水槽




窓がないこの部屋の唯一の光源は天窓から射す光。
部屋の隅には備え付けの厠。
その対角線上には床に直接置かれたマットがあり、白いシーツのみが無造作に引っ掛けられていた。
壁には扉が一枚、はめ込まれているように見える。
ただそれは外に出るためのものではなく、浴室へと繋ぐものだった。
・・・此処から見えるのはただそれだけ。

水のない大きな深い水槽の中。
何も纏わず、生まれたままの姿の私。

そう。
これが・・・私の、世界。












天窓から月の光が射す頃、不意にそれは現れる。
触ると意外に柔らかな青銀の髪はサクラのお気に入りだった。
暗い部屋の中、月光に反射してキラキラと光る。
とても綺麗だ。
しかし、それ以上にサクラを縛っているのは色の違う両の瞳。
彼に見つめられると指一本、まともに動かせない。
急に体温が上昇し、鼓動が早くなるのがわかる。

「サクラ・・・イイコにしてた?」
「うん。」

早くここから出してと言わんばかりにサクラは両手を差し伸べる。
「くく。サクラは可愛いねぇ。」
可愛いという言葉に頬を染める少女をカカシはひょいと抱き上げた。
腰の高さのダイニングテーブルの上に置かれた深い水槽からリアルな空間へ。
サクラが触れることの出来る、唯一の現実であるカカシは邪な笑みを馳せて囁く。

「さぁ、どれぐらいオレのことを待っていたか教えてよ、サクラ・・・」



自分を此処へ閉じ込めた者。
彼が紡ぐ言葉意外は全て無意味に感じるほどに、サクラは彼の従順な僕と成り果てていた。












「あーんして。」
ゆるく口を開いた少女に、カカシは手にした肉を自ら噛み砕き、口移しで与える。
サクラの喉を通り、その細い首が与えられた物を嚥下するのをカカシは満足そうに眺めていた。
「お水・・・」
「はいはい、お水ね。」
水差しから直接口に含んだ水を、やはり同じようにサクラへ与えてやった。
口角から一滴の水が垂れ、サクラの太腿を濡らす。
かまわず注がれ続ける水にサクラは受け止めきれず咳き込んだ。
「大丈夫?」
到底、心配しているとも思えないカカシの声が頭の上から降り注ぐ。
むしろ含み笑いすら隠そうともしていない。
それでもサクラは潤んだ瞳で大丈夫だと何度も頷いた。
目の前の男に嫌われたくない一心で。
「そう?じゃ、ご飯はおしま〜い。」
カカシはにこやかにそう告げ、食事を下げた。
「今日は何して遊ぼうか?」
何をして、とは我ながらよく言ったものだ。
自分がサクラとすることなど、ひとつしかないのに。
それ以外の遊びを教えたことも、ない・・・。
カカシは無表情の仮面の下でほくそえむ。
「はやくサクラにさわって。」
鈴を転がすような無邪気な声がカカシの中の残忍さを更に増徴させた。
「ん〜・・・駄目。」
「どうして?」
「サクラがどれだけオレのことを待っていたかまだ教えてもらってない。」
「そんなの、わかってるくせに。」
「ちゃんと見せてくれなきゃわかんないよ。」
カカシの言葉にサクラの頬が紅潮する。
カカシはもじもじと俯く少女の小さな頤を人差し指で支えるようにして自分へと向けた。
「見せて?ね?サクラ・・」
「・・・は・・い。」
サクラにとって絶対的存在の男の命令。
背けるわけがない。
ぴったり閉じていた太腿を広げ、サクラはもとより一糸纏わぬ身体をカカシの前へ曝け出す。
「もっと奥まで。」
口の端をゆるく吊り上げて声無く笑うカカシが言葉を発した。
羞恥に頬を染め、瞳を潤ませながらもサクラはカカシが意図するところを理解し、行動に移す。
戸惑う幼い指先がまだ生え揃わない薄紅の茂みを割って広げる。
まだ触れてもいないのに、そこはもう滴り落ちそうなほど甘い蜜を蓄えていた。
「ホントだ・・。えっちな身体。」
「ねぇ、おねがい。」
見ているだけのカカシにサクラが甘えた声を出す。
「自分で触ってみなよ。」
「カカシがいいの。カカシじゃなきゃ、いや。」
見られていることで更に興奮したのか、サクラから溢れ出る蜜は留まることを知らずシーツにシミが広がった。
「しょうがないなぁ・・・」
言葉とは裏腹に満面の笑みを浮かべたカカシが、ずいっと身を乗り出し、口付ける。
「んっ・ん・・・はッ・・」
生き物のように蠢く舌に歯列をなぞられ、サクラは身を震わせた。
頬に添えられた大きな手を掴み、自ら秘所へと導く。
「さわっ・・て・・・」
サクラの中へゆっくりと滑り込んできた指はじらすように蜜を絡めては抜き差しを繰り返す。
「くく。サクラ、もうとろけちゃってる。」
「あぁんッ・・あっ・・あ!」
同時に与えられる芯への刺激に溜まらずサクラが仰け反った。


与えられる快楽。
終わりの無い陶酔。



空が白み、月が掠れて見えなくなる頃、やっと二人は遊び疲れて眠りをむさぼりはじめた。












「じゃ、またね。」

脱ぎ散らかしていた忍服をきっちり着込み、面布と額当てをつけたカカシは昨夜とはまるで別人のように見えた。
抱き上げられ、再び水槽へと戻されたサクラはガラス越しにカカシに手を振る。
「いってらっしゃい。」
また夜までお別れだ。
上のほうから伸びてきた大きな手がサクラの頬を愛しげに撫でる。
「いってくる。」
名残惜しそうに一度だけ振り返った後、パタンと扉の閉まる小さな音がして、カカシは部屋から・・・サクラの世界から姿を消した。

   ?

扉が。
外界とを繋ぐ扉が。

いつもカカシが出て行った後すぐさま消えて無くなる扉が、今なお消えないまま残っている。
こんなことは初めてだった。
妙な違和感にサクラが小首を傾げる。
ただ単にカカシが隠し忘れたとは考えられない。
とすれば、何か思うことがあるだろうか?
暫く悩んだ後、サクラは一つの結論を出した。

   もしかして、試してる?
   ・・・この私を?!

連れてこられた当時ならまだしも、いくら深い水槽とはいえ、幾分身体が成長した今なら背伸びするだけで簡単に縁に手が届く。
水槽から出ようと思えばそれはサクラ一人でも容易なことだった。
水槽を出て元の世界へ。
両親の元へ戻るには、今しかない・・・のだろう。
それでもサクラは行動を起こす気などさらさら無かった。
此処から抜け出してどうするというのか。
元の世界に戻ったが最後、カカシとは逢えなくなる。
・・・そんな気がするから。

サクラは今なお残ったままの扉に興味を失って視線を反らすと、膝を抱えて丸くなった。
カカシが帰ってくるまで、まだたっぷりと時間がある。

   何をして過ごそう・・・?

しかし、考えたところでサクラが『スルコト』といえばいつも同じ。
大きな深い水槽の中でカカシの夢にまどろみ・・・その幼い身体を火照らすこと、だけ。

天窓からは太陽が降り注ぐ。
月のそれとは違い、眩し過ぎるほどの光にサクラは瞳を細めた。



「・・・はやく、よるにならないかなぁ?」















カカッスィー誕生日企画第二弾。
でも誕生日とは全く関係なし。
イイの。
水槽に監禁されてるサクラが書きたかっただけだから。


2003.09.13
まゆ