許しの天使





「じゃあ、行ってくるわね。」
「本当に大丈夫なのか?」

いつまでも子ども扱いする両親にウンザリする。

「しつこいわよ。ちゃんとやれるって、一日ぐらい。」

山1つ離れた温泉旅館への一泊旅行は、忍びとして任務に就き報酬を得られるようになったサクラから両親へささやかなプレゼントだった。
何度も同じような会話を繰り返した挙句、やっと両親が家を開けたのは今朝のこと。



   うーん・・・夕飯、何にするかなぁ?
   一人分作るっていうのもねー・・・

本屋の店頭で料理の雑誌をパラパラとめくりながらあれこれ考えていると、通りの向こうから銀色の頭の男が音もなく近づいてきて、サクラの背後から不意に声をかけた。
「何、読んでるの?」
カカシがひょいっと覗き込むと、それは料理の本だった。
意外だな・・・と思ったのが顔に出たらしく、サクラは自信ありげに口を開く。
「先生・・・私、料理は上手い方だと思わよ?」
「え?そうなの??」
「・・・信用してないわね・・・」
サクラが上目遣いにカカシを睨みつけると、ははは、と笑って軽く交わされてしまった。
   
   そういえば・・・先生って普段何食べてんだろう?

「先生は今日の夕飯、何食べるの?」
「夕飯、ねぇ?」
んー・・・と少し考えてから、『ビール?』と答えたカカシの一言で大体の食生活がわかるというものだ。
「ビールは・・・ご飯じゃないわ、先生。そうだ!もし良かったらだけど、夕飯作りに行こうか?うち、今日両親居なくてどうしようかなって思ってたトコなの。」
「え?いいの??」
カカシは転がり込んできたオイシイ話を断るはずも無く・・・
「肉じゃが、食べたいなぁ。」
「ん。肉じゃが、ね。先生、ラッキーよ?この間ね、すっごくおいしい肉じゃがの作り方教えてもらったばかりなの!!」
サクラは嬉しそうにそう言いながらカカシを引っ張り、スーパーへと向かって歩き出す。
さらりと意識せずに繋がれた手にカカシは顔を緩めていた。
   それにしても・・・・
   両親が留守だからご飯作りに行く、なんて言い方されたら誘ってるみたいだよ、サクラ。
   期待してもイイの?
背後からの絡み付く視線に、カカシが振り返る。
サクラは気が付いていなかったようだが、先ほど本屋で立ち読みをしていたサクラに声をかけようとしていた二人組みの男がいた。
見ない顔だが、おそらく中忍だろう・・・恨めしそうにこちらを見ている。
   アレ?まだいたの?
   お前らごときが気安く声をかけてイイ相手じゃないでショ、サクラは。
   ・・・失せろよ?・・・
右目だけの威嚇、しかし中忍にとって元暗部の殺気立った視線は正視できるものではなく・・・先に眼を逸らすと、くるりと背を向けて逃げるように足早に歩き去った。
「先生、何見てんの?早く−!」
サクラは歩みの遅いカカシの手をグイッと引っ張る。
「はいはい。」
カカシと中忍の言葉の無いやり取りに全く気付いていないサクラに、カカシは苦笑をもらす。
   ホントに・・・この娘は。
   もう少し自覚しなきゃ駄目でショ?

かわいいサクラ。
狙っているのは、不特定多数。




スーパーの袋を持ったカカシと手を繋いで夕暮れの道を、カカシの家へと向かう。
   やーん。新婚さんみたいじゃないのっっ。
スーパーへ向かう時にサクラから繋いだ手は買い物中もずっと繋がれたままで・・・今もそのまま。
カカシは一度も離そうとはしなかった。
サクラにはそれがなんだか嬉しくて、自然と笑みが広がる。
   ホントに・・・いつからなんだろう?
   いつも飄々とした態度の銀色の髪の男が、視界に入っているだけでとても安心した気持ちになることに気が付いたのは・・・
   ・・・守られている、と感じるようになったのは?
サクラは今更ながら、繋がれている手をとても意識・・・した。



   

