今すぐキスして。





「おい、誰か教えてやれよ。」
「ヤバイって。死人が出るぞ。」
「あの子、ホラ・・・あれだろ?確かカカシんトコの・・・」

遠巻きに様子を伺っていた中忍試験管、イズモとコテツが顔を見合わせた。
「イヤ、もう遅い。」
そう言って、いつの間にか現れたゲンマが受付の入り口に視線を飛ばす。
二人がつられてそちらを見やると・・・本当に手遅れだった。
当の本人達は何も気づいていないようだが、なにやらただならない気配が近づいてくる。
火で例えるなら真っ赤に燃えるそれではなく、青白いモノ。
炎なのに冷たい、そんなカンジ。

「どばっちり食わないうちに帰った方が良さそうだ。」
ゲンマの言葉に中忍試験管2人も即座に頷き、通常、受け付け業務をする者が利用する『裏口』を目指して足早にその場を後にした。






「ねぇねぇ、君、名前は?」
「え?」
「な・ま・え!」
「・・あの?」
「下忍?」
「はぁ・・そうですけど。」

   なんなのよ、この人達。

「俺達さぁ、さっき里へ帰ってきたばかりなの。」
「そーなんだよ、一年ぶり。」
「にしても・・君、可愛いよね。」

   ・・・はぁ?

「今から暇?」
「ご飯でも食べに行こうよ、奢るし。」
「なんなら友達を呼んでもいいからさぁ。」

   先生の馬鹿ッッ!早く来てよ〜

「ごめんなさい。私、先生を待ってなくちゃ・・・」
「先生?・・何それ?いーじゃん、そんなの無視すれば。」
「そうそう、ブッチ!」
「で、名前・・何だっけ?」

「はたけサクラ。」

耳元で囁かれた声に男達は反射的に振り返った。
僅かに見上げる位置にある顔には左目を隠すように額当てが斜めに掛けられている。
口元は面布で覆うこの男の名を・・・知らない木の葉の忍など存在しない。
「オレの女に何か用?」
尋ねられた言葉の意味を男達が理解するのに暫くの間があった。
オウム返しに言葉を紡ぐ。
「・・・オレの・・おんな?」
「そう。コレ、オレの。」
カカシが男達の中心で埋もれていたサクラを引き寄せると同時に二人の男が鳩尾を押さえて蹲った。
「ゲホッ・・ゴホゴホッッ」
「先生!!」
いくらなんでもやりすぎだ。
激しく咳き込む男達を見てサクラが青い顔で叫んだ。
そんなことはお構いなしにカカシは悠然と続けざまに蹴りを繰り出す。
床に鮮血が飛び散った。
「やめろ!・・っう」
唯一立っていることの出来ていた男が思わず制止の手を伸ばすが、逆に掴まれ・・・捻り上げられた。
腕は肉体の限界を超え、嫌な音と共に到底人間には曲がることの出来ない向きに曲げられる。
「うぐッッ」
カカシが手を離すとその男もあっさりと床へと崩れ落ちた。
とどめとばかりに手刀を振り下ろすカカシに、再度サクラの悲鳴のような声が上がった。

「もうやめて!!何でもしてあげるからッッ」

男の身体に触れる直前にぴたりと止まるカカシの手刀。
カカシはそのままの体勢でサクラの瞳を覗き込んだ。
「・・・何でも?今、サクラ・・何でもって言った?」
「え・・・あ、うん?」
サクラの微妙な反応にカカシが再び手刀を振り上げる。
「わー!!言った。言いましたッ!だからやめて!!その人、死んじゃうよぅ・・・」
「了解〜。」
カカシは掴んでいた男の胸ぐらもポイっと放り出し、代わりに両手でサクラを抱き上げた。
「何してもらおっかなぁー?アレもいいけど、アレも棄てがたい・・・」
さっきまでのカカシは何処に行ったのだろう?
別人のように満面の笑みで呟くカカシと目を合わさない様、サクラは俯いたまま溜息を吐く。
「・・・イイケド、報告書はちゃんと提出してよね・・・」
「わかってマス。こんなもんさっさと出しちゃってオレの家に直行vvv」
未だ床に転がったままの『大きなゴミ』を器用によけて歩きながらカカシは受付のテーブルへと向かう。
サクラはカカシの背中越しにぼんやりと『大きなゴミ』を眺めて肩を落とした。

   同情なんてしないわよ・・・。

『家に直行』、その台詞で今日のサクラの予定は決まったも同然なのだから・・・。












「ん・・んっく・・・・」

床に膝を着き、自分に奉公をする薄紅色の髪を梳く。
何故か嫌がって滅多にやってはくれないのだが、今日は特別。

   何でもシテくれるって約束だもんねー♪

上下に揺れる頭から指を滑らせ頬を撫でると、サクラがカカシのモノを咥えたまま僅かに顔を上げた。
「・・あ?」
「上手く、なったね。サクラ・・・」
余裕としか取れないカカシの言葉にサクラは眉を顰めた。

   どうして?
   なんでそんなに余裕なの?!
   ・・・悔しい。

サクラはむきになって更に舌を動かし始めた。
裏筋に沿って舌を這わした後、先を窄めて先端を突付く。
カカシに教えられた『キモチノイイトコロ』
「・・っは・ぁ・・・」
ピクンと体が揺れ、吐息が漏れた。
カカシの吐息など滅多に聞けるものではない。
サクラは嬉しくなって舌の動きをそのままに上目遣いにカカシを見上げた。

   うわっ
   そんな色っぽい瞳で見るなって・・
   我慢できなくなるでショ。

カカシ自身を口いっぱいに頬張ったその口角から一筋の唾液が滴り落ちる。
大人と子供。
純真さと妖艶。
どちらでもあるし、どちらでもない。
そんな普段とは全く違った『サクラの顔』にカカシの張り詰めていたものが一気に迸る。

「かはッ・・ッッ」
サクラは口に両手を当てると恨みがましくカカシを睨んだ。
「・・・ゴメン。」
苦笑を浮かべたまま、カカシの腕が伸びてきた。
その細く長い指がサクラの鼻を摘む。
「飲んじゃえよ、サクラぁ。」
「ンンッ〜」
ぶんぶんと首を横に振るがカカシの指は外れず、息苦しくなってサクラはとうとうコクンと嚥下した。
それを見届けてからカカシはおもむろに指を離す。
「うぇ〜・・・不味ぅ。」
何とか吐き出そうとするサクラの様子にカカシは笑いを咬み殺し肩を震わせた。
「くっくっ・・ヒドイな。」
「先生の馬鹿ッ・・コレは飲むモンじゃないのッッ!」
喉に張り付くカンジを拭えないまま、サクラが悪態をつく。
ただし、言っていることは正論だ。
「ふぅん?でも、愛があれば飲めるでショ。」
そう言ってまだなおニヤニヤ笑うカカシにサクラがキレた。
「あ、そう。じゃ、キスして。」
「・・はい?」
「今すぐ、キスして。」
「え?だってサクラ今・・・」
「今、何?」
「オレの・・飲んだでショ?」
「だから、何!!愛があれば出来るはずよね?」
ずいっと身を乗り出すサクラに押し倒されながらカカシが慌てる。
「いや、チョット・・待て!・・サクラッッ」
「待たないもーん。」
カカシの腹の上で馬乗りになったサクラがゆっくりと顔を近づける。
愛しい人の無邪気な微笑みにカカシは観念すると肩の力を抜いて瞳を閉じた。

・・・やがて降りてくるであろう柔らかな唇と可愛い舌を待つために。











2002.05.04
まゆ