love me tender 3




トントントンとリズミカルに階段を下りる。
マンションの入り口で先に出たナルトが寒そうに背を丸めて待っていた。

「遅せぇよ!・・・ってか、何か付いてんの?」

そこ・・と指差されて、サスケは慌てて頬から手を離した。
途端に夜の温度が一点に灯った微熱をサクラの唇の感触もろとも奪い去る。
感謝の印のキスはサスケの心にほろ苦さだけを残した。

「・・・別に」
「じゃあ、そんな辛気臭い顔はやめろってば」

急ぐ様子もなく歩き出したナルトが両手を天に突き上げるように伸びをしてサスケを振り返る。

「任務って嘘だろ?」
「・・・」
「オレにだってそれぐらいわかるよ。・・・仲間じゃん」

少し、意外だった。
そんな思いが表れたサスケの表情に、ナルトはあからさまに眉を寄せる。

「あのさ、オレはお前がいない時のサクラちゃんとカカシ先生がいない時のサクラちゃん・・・その両方を見てるんだぞ?馬鹿にすんな!」

カカシ先生が長期任務で里を空けたと知らされた時、サクラちゃんにサスケがいなくなった時の様な激情は見られなかった。
しかし、緩やかに長く続く寂しさが彼女に本当の気持ちを気付かせたのだとナルトは思う。
サスケではサクラの空いた心の隙間を埋めることが出来なかった。
・・・もちろんオレもだけど。

「・・・カカシ先生、サクラちゃんを振ったりしない・・・かな?」
「ありえない」

ナルトの淡い期待にサスケがきっぱり印籠を渡した。
サクラの場合カカシが里を出た四年の間に自覚した想いだが、カカシに関しては全く違う。
四年前から・・・あるいは、それよりもっと以前から持っていたであろうもの。
そして、それは全く失われてはいない。

「やっぱそうだよなぁ・・・サクラちゃんに告白されて断る男なんていないっつうの!」
「お前もいい加減諦めろ、ウスラトンカチ」

サスケが肩を竦めて言った一言に返事はなく、ナルトは再び歩き出す。

「・・・飲みに行こうぜ」
「二人でか?」
「文句言うなってば。料理、食べ損ねて腹も減ってるし・・・お前も夕飯まだだろ?」

返事の代わりにサスケは無言で繁華街へと足を向けた。
肩を並べたナルトが八つ当たり気味な愚痴を零す。

「サクラちゃんの手料理・・・スゲェ美味いのに。連れ出すのはせめて食べてからにして欲しかったってばよぅ」
「・・・昔は散々な味だったけどな」
「え?そうなの?」

半信半疑の目を向けられて、サスケは口元だけで笑った。
サクラは初めから料理が上手かったわけじゃない。
付き合い始めの、あの独創的な味を思い出せば、同時に切ない思いがサスケの胸を満たす。

『どうしてあの頃もっと優しくしてやらなかったのだろう?もっと思いやってれば・・・サクラは今も自分の傍に居たかもしれないのに』

物分りがいいフリをしても溢れ出る本音はこんなもんだ。
ナルトに負けず劣らずオレも十分・・・

「・・・女々しい、か」

サスケが呟く。

「少しね」

サスケの心を見透かしたようにナルトが答えた。
まぁいいさ。
鈴取りで多少のウサは晴らせるだろう。
かつての師匠だとか・・・そんなことはクソ喰らえだ。
カカシに手加減してやる義理はどこにも、無い。

「ナルト・・・」
「んー?」
「近いうちにカカシと鈴取りやるぞ」

一瞬、不思議そうな顔をしたナルトだったが、すぐさま瞳を輝かせて大きく頷いた。

「了解。こてんぱんにノシてやるってばよ!」

ナルトの意気込んだ台詞を聞きながら空を仰ぎ見れば、瞬く星と冬の澄んだ空気がサスケの胸に痞える思いを浄化していく。
自分とサクラの関係がすでに終わっていることをカカシに告げなかったのはサクラをとられたことに対する些細な仕返しのつもりだったが・・・サクラは一人でちゃんと誤解を解くことが出来るだろうか?
肝心なことになると口下手な彼女を思い浮かべ、サスケは心の中でもう一度そっと呟いた。