「どうぞ。」
家に着くとカカシはやっと繋いでいた手を離し、玄関の戸を開けた。
「おじゃましまぁす。!」
サクラは元気良くそう言って、靴を脱ぐと躊躇いもなしに家へと上がる。
   おいおい、少しは意識したりしないの?
   一応、男の一人暮らしの家なんですケド。
複雑な表情でカカシも部屋へ上がり、リビングにある小さなダイニングテーブルの上にスーパーの袋を置いた。
サクラは初めて来たカカシの家を物珍しそうにあちこち見て回っている。とは言っても、2LDKのカカシの家はリビングの他に書斎と寝室があるだけ。
サクラは書斎として使っている部屋からパタパタとスリッパを鳴らして出てくると、もう1つの部屋も覗きに行った。
   あ・・・。
   そっちは寝室なんだけど・・・
カカシが声をかけるより前にサクラは部屋へと入ってしまった。
   ・・・?・・・
なかなか出てこないサクラをカカシは部屋の入り口まで様子を見に行く。
「何やってんの?」
サクラは見るからに高そうなベットの端に座り、スプリングを確かめていた。
「さすが、っていうか。先生、伊達に寝ることが好きなわけではないのね?コレ、すごく寝心地良さそう・・・」
   適度な硬さのマット。
   肌触りの良い掛け布団。
   寝返りを打っても落っこちないダブルサイズ。
   そして、先生の匂い。
   ・・・先生の、匂い。
サクラは急になんだか恥ずかしくなって、急いで立ち上がった。
「ご飯、作んなきゃ。」
サクラは入り口で固まったままのカカシの脇をすり抜けてキッチンへと向かう。
カカシはパタパタと遠ざかるスリッパの音を背中に聞きながらはぁー、と大きなため息を吐いた。
   ・・・ヤバかった・・・
   ホントに、マジで・・・
あと数秒サクラがソコから動かなければ、カカシは間違いなくサクラを押し倒していただろう。
そういう自信がカカシにはあった・・・・


キッチンに立つサクラの後ろ姿を、カカシはリビングのソファーに座って見ていた。
   エプロン、似合いそうだよなぁ・・・
   買っときゃよかった・・・
忙しく動き回るたび、桃色のサラサラの髪が肩の辺りで揺れる。
「先生・・・ホントに何も料理しないのね?お鍋とか、ホコリ被ってるわよ。」
「そーいってもなぁ・・・一人分の料理って、面倒だろ?無駄も多いし・・・」
サクラも本屋でそう思っていたので、ソレについては反撃しない。
「でも、外食ばかりだと栄養が偏っちゃうよ。」
それだけ言うと、サクラはやっと見つけた包丁を念入りに洗うと、ジャガイモの皮をむぎ始めた。
いつもはピーラーで剥いてしまうのだが、カカシの家には当然そんなものはない。
「・・・先生・・・、この包丁切れないよぅ。研がなきゃ−。」
「んー。そうだなぁ、サクラがまたご飯作りに来てくれるなら研いでもいいぞ。」
軽く冗談のように言うカカシにサクラは耳を赤くしながら、ふと思い出したことを告げる。
「でも、イルカ先生の家の包丁は切れ味イイわよ?同じ一人暮らしでも、随分と違うものね。」
イルカの家に行きなれたようなサクラの口調に、一瞬にしてカカシは思考回路が固まった。
   ・・・イルカの家?
   なんで、包丁の切れ味まで知ってんの、サクラ?
カカシの頬がピクリと引きつったことにサクラは気付くはずもなく、話を進めた。
「料理も上手なのよ!私、ビックリしちゃった。」
   ・・・イルカが作った料理、食べてるんだ・・・?
「それでね、この間イルカ先生に『肉じゃが』教わったの。」
嬉しそうに話し掛けてくるサクラの言葉はもうすでにカカシの耳には入っていなかった。
   イルカの家へ行って・・・?
   キッチンで料理して・・・?
   2人で一緒にご飯食べて・・・?
   ベットの寝心地も、確かめた?
   ねぇ、サクラ!!
返事が帰ってこないことを不思議に思いサクラが振り返った時、ソファーにいるはずのカカシの姿は無く、不意にサクラの真後ろからかすれた声が聞こえた。
「いつ?」
「え?」
「いつ行ったの、イルカの家。」
普段より低く、凄みを増した声はサクラを怯えさせるには十分なもので・・・サクラは反射的に逃げようと動く。
   逃がさないよ?
カカシはサクラの背後から覆い被さるようにして両手を塞ぎ、包丁を取り上げるとまな板へと放った。
「答えて。いつ、行ったの?あの万年中忍の家に!」
どうしてカカシがこんなに怒っているのか見当がつかないサクラはただ怯えて首をイヤイヤと振る。
   怖い・・・
   こんな先生、知ないよ!!
膝をガクガクさせてその場に崩れ落ちそうになるサクラをカカシは片腕で抱きとめ、耳元へ囁く。
「サクラぁ・・・自覚ある?他の奴らからどんな眼で見られてるか・・・お前、すごく美味そうだよ。」
カカシが囁くたびにサクラの首元に息が掛かり、サクラは更に体を強張らせた。
   どうして!!
   やだ!誰か助けて!!
サクラの叫びは言葉にはならず、エメラルド色の瞳から大粒の涙がポロポロと零れ落ちるだけ。
カカシはそのままサクラを担ぎ上げると寝室へ向かった。

