プロテクト




私は誰かを愛していないと生きていけない類の人間らしい。
一生懸命『愛を与える』ことによって充実感を得る。
サスケくんがいなくなってその『誰か』として求めたのが・・・一番身近な男の子であるナルトではなく、カカシ先生だった理由は私にもよくわからないけれど。



先生の部屋の入り口には何重ものプロテクトが掛けられている。
私が勝手に出入りするようになって更に増えた。
もちろん、それがカカシ先生による無言の拒否であることは間違いない。
でも・・・。
私は今日も頭に詰め込んだ知識だけを頼りにそれら全てを解除する。










「今日のは割と時間が掛かったな・・・」

そう呟いて、サクラは主の居ない部屋へ上がり込んだ。
プロテクトの内容も数も今までにないハイレベル。
これ以上高度なものになればもう解くことは出来ないだろう。

「先生の馬鹿」

銀色の髪と群青の瞳を思い出して瞳を伏せる。
カカシがまだ任務から帰還していないのは受付で確認済みだ。
持参した手料理のタッパーを冷蔵庫へ入れて、サクラはほっと息を吐いた。
そして・・・壁にある明かりのスイッチに手を伸ばす。が、夕日が差し込み薄暗くなりかけた部屋は静寂を守り、異物である『サクラ』を排除しようとしているようで・・・思わずその手を止めた。

「いいこと思いついちゃった」

部屋の明かりは付けないまま・・・サクラは玄関にある、脱いだ自分の靴を拾い上げた。

「・・・隠れる場所、何処がいいかしら?」

狭い部屋の中、十五になる自分の身を隠せるほどのスペースなど限られている。
その中でサクラはクローゼットを選択すると、ハンガーに掛けられていた少ない衣服を端に押し寄せ・・・身を潜めた。
任務から戻ってきたカカシは玄関のプロテクトが解除されていることで侵入者があった事はすぐにわかる筈。
気配で、その侵入者が私であることも。
カカシがいつものように困り顔でクローゼットの扉を開けたなら飛びついてやろうとサクラはふふふと笑った。
呼吸のため、一センチ開けた隙間からカカシの部屋を見渡す。とは言っても、大半はベッドしか見えないのだが・・・。
しかし、これでカカシの部屋の一部に溶け込めた気がしてサクラは少し安心した。










いつの間にか寝ていたらしい。
カチャリと玄関の開く音でサクラは目を覚ました。
続いてぺたぺたと素足が床を歩く音。
それは部屋の明かりを付けてからサクラの隠れているクローゼットの前で止まった。
隙間から差し込む光で忍服のベストがよく見える。
カカシ先生だ。
飛び出すタイミングを計り、扉に添えた両手に力を入れようとした寸前、サクラは玄関付近から聞こえてきた第三者の声に息を呑んだ。

「上がっていい?」
「・・・あぁ」

訊ねる声は女の人のもので、それを了承する乾いた声はサクラの真正面から発せられた。
ちゃちな備え付けのクローゼットの扉に厚みなど無いに等しい。
そこから三十センチも離れていない所に立っているはずのカカシが、サクラを無視したのだ。

「何してるの?」

佇むカカシに女が擦り寄った。

「・・・何も」
「じゃあ私、シャワー借りてもいいかしら」
「必要無いよ」
「でも・・・」
「必要無いと言ってる」

クローゼットに背を向けたカカシがベッドの端に腰を下ろしたのが見えた。
伸ばした手が女の人を半ば強引に引き寄せる。
ここまで来ればいくらサクラでも今から何が行われるか想像に難くない。
そして。
それはサクラが読み違えることなく始まった。




座ったままのカカシの足の付け根で女の人の頭が上下する。
明かりを付けたまま行われる行為は慣れた大人のそれを感じた。
唾液が絡む音だけが部屋に響き・・・サクラは呼吸をすることを忘れたかのようにカカシの背中を見つめていた。
時折女の人が顔を上げてカカシの様子を確認していたが、その顔には見覚えがある。
別に知り合いではない。
今日、受付に座っていた二十代半ばの色白の美人お姉さんだ。
長い黒髪とふっくらとした唇に引かれた赤い口紅が印象的だったので良く覚えている。
他は空いているというのに、彼女の前には任務受け渡しを待つ男の人達の長い列が出来ていた。
カカシもその中の一人だったということか。
クローゼットの中で動けなくなったサクラの目の前で続く淫らな行為はカカシが果てることにより一時中断した。

