其は鈍色の錆に似て




「先生が、好きです」

世界中で一番愛しい少女からの告白に、自分の中で沈殿していたカタチの無いモノが溢れ出す。
・・・ドロリとした薄汚れた欲望。

気付かれてはイケナイ。
この想いだけは、絶対に。
自分の『好き』と少女の『好き』には埋めようのない隔たりがあるのだから。

オレは全てを飲み込んで心にも無い言葉を告げた。
いつもと同じ、軽い感じで。

「なーに言ってんの、サクラ。熱でもあるんじゃない?それとも何かの罰ゲーム?」

サクラが弾かれたように俯いていた顔を上げた。
泣きそうな気配に、更に追い討ちを掛ける嫌なオレ。

「用ってそれだけ?」

冷たい声だと思う。
でもこうでも言わないと自分はサクラを突き放せない。

「じゃ、また明日。」

そっけなく背を向けて歩き出したオレをサクラが追ってきた。
引っ張られるような、わずかな抵抗。
カカシは足を止め、眉を顰めて振り返った。

「先生!私・・・」
「・・・触らないでくれるかな?サクラ。」

忍服の、裾を握っていた小さな手が力なく外れた。
そのまま両手で顔を覆い・・・本格的に泣き始めるサクラから目を背けて、カカシは歩き出す。
動揺した心を気取られないようにゆっくりと。

でも、確実に。















いつの頃からだろう?
あの小さな身体を征服したいと思うようになったのは。

きっと・・・泣き叫ぶ声すらも愛しい。
力でねじ伏せて、全てを強引に奪う。
なんて甘美な夢!





「で。どうしてこんなことに?」

そんなこと聞かなくても、もちろん予想出来た。
しかし、この少女にはきちんとわからせておく必要がある。
カカシは状況を説明するようにキツイ口調で促した。

「・・・先生のこと、諦めようと思ったの。」
「だからってねぇ、サクラ。もう少し男を選んだらどうなんだ。」

不自然に裂かれた胸元を庇うサクラがカカシの家の呼び鈴を鳴らしたのはほんの数分前。
この格好では家に帰れないからと告げる彼女の頬にはまだ乾ききっていない涙の痕があった。
一瞬、何も考えられなくなって、カカシはサクラを部屋へと招き入れたのだが・・・。

「大体、よく知りもしない男の部屋にのこのこと上がりこむからそういうコトになるだよ。」

   サスケやナルトでは考えられない。
   どこのどいつだか知らないケド・・・いい根性してるよ。
   見つけ出して殺してやろうか?

カカシの瞳に剣呑な光が宿る。
これでは自分が何のためにサクラを突き放したのかわからないではないか。
思わず漏れた盛大な溜息が部屋の空気を重くする。
サクラが・・・カカシに借りて羽織っている大きいシャツの胸元を無意識に握り締めた。

   何のためだって?

間違ってもその小さな身体を他の男にくれてやるためではないことだけは確かだった。

「・・・もう、お嫁にいけない。」
「行けるデショ、嫁くらい。いくらでも。・・・未遂なんだろ?」

オレがもっと優しく拒んでいればこんなことにはならなかったのかもしれない。
サクラの両肩がまだ震えているのを見て、カカシは自分を責める。
行き場の無い怒りに拳を強く握り締めた。

「そういう意味じゃ、ないモン。・・・今日わかったの。私、先生じゃなきゃダメ。先生とじゃないと、えっちなんて出来ないよ・・・。」


カカシの中で、ぷつんと何かが弾けた。


「せん、せぇ・・?」

不意を突かれて押し倒されたサクラは、だんだん近づいてくるカカシの顔を驚きの表情で迎えた。
薄着の背中にフローリングの床が痛い。
・・・そんなことよりも。
今のこの状況は何なんだろう?
カカシの手がサクラの胸元に触れた。
はだけられたシャツの下から現れる、引き裂かれた自分の服が視界に入った途端・・・サクラの脳裏に先ほどの出来事がフラッシュバックした。
身体を撫で回す無遠慮な手と荒い息遣い。
先生じゃない、男。

「イヤッ!」

カタカタと大きく震えだす身体を止められない。
サクラは圧し掛かる重みから逃れようとめちゃくちゃに暴れだした。

「嫌だ!放してッッ!放してったら!!」
「・・・煩いよ、サクラ。」

聞こえてきた低い声にうっすらと瞳を開ける。
・・・この男は誰だ?

   カカシ先生・・・

サクラは暴れるのをやめた。
必要以上に近いカカシの顔に、慌ててすぐにまた瞳を閉じる。
耳の奥で、心臓の打つ音がやけに大きく聞こえた。

カカシの手が震えるサクラの身体から衣服を剥いでいく。
カーテンさえも引かない、昼の日差しが入る部屋で・・・それはゆっくりと行われた。






「手が邪魔。」

押し広げられた両足の中央を、サクラは手で覆っていた。
羞恥心で涙が零れる。

「ぁ・・だめ、そんなの・・・見ないで!」

カカシは何も答えずサクラの左足を肩に抱えあげた。
それでも邪魔をする小さな手に軽く舌打ちする。

「どけて。出来ないから。」

微かに苛立ったカカシの声に、サクラの手がおずおずと引いていく。
行き場の失った指先は床に投げ出されたままの衣服に触れ、それを握り締めることでサクラは緊張を紛らわそうとした。

