ。 他のヤツに連れ込まれないようにサクラには教えとかないとダメだよなぁ? 「サクラ、何がオススメなのか知りたい?」 「もちろん」 「じゃ、そっちの襖、開けてみて」 楽しそうなカカシの声に嫌な予感を覚えながら、サクラが恐る恐る襖を開けると、そこには一組の布団が敷いてあった。 二つ並んだ枕と赤い掛け布団が薄明かりの中に浮かび上がっていて…なんとも言えずエロティクな雰囲気を醸し出している。 「やだっっ、なにこれ!!」 サクラがカカシの方を振り向こうとした時、カカシはすでにサクラの真横に立っていた。 「だから、これがオススメなんデショ?」 カカシは、ぱくぱくと声にならない言葉を発しているサクラを、ひょいと抱き上げ部屋へと入る。 「ほら、今後のためにちゃんと見とかないとなー…サクラ」 今後?! 今後って、何?! サクラは、カカシの洋服をしっかりと掴み最後まで抵抗していたが…ゆっくりとした動作で布団の上へと降ろされる。 カカシは軽くサクラに体重を預けながらサクラの動きを封じると、愛らしいおでこに唇を落とす。 「ひゃぁっ!」 色気も何ももないサクラの悲鳴にカカシはくっくっくと喉の奥で笑った。 カカシは手を伸ばし布団の端をめくると、そこにあるべきものを捜す。 カカシの手がサクラの顔の前に戻ってきたとき、そこには四角い何かが持たれていた。 「これなーんだ?」 本物は、もちろん初めて見る。が、アカデミーの保健体育で、イルカ先生が真っ赤になりながら教えてくれた、ソレは。 コン●ー●!! カカシの体の下で、サクラが声にならない叫びを上げながら慌てて暴れ出す。 これが何かは解ってるんだ? それからどういうことが起こるのかも。 よしよし、と頷きながらカカシは体を起こし、急に体が自由になったことに目をぱちくりとさせているサクラに手を差し伸べた。 「ほら、起きて。食事が運ばれてきてるよ?」 「え…」 わずかに開いた襖から、サクラの大きな翡翠色の瞳が座敷のテーブルの上を見る。 そこには二人分の御膳が並べられており、汁物からは湯気が立っていた。 え?、え?、えぇー!! 襖って…開いてたよね? もしかして、見られてたのー??? 顔を真っ赤に染めたサクラがカカシを睨みつける。 「…お嫁にいけない…」 「大丈夫、大丈夫。ちゃんと貰ってあげるから。それより、他の誰ともここに来ちゃダメだよ?オレ以外はね」 「絶対来ないっっ!!先生ともよ!」 はいはい、と聞き流しながらサクラを引き起こすと食事の乗ったテーブルへと誘い、後ろ手で続き部屋の襖を閉じた。 この部屋を使うのは、サクラがもう少し大人になってから… それまで、もう少し我慢するしかないデショ。 …どれぐらい待てるか解らないけれどね。 顔が熱い。 サクラは耳まで真っ赤な自分の顔が容易に想像できた。 からかわれただけなんだわっっ もうっ!子ども扱いして!! そう自分に言い聞かせながら、サクラは食べることに集中した。 味なんて、解らなかったけれど。 「まだ少し時間があるだろ?こっち通って帰ろう」 カカシが指差したその道は、両脇に桜の木が植えられていて、満開時には桜の花のアーチが出来る。 今はまだ五分咲きといった所だろうか。 それでも、枝の隙間から月明かりが漏れて…幻想的な雰囲気は十分に美しかった。 「誕生日、おめでとう」 急に立ち止まったカカシがサクラに小さな箱を手渡した。 「ありがとう。でも、プレゼントなら貰ったよ?…花束」 「別に、誕生日のプレゼントは一人一個しか渡せないっていう決まりなんてないデショ。開けてみて?」 渡された物に戸惑いながらもサクラは包みを開けた。 高級そうなベルベットの箱の中には、サクラの淡い桃色の髪と同じ色の宝石がついたネックレスが収まっている。 