「やだ・・カカシ上忍ったら溜まってたのね。こんなに沢山出しちゃって」
「まぁね。だから早く脱いでくれる?」

女は口元を拭うとくすりと笑って忍服と下着を床へ脱ぎ捨てた。
惜しげもなく晒された豊満な胸、括れた腰、白い肌。
同姓のサクラから見ても完璧なプロポーションだった。
その身体に何の感慨も見せず、カカシはベッドの中へと引きずり込む・・・その時、カカシがちらりとこちらを見たような気がした。

「後ろ向いて」
「・・・ひどいわ、前戯も無しなの?」
「必要ないデショ。こんだけ濡れてれば」

カカシの言うとおり、そこは既に蜜を滴らせてカカシを待っている。
指を軽く滑らせば四つん這いになった女の背中がしなり、誘うように尻が揺れた。

「入れるよ」

カカシは遠慮なく自分自身を沈み込ませる。
一気に突き上げられ、流石に女も苦痛の表情を見せたが、それも一瞬のこと。
次の瞬間には一転して喘ぎ声を漏らしていた。

「あぁ・・ぁんッ・・・・そ、こ・・・あっ!」

サクラは思わず耳を塞いだ。
どうして?が頭の中で渦巻く。
カカシ先生は戻ってきた時点で私がクローゼットの中に居ることはとっくに気付いてる。
なのに何でこんな見せ付けるような真似をするのだろう?
何度も視線が合うのはもはやサクラの気のせいでは無かった。



簡単に上り詰めた女の背中に白く濁った飛沫が掛かる。
肩で息をするカカシがベッドに身を沈めれば、女は逆に起き上がり、器用に指で背中の体液を掬い取ってぺろりと舐めた。

「中に出してくれても良かったのに。残念」
「そんなヘマはしないよー」
「シャワーを浴びても?」
「ドウゾ。右のドアが浴室」
「ありがと。でも、カカシ上忍はそのままでいてね。私、まだ遊び足りないの。夜は始まったばかりなんだから」

女は優雅に微笑んで一糸纏わぬままベッドを抜け出す。
その背中が完全に消えるのを確かめてから・・・カカシは顔だけクローゼットに向けて声を発した。

「・・・サクラはさぁー、いつまで見てるつもり?」

びくりと身体を強張らせる。
抑揚の無いカカシの声は、敵と対峙した時と同じ緊張感をサクラに与えていた。

「他人のセックスを覗くのが趣味とか?いるよねぇ、そういうヤツ。それで性的興奮を・・・」

薄暗い世界に光が差し込む。
サクラの姿を隠していたクローゼットの扉をカカシが開いたのだ。

「感じる?」
「ひ・・ひどいよ!そんなこと・・・」
「それとも何?もしかして順番待ちとか?」

刃物のような言葉の数々に、まともに顔を見ることすら出来なくなってしまった。
俯けば涙が頬を伝うことなく落下し、ポタポタと膝小僧を濡らす。
こんなの先生じゃない、こんな人は知らないとサクラは力なく頭を振り続けた。
しかし、遠くから断続的に聞こえる水音とカカシ本人がサクラに現実を突きつける。

「・・・運が悪かったね、サクラ。今日此処へ来なければもう暫く良い先生でいてあげられたのに」

そう・・・サクラに対するどす黒い欲望は今日むちゃくちゃに女を抱けば誤魔化せるはずだった。
単なる時間稼ぎだとわかっていてもそうしようと思っていた。
あの最高難度のプロテクトがサクラに解除できたこと、それこそがカカシの唯一の誤算・・・。

「しよっか」

カカシはサクラを抱き上げ、乱れたシーツの上に静かに下ろした。
ここまで来れば嫌われようが軽蔑されようがもうどうでもいい。
やりたいようにやらせてもらうだけだ。

「オレとしたかったんデショ?」
「ち・・違う!私はただ・・・」
「ただ、何?ただサスケの代わりに構って貰おうって?そんな安っぽい愛なんてオレはいらないんだよ」

どう答えれば良いかなんてサクラにもわからなかった。
言葉に詰まって唇を噛む。
『サスケの身代わり』
確かにそういう気持ちが無かったとは言い切れない。

「忠告だってしてやってただろ?」

無断で部屋へ上がりこむたびに難度が高くなるプロテクト。
それがカカシからのやんわりとした拒絶だと確かにサクラは気付いていた。

「だから今から犯されたってサクラは文句を言えない」

反論できない台詞を淡々と並べ立てた後、カカシは抵抗する術も知らない少女の身体に覆いかぶさった。
目じりに溜まる涙を唇で拭い取る。
犯すという言葉に反応してか、サクラはカタカタと小刻みに震えていた。