「そのままじっとしてて。」

下へと下がっていくカカシの頭。
生暖かい何かか、自分で触れたことも無い場所へと侵入する。
それがカカシの舌だと理解するのにそれほど時間は掛からなかった。

「・・やだぁ・・・あンッ」

熱に浮かされているような、そんな感覚。
押しては引き、引いては押し返す快感の波にサクラはついていこうと必死だった。

「そんなに力入れてたら全然奥まで入んないデショ。」

始めは一本だった指を二本にし、サクラを押し広げるように動かしている。
カカシは狭すぎる入り口に眉を顰めてそう告げた。
しかしサクラの瞳はキツク閉じられたままで彼女の思考は読めない。
自分の言葉は理解されただろうか?・・・そんなことを考えてカカシは自嘲気味に笑った。
この期に及んでやさしい人ぶるのも意味が無いというものだ。

「サクラ・・聞こえてる?力抜いて。でなきゃ、このまま入れるよ。」

一応一言断ってから、カカシは自分自身をサクラの入り口にあてがった。
指を引き拭くと同時に、一気に腰を推し進める。
サクラから悲鳴が上がった。

「いやぁッッ!・・ぁあ!!」

ギシギシと音が聞こえそうなほど狭い中を、カカシは構わず強引に進んだ。
サクラは酸素を求めて水面で口をあける金魚のように喘いでいたが、そんな姿を見ても罪悪感など感じなかった。
何度も夢に見た光景にただただ陶酔していく。
打ち付ける、腰の動きが早くなった。

「せん、せ・・・もっと、ゆっく・・り・・・」

纏わり付くサクラの匂いに頭がクラクラする。
相手を思いやる余裕の無さが、ガツついた童貞のようだとカカシは頭の片隅で思った。
優しさの欠片も無く、自分勝手に飛ぶ。何度も何度も。
気が付けばサクラは意識を手放し、ただの揺さぶられる人形になっていた。












「・・・触らないでくれるかな?サクラ。」

低い、掠れた声。
完全な拒絶。
すごく・・・悲しかった。
だから忘れようとしたのだれど。



カカシの付けた痕が消えかかっている。
サクラは着替える途中で自分の胸元に視線を落とし、寂しげに笑った。

あの日。
カカシに抱かれたあの日・・・気が付けば真っ暗な部屋の中、一人残されていた。
両親が心配しないように家に連絡をいれて外泊許可を取ったサクラは一晩中カカシを待っていたけれど彼は帰ってこず、それならばと翌朝任務のための集合場所へ訪れたが・・・
代わりに現れたのはイルカ先生で、『カカシ先生は急な任務で里を出たんだよ。一週間ほどで戻るから、それまでお前達はアカデミーで雑用だ。』とそう告げられた。

自分のせいだと思った。
思い切り避けられているコトは十分わかったが、それでもサクラは待つと決めたのだ。

もう一度きちんと好きだと伝えるために。














同じ班内で付き合うことはご法度だとカカシは考えていた。
恋愛感情は冷静な判断力を低下させ任務に支障をきたす。
実際、命を落としたカップルを何組も見てきた。
それなのに・・・

   何より、第一にサクラはまだ子供デショ。

無理強いのような行為をしてしまった事に対する自分への嫌悪感。
それとは相反する、愛する少女の全てを征服できた満足感。

一週間という期間がサクラにとって長いのか短いのかはなはだ疑問だが、オレにとっては以前の自分を取り戻す最低限必要な時間だった。





「もう随分と前から春野サクラさんが待機所でお待ちですよ?」

任務報告書を提出したカカシに受付を担当していた中忍が告げた。
このまま無視して帰ることも可能だったが・・・そうもいかないだろうと重い足取りで待機所へ向かう。

「おかえり、カカシ先生!」

ドアを開けるなり、サクラが飛びついてきた。
あんなコトをしたのに・・・何も変わらない態度の少女に、カカシは驚きを隠せない。
一瞬言葉に詰まったがなんとか取り繕って声を出す。

「・・・ただいま。かなり待たせちゃった?」

カカシはサクラと視線を合わさず、代わりに壁に掛かった時計をちらりと見た。
もう外は暗く、アカデミー内の人の気配もほとんど無い。

「うん。一週間も待ったよ!」

そういう意味で聞いたのではなかったのだけれど。
一週間分の葛藤は何処へやら・・・
無邪気なサクラの笑顔はカカシの取り繕った理性の箍をあっさりと外してしまった。

「先生、大好き。」

もう観念しよう。
何処にも逃げ場は無い。

カカシは任務から戻ってきたばかりの埃っぽい腕の中にサクラをきつく閉じ込めた。





家に着くなりカカシはサクラを押し倒し、性急な行為に及ぶ。

「一週間も待ってたんデショ?サクラ、やらしー・・・」

服を脱がされながら耳元で囁かれた言葉にサクラは真っ赤な顔で俯いた。

「・・先生は、えっちな子は嫌い?」
「全然。むしろ、好き。」

前のときには決して触れなかった唇にカカシは自らのそれを重ねた。
半ば強引に口腔内に割って入ると幼い動きで答えてくる舌が可愛くてしょうがない。

「ていうか、サクラが好き。」

顔を離し、サクラを見つめてカカシが告げた。

「本当?」
「ホント。せっかく我慢してたのに・・・もう知らない。」

前戯もそこそこにあてがった物をサクラの中へと沈めていく。
カカシに貫かれたサクラが切なげに喘いだ。

「せんせぇ・・で・・・いっ・ぱい、なの・・・」










サクラを手に入れた!

しかし、幸福に比例して急速に膨れ上がる不安。
こんな幸せすぎる時間・・・永遠には続かないと知っているから。

出来れば一分一秒、長ければいい。

カカシはサクラの中で絶頂を迎えながらそう願った。











はなだちゃんに差し上げます!
タイトルは無理言って彼女に付けて貰いましたv
「・・先生は、えっちな子は嫌い?」 「全然。むしろ、好き。」・・・この会話がさせたかった・・・

2005.06.12
まゆ