「せ、せんせぇ…コレ」 「あの店で見つけたんだよ。サクラによく似合うと思って。ホントは指輪をあげたかったんだけど…一番小さなサイズでもサクラにはゆるそうだったから」 付けてみてよ?、と言う声にサクラはネックレスを首にまわすが、うまく留め金が止めれない。 すっとカカシの手が伸びてきて手伝った。 つけ終えたサクラは誇らしげに微笑む。 「似合う?」 「…あぁ、綺麗だ」 カカシは掠れた声で囁きながら、両手をサクラの頬へと伸ばしてやさしく包み込む。 「覚えてて、サクラ…オレにとってサクラは女なんだよ。サクラがサスケのことが好きでも、諦めるつもりはない」 きっぱりと言い切ったカカシは、さらに一呼吸置いて続けた。 「サクラはきっとオレの物になるよ」 そういいながら、今日何度目かのキスを額に落とした。 いつもからは想像出来ないカカシの真剣な口調に、 「…私、物じゃないわ…」 サクラはやっとの思いで、それだけ呟いた。 サクラの家の玄関前でカカシは繋いでいた手を離す。…離したくはなかったけれど。 カカシは、あれからずっと俯いたまま喋ってもくれないサクラに苦笑する。 一方、サクラはと言うと…俯いて歩きながら先生になんて言葉を返していいのか考えていた。 何か言わなきゃと焦れば焦るほど言葉が出てこない。 確かに自分が好きなのはサスケくんだ。 なのに、今日は頭の中は先生のことばかりで全然思い出しもしなかった。 できればそのことを素直な言葉で伝えたい。 意を決したようにサクラはカカシを仰ぎ見た。 「今日わかったことは…先生が他の女の人と一緒にいると気分ワルイってことだけよ」 サクラはそれだけ言うと、カカシの服を掴み精一杯背伸びし、顎の辺りにちゅっと音を立ててキスをすると、オヤスミの挨拶もなしに家へと駆け込 んでいった。 予想外のサクラの行動にバタンと閉じられた戸の前でカカシは暫く動けず立ち尽くしていたが…我に返るとくるりと背を向けるとにやけた顔で小さくガッツポーズを取った。 …もうすぐサクラの中のお前はいなくなっちゃうよ、サスケ。 お前が自分の本当の気持ちに気づく前にね。 満面の笑顔のカカシは、軽い足取りでサクラの家を後にした。 「お帰りなさい。楽しかった?」 約束の時間通りに、ばたばたと駆け込んできた娘に母が声をかけた。 「うん!」 母は、頷く娘の胸元にキラリと光るネックレスを目ざとく見つけた。 「どうしたの。それ」 「先生に貰った」 嬉しそうに報告する娘に母が尋ねる。 「…ピンクダイヤでしょう?幾らするか知ってるの?」 「え?、知らない。そんなに高いものなの?」 高そうだな、とは思ったんだけど。 「多分、その大きさだと…家の頭金ぐらいにはなるわね」 「えーっっ!そんなの貰えないよぅ」 急いで外そうとするが…引っ掛けてあるだけの金具なのに、全く外れる気配がなかった。 「なんでー?」 サクラはコレをつけるときカカシが手伝ってくれたことを思い出した。 先生…外れないように術を施したわね? 何の為かわかんないけど…明日、解いてもらわなくちゃ。 何か術が掛かってるみたい、と憮然とした表情になる娘に、母はお風呂を促す。 「ほらほら、明日も早いから…急いでお風呂に入りなさい」 外すことを諦めてしぶしぶと浴室へと向かう娘の姿を見ながら、母は胸の中で呟いた。 少し買いかぶりすぎではなくて? うちの娘を捕まえておくには立派過ぎる首輪ですわ、はたけさん。 2002.01.05 まゆ 2009.05.06 改訂 まゆ |
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