カカシは寝室のドアを乱暴に開けベットにサクラを放り出すと、額あてと面布を剥ぎ取り、ぎしぎしとベットを軋ませながらサクラに覆い被さる。
「イルカのベットの寝心地はどうだった?」
「・・・」
サクラはカカシが何を言っているのか理解できなかった。
「オレのベットとどっちがイイが試してみてよ?」
カカシはサクラの両手を一つにして頭の上で押さえ込むと、空いている手でサクラの忍服のジッパーを一気に下まで引き下ろした。
薄いアンタ−シャツはクナイによって胸の中心から真っ二つに切り裂かれ、スパッツは下着ごと剥ぎ取られる。
「!!」
恐怖のあまり声も出せず、涙がいく筋も流れいてるサクラの頬に、カカシは唇を寄せて舌で器用に舐め取ると、両手を押えている力とは裏腹にやさしく動く舌はそのまま首筋へと移動し、下から上へと舐め上げる。
「や・・・っ」
サクラは今まで感じたことの無い感覚に恐怖を煽られ、体をよじって逃げようとするが、のしかかっているカカシの重みから逃れる術はなかった。
「んっ・・んん。」
下唇を軽く吸われて、薄く空いた歯列からカカシの舌が強引にねじ込まれると、サクラの口腔内を隅々まで犯していく。
それと同時に、カカシの指先が露になっているサクラのやわらかい膨らみへと移動し、先端を指の平でやさしく揉みしだくとそれはすぐに硬く尖った。
「ねぇサクラ、感じてる?」
カカシは自分の掠れた声に驚く。
   ここまで余裕が無いなんてな・・・
カカシが尖った先端を口に含み軽く吸い上げると、サクラは背中をのけ反らし甘い声を上げる。
「あっ・・んんっ・・」
   ホント、オレの方がどうにかなりそうだよ・・・・
執拗に胸の突起を攻められ、徐々に体の力が抜けていくサクラの様子に、カカシは頭の上で押え込んでいた手を離し、下の方へと移動させた。
うっすらと桃色に覆われ始めたソコは、カカシの拒むようにぴったりと閉じている。
2本の指で分け入るように進入すると、ソコはもう滴るほどの蜜を貯めていて・・・異物であるハズのカカシの指はスムーズに動かせた。
硬くなっているサクラの芯のまわりを焦らすようにゆっくりと撫でる。
それだけで、ビクビクと面白いほど良く跳ねるサクラの体を見下ろすカカシは吐き捨てるように呟いた。
「ここ・・・イルカにも触らせた?ねぇ、サクラぁ・・・」
もうすでに何も考えられなくなっているサクラは、カカシの言葉など理解できるはずもなく、意味の無い甘い吐息だけを吐き出している。
カカシは更に指の動きを早め、サクラにうねりのような快感の波を与えた。
「あぁっっ・・・」
   やだ、そんなふうに・・・触らないで!!
サクラは体の中心からじんじんと発せられる熱に耐え切れず、一段と大きく背を反らしガクリ、と力を抜いた。
体の奥が収縮しているのを感じながら、大きく肩で息をする。
「イっちゃった?・・・でも、まだまだだよ?」
カカシはサクラの芯に添えられたままになっていた指を、また緩やかに動かし始めた。
「や・・・お願・・い・・もう、・・・」
やめて、という言葉はカカシの口に塞がれて声にはは成らず、代わりに唾液の絡まりあうぴちゃぴちゃという卑猥な音があたりに響いた。
「ひゃっ」
深いキスの最中、いきなりカカシの細く長い指がするりとサクラの中へと入り込んだ。
指を根元まで埋めてしまうと、サクラの一番奥まで触れられる。
「サクラは、どこが気持ちイイの?」
カカシは指を動かし、角度を変えてはサクラの中を刺激する。
そのたびに与えられる快感は、もうすでにサクラの許容範囲を超えていた・・・
「んっ・・・あぁっ・・もぅ・・・・・・ヤ・・」
サクラの中が再び収縮し始めるのを感じ、カカシは指を引き抜くと自分自身を押し当て、一気に突いた。
「っっ!!」
言葉にならない痛みに涙に濡れたエメラルドの瞳が大きく見開き、カカシを写す。
カカシは構わず打ち付ける腰の動きを早めた。
   サクラ・・・・オレ以外、見ないで・・・
「ああっっ」
「うっ」
サクラが耐え切れず快感の波に沈むとほぼ同時に、カカシもサクラの中へと欲望の塊を吐き出した・・・