「そんなに怯えなくていいデショ。ま、手加減もしてあげられないけどね」

短いサクラの忍服の裾を盛大にたくし上げ、現れた谷間に顔を埋める。
きつく吸い上げれば、サクラの口からひっと息を飲むような音が漏れた。
カカシの顔に自然と笑みが広がる。
何度も想い描いた光景が目の前にあるのだから興奮するなという方が無理なのだ。
続きを再開しようとしたカカシだが、ふっと何かを思い出したかのように上体を起こした。
サクラの上に跨ったまま、手を伸ばして自分のものでない忍服を拾い・・・それを部屋の入り口付近へ放る。
そこにはタオルを纏っただけの女が立っていた。

「あー・・・悪いけど、帰って。大事な用が出来たから」
「・・・大事な用?ぬけぬけとよくそんなことが言えるわね!」
「まぁね」

全く悪びれた様子の無いカカシに女はタオルを投げつけた。
上気した頬は決してシャワーを浴びていたせいだけではない。
女といえど自分より遥か子供に嬉々として跨ったカカシに用無しだと言われれば屈辱感で身が震える。
しかも、目の前の光景は和姦には見えなかった。

「馬鹿にしないで!!火影様にいいつけてやる!私、知ってるのよ?その子が火影様のお気に入りだってこと」

どうやらアカデミーで勤務することの多いこの女はサクラについて綱手お気に入りの医療忍者の卵という認識があったらしい。
カカシとサクラが同じ班で・・上司と部下という間柄であることまでは知らないようだ。
知っていればもっと別の・・・陰湿な言葉が投げかけられていたかもしれないが。

「いいよ。ただし、死ぬ覚悟はしといて?」

カカシから放たれた凍りつくような殺気に女が怯んだ。
今このまま黙って背を向ければ殺される・・・それは脅迫などという甘いものではない。
突きつけられた現実に、女の背中に冷や汗が伝った。

「・・・わかった。誰にも言わない」
「そう?じゃ、邪魔だから早く帰ってね」

自分に対して興味を失ったカカシが視線を薄紅色の髪の少女に向ける。
女は足元に落ちている自分の服を拾い上げ、強張った足をなんとか動かしてその場を離れた。



パタンと玄関の閉まる音がカカシの耳に届く。

「これで二人きりだ」

優しい声だったが・・・サクラにとってそれはこれから起こる苦痛を伴う行為への、始まりの合図にすぎない。
こじ開けられた口にすかさず舌が滑り込んでくる。
歯列をなぞった後、サクラの舌に絡みつきながら・・・まさぐっていたカカシの左手が胸の先端を摘んだ。

「ん・・んんッ」

全身に電気の走る感覚に、サクラが背を反らせる。
初めてだろうこの行為で見せる感度の良さはカカシを喜ばせた。
捲れ上がったスカートの下の短いスパッツに手を掛けて一気に引き下ろし、薄い体毛を撫でればあることに気付く。

「サクラ・・・濡れてる」

くくくと可笑しそうに笑うカカシの下でサクラは恥ずかしさのあまり泣きそうになっていた。
だってソコはベッドへ運ばれる以前から潤っていたのだ。
クローゼットの中でカカシと・・・あの女の人の交わりを見ていた時から・・・。

「やーらしいねぇ。もうほらこんなに・・・やっぱり感じてたんだ」
「やッ・・お願い・・・触らない・・で」
「駄目」

サクラが抵抗する前に、カカシは素早く折れそうに細い両足を肩に担ぎ上げた。
誰も触れたことの無い秘部が濡れている。
それも自分の情事を見て。
それだけでも興奮するというのに、サクラの蕾は息がかかるだけでひくひくと物欲しそうにカカシを誘うのだ。

「可愛がってあげるから」

誰に聞かせるわけでもなくそう宣言して、カカシは甘い匂いを放つサクラの中心に顔を寄せた。

「愛してるよ、サクラ・・・」

初めて囁く、愛の言葉。
しかし、与えられる快感を追うことに精一杯のサクラの耳に届くことは無かった。










夜が明け始めた頃、ようやく終わりを告げた責苦に放心状態のままサクラはベッドに横たわっていた。

身体の自由を束縛する力強い腕、
何度も押し付けられる欲望、
精神を抑圧する言葉の数々。

これらが先生の愛だと言うならば、それはとても狂気じみたものだ。
でも、どこか心地良い。

一晩中明かりの消えることの無かった天井を眺め、そしてゆっくりと瞳を閉じる。
どうしてナルトじゃ駄目でカカシ先生なのか・・・サクラはなんとなく判ったような気がした。









久しぶりにちょっと黒いカカシです。
裏と言う割りにエロくなんなかったけど・・・おまけに意味不明・・・

2007.02.11
まゆ