タイムカプセル 1 「イルカ先生、これなんだってばよぅー」 「あぁ、それな。『タイムカプセル』。明日、アカデミーの生徒達と埋めるんだよ」 『タイムカプセル』???埋める??? それは、ナルトの一言で始まった。 「カカシ先生!オレもタイムカプセル、したいってばよー」 「タイムカプセルって、あのタイムカプセル?」 「そうそう、埋めるヤツ」 「何でまた急にそんなこと…」 「昨日、イルカ先生のトコ寄ったら、アカデミーの生徒とやるって…オレもしたい!!」 カカシはサスケとサクラに視線を移し、二人に尋る。 「ああ言ってるけど…どうする?」 「そうねー、やってもいいわよ。今年は木の葉の里生誕300年の年でしょう?そういうイベント流行ってるのよねー」 「…くだらねぇ」 意外と乗り気なサクラの言葉にサスケの言葉が重なった。 「なんだとー!サスケ!!」 放っておくと掴み合いの喧嘩が始まるのはいつものことで…カカシがすかさず割って入った。 「じゃー多数決ね」 「はいはいはい!オレ、やるほう」 カカシの言葉に、いち早くナルトが手を上げる。 カカシはナルトの子供のような反応に(イヤ、実際子供なのだが…)苦笑しながら、サスケの意見は聞くまでもないのでサクラに向かって問いかけた。 「どうする?」 サクラは、申し訳なさそうにちらりとサスケの方を見てから、幾分トーンの落ちた声で「やりたい」と答えた。 「じゃ、三対一で…やるに決定だな」 「三対一?」 「あぁ…オレも入ってる」 カカシの言葉にサクラが呆れたように呟く。 「先生…」 「いいだろ、別に。じゃ、明日の集合の時に各自入れるものを持参すること!自分にとって大切な物だぞ!!」 確か、この木だったわよねぇ? サクラは木の葉の里が一望できる丘の中で一番大きな楠木の下にいた。 谷から吹き上げるひんやりとした風が心地よくサクラのわきをすり抜け、年とともに伸びた髪を腰の辺りで揺らせた。 あれから…十年が経った。 サクラはもうすぐ二十三の誕生日を迎える。 「よし、掘りますか!」 独り言を言いながら服の袖をまくり、持ってきた大きなシャベルをザクッと地面に刺した。 ザク、ザク、ザク…… ザク、ザク、ザク、ザク… 途中で大きな石を掘り起こしながら五十センチほど掘ってみたが…出てきそうにない。 この木で、あってるよね?? 不安になりながらも掘り進めていると…サクラは、だんだんとその時のことを思い出してきた。 そういえばナルトのヤツ、かなり深い穴を掘ったんだったわ…… 「おいおい、もういいだろ?それぐらいで…」 あまりの穴の深さにカカシが止める。 張り切って掘っているナルトの姿は、すでに腰の辺りまで地面の下に潜っていた。 「あんまり深く埋めると掘り出す時が大変だろ?サクラが」 「はぁ?何で私なの?」 納得いかないって感じのサクラの言葉に「しまった」と内心舌打ちしたがそんなことおくびにも出さず、カカシは皆が納得しそうな言い訳をスラスラと口にした。 「んー、だってなぁ…ナルトは埋めた場所を忘れそうだろう?サスケは掘り返すなんて面倒くさいコトやりそうにないし?十年後って…オレ、死んでそうだしなぁ。ほら、サクラしかいない」 十年後…。 七班のメンバーが今のまま一緒に居られることは、まずないだろう。 カカシの言葉は暗にそう言っていた。 三人の幼い下忍たちが理解できたかどうかわからないけれど。 ただ、『死』という言葉に過剰な反応をしてサクラが怒ったように叫んだ。 「死んでるなんて、言わないで!!」 「ごめんごめん、冗談だよ。十年後、ちゃんと四人で掘り出そう。…な?」 カカシは俯いたままのサクラの頭に手を乗せると、ぐしゃぐしゃと撫でた。 本当に、一人で掘り返すことになるなんて……… 先生ったらとんだ預言者だわ! どんどん、どんどん掘り下げる。 