欲望をサクラの中へ出し切った後、カカシはやっと少し冷静になれた。
体の下には・・・自分に無理やり犯された幼い少女が意識を手放している。
   こんなつもりじゃ・・・・なかったんだけど。
   オレもまだまだ若いね・・・・
   さて、どうしよう?
イルカとの仲を疑った自分。
しかし、先ほどの行為の最中にそれは誤解だという事が・・・解ってしまった。
サクラの反応は、慣れているソレではなく、あるのは怯えだけだったし・・・まだサクラに入ったままになっていた自分自身をずるりと引き出すと、そこは血に濡れていた・・・・
   途中で解ったんだけど・・・止められなかった・・・
   ごめんね、サクラ。
カカシの細い指が、やさしくやさしく桃色の髪を梳く。
「んんっ・・・」
サクラは眉を寄せて薄く目を開けた。
カカシと眼があうとエメラルドの輝きを放つ瞳が涙で曇り、カカシの重みから逃げようと体をよじったが、その瞬間、下半身の鈍い痛みに顔をしかめる。
「ごめん・・・逃げないで。」
カカシの言葉にサクラははらはらと涙をこぼした。
「どう・・し・て・・こんな・こと・・・」
サクラは涙を拭うために添えられたカカシの手にさえ、体を強張らす。
カカシの胸はズキズキと締め付けられ、自分勝手な先ほどの行為を死ぬほど後悔した。
「お願い、嫌わないで。」
サクラはカカシの力の無い掠れた声にビックリし、背けていた顔を元に戻した。
「好きなんだ、サクラが。」
あの強引な行為の後にどれだけ信用してくれるかわからないが、カカシは素直に気持ちを打ち明ける。
「・・・オレ以外の誰かがサクラに触れるなんて、我慢できない。」
サクラは、カカシがやたらとイルカ先生の名を出していたことを思い出して尋ねる。
「・・・もしかして・・・イルカ先生に、嫉妬してた?」
まだ涙で潤んでいる大きな瞳は、たった今自分が汚したばかりだというのに、純粋で澄んだ色のままで・・・カカシは少し安心した。
「・・・うん。」
相変わらず、サクラに圧し掛かったままのカカシは動くことが出来ず、瞳を閉じるとそのままサクラの裁きを待つ。
暫くの沈黙の後、不意にサクラがカカシへと手を伸ばし・・・柔らかな銀色の髪にそっと触れた。
「せんせぇ・・・子供みたいね?」
いつもの口調で話し掛けるサクラの声に、驚いてカカシは瞳を開ける。
「・・・サクラ・・・」
「勘違いしないで?私、こんなヒドイことされて許してしまえるほど良い人間ではないのよ?」
「・・・うん。」
「先生だから・・・他の誰かなんかじゃなくって・・・先生だから・・・よ?」
「・・・ごめん。」
「もう一度言って。ちゃんと、わたしのことが好きだって言って。」
   好きだから、よね?
サクラの言葉によって、カカシの欲望のままの身勝手な行為は、二人の合意の下に行われた行為へと変わろうとしていた。
   許してくれるの?
「好きだよ、サクラ。何度だって言うよ・・・好きだ・・愛してる。」
カカシはサクラの拒絶を見落とさないようにゆっくりと手を頬へと寄せ、そっと額へと唇を落とした。
「私も・・・先生が好き。」
そういって華が開くように微笑んだサクラの笑顔を、カカシは一生忘れないと思った。


オレだけの天使。








2001.12.24
まゆ