うっすらと汗をかきはじめた頃、ガッ、とショベルの先にそれらしき手ごたえがあり…その周りの土を少しずつ丁寧に払うと形が現れてきた。 これよ!! サクラはシャベルを放り出すと、服が汚れるのも気にせず、素手で掘り始めた。 「さて、と。穴も掘れたし…各自持ってきたものをここに入れて」 カカシはスイカほどの大きさの青い壺を差し出した。 「これ入れてってば!!」 真っ先にナルトが差し出した物は…例によって例のごとく、『カップラーメン』 「そんなもん入れてどうするんだ、ドベ。」 「十年後のカップラ−メンなんて…アンタどうするのよ?!」 二人から同時につっこまれたナルトは、それでも『入れる』と言い張った。 「だって、これ…超お気に入りのヤツなんだってば!よく売り切れて手に入らないんだぞ!!」 だからって、カップラーメン…十年後に食べるつもりか?! さすが、ナルト。 賞味期限切れまで気が回ってないな。まっ、らしくていいデショ。 カカシはナルトからカップラーメンを受け取ると壺の中へと入れた。 「さっ、お前らも入れろ。」 目の前にずいっと差し出された壺に、サクラは何やらゴチャゴチャと入っている巾着を、サスケは紙切れ一枚を入れた。 「よし、入れたな。んで、後はコレ!」 カカシはポケットから3つの封書を取り出した。 無理にポケットにねじ込まれていたため、すでにシワが寄っているそれには、ナルト、サスケ、サクラと3人の名前が書いてある。 「十年後のお前達に手紙を書いてきてやった」 「うわ、今、見てぇ!!」 カカシは奪い取ろうとするナルトを簡単に片手で押さえ込む。 「バーカ。十年後だっつたろ。今読んでも意味わかんないぞ」 ちぇっ、というナルトの舌打ちを聞きながら、それを壺に入れると蓋を閉め、その上から札を貼ると簡単な術を施す。 「開封時の暗号は、4人の名前にしといたから。ナルト、サスケ、サクラ、カカシの順だぞ。覚えとけよ、サクラ」 「だーかーらー!!何で私に言うの!」 どっと笑が起きる中、楽しい雰囲気のまま壺を入れた穴は徐々に塞がれていった… 掘った土を全て元通りにし、シャベルで平らにならすとサクラは土のついた手で額の汗をぬぐった。 ふぅ、と息を吐くと、足元にある掘り出したタイムカプセル…壺を両手で抱き上げる。 青い、青い壺。 ここだけは時間が止まっていたかのように色褪せず、あの日のままだ。 深い海のような青は…先生の瞳を思い出させる。 コレを開ける場所は決めていた。 サクラは壺を胸に抱いたまま、ゆっくりと歩き始めた… 時々、思い出したように空を仰ぎ見る。 気を抜くと、今にも零れ落ちそうになる雫を誤魔化すために…サクラは上を向いて、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。 あの日と同じよく晴れた空。 木漏れ日が眩しくて…… 森は十年前と何ら変わらないというのに、自分達はなんて変わってしまったのだろう? 今ではみんなバラバラだ。 比較的よく会うのはナルトだが…それでも最後にあったのはもう半年ぐらい前のこと。 それを考えると…一番は先生かもね。 目的の場所が近くなり、サクラは足早に森を抜けた。 開けた先は…慰霊碑が。 サクラはゆっくりと近づくと、慰霊碑にに刻まれている名前を指でなぞった。 ねぇ、そうでしょう?!先生……… その様子を二十メートルほど離れた木の上から見つめている者がいた。 個体を識別する物はなにもなく、顔にはキツネに似た面を付けている。 …木の葉の里の、暗部の面… 2001.12.16 まゆ 2008.11.16 改訂 まゆ |
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