頑張れ、サクラ・・・と。










あれは確かアカデミーを卒業した年の夏のことだった。
先生の遅刻のせいで任務開始時間が遅れ、草抜きという単純労働が終わったときにはいつものように日もすっかり暮れていた。
その日はちょうど木の葉神社の縁日で、それを目敏く見つけたナルトの強引な誘いにより七班全員で行くこととなった。

はしゃぐナルトを先頭に、しぶしぶといった風のサスケが続く。
私は一番後ろから先生の買ってくれたリンゴ飴を食べながら歩いていた。
出来ればサスケと腕を組んで歩きたいと狙っていたのに、そんな隙はどこにも見当たらず、隣には猫背の男が一人。
手にいかがわしい本を持ったまま、子供のようにきょろきょろと辺りを見回している。
私はリンゴ飴を口の中で噛み砕きながらその様子を眺めていた。

「何?」

視線を感じたのか、先生が急にこっちを向いた。
なんでもないと慌てて首を横に振れば、その拍子に飲み込んだリンゴの欠片が喉に痞えて咳き込む。

「そんなに慌てなくても」

笑いながら大きな手がぽんぽんとサクラの背中を叩いた。
慌てるなと言われても、サスケとは違った意味で意識しているのだからしょうがない。
謎の多いこの上司はサクラにとって今一番好奇心をそそる相手といえる。
懸命に呼吸を整えているとカカシが不思議そうに訊ねてきた。

「ねぇ、サクラ・・・リンゴ飴ってかじるモノなの?」

飴というからには舐めるものだとばかり思っていたと、サクラの小さな歯形のついたリンゴ飴をまじまじと見ている。
何だかとても恥ずかしい。
サクラは真っ赤になって早口に捲くし立てた。

「飴だけ舐めちゃったらリンゴが残っちゃうじゃない!リンゴ飴のリンゴってそれだけで食べるとおいしくないのよ」

そもそもリンゴ飴とはリンゴとしては商品価値のない、売れ残りのリンゴを売りさばくために考案されたと本で読んだことがある。
酸味の強いリンゴだからこそ飴と一緒がおいしいのだ。

「へぇー・・・そんなもんなの?」
「そんなものなの!!」
「ふぅん。じゃ、試しに一口・・・」

人差し指で面布を引き下ろしたカカシがサクラの手元に顔を寄せる。
初めて見るカカシの素顔(しかも超至近距離!)に、サクラは息を呑んだ。
ナルトとサスケがあの手この手で頑張っても未だ見ることの出来ていないカカシの素顔。
サクラも色々と想像はしていたが、思った以上に格好良くて・・・ぼぅっとしている間にリンゴ飴をかじられてしまった。

「あっ・・・ちょっと!」
「遅ーい」

もごもごと口を動かせながら、カカシは何事もなかったかのようにまた面布を元に戻す。
もう少し見ていたかったという思いが湧き上がったことにサクラはうろたえた。
動揺を隠すように大きく目減りしたリンゴ飴にかじり付けば、そんなサクラを知ってか知らずか・・・カカシが爆弾のような一言を告げる。

「間接キスだねぇ」

瞬間、ぴたりと動きを止め、口の中のリンゴを丸呑みしたサクラは人ごみだということも忘れて思わず叫んだ。

「せ・・先生の、ばかぁー!」

あまりの大声に、ナルトとサスケが振り向き・・・。

それからのことはもう思い出したくもない。
ナルトが何をやった、とカカシ先生に詰め寄って。
後ずさったカカシ先生が人とぶつかって。
こけかけた人を助けようとしたサスケくんが勢い余って屋台に突っ込み・・・
結局、私達は警備を担当していた特別上忍の皆さんにカカシ先生諸共、しこたま怒られた・・というあまり楽しくない記憶なのだ。

その、後日談を除いては。




翌日、サクラの家の郵便受けに小さな小さな紙袋が入っていた。
中からは『からかってごめんなさい』という反省文のような一言と、指輪が一つ出てきた。
それは縁日の屋台でよく売られている子供だましのちゃちなアクセサリー。
しかし驚いたことにそれは中でもサクラが一番気に入ったものだった。
もちろん物欲しそうな、そんな素振りを見せたつもりはなかったはずなのに。

カカシからの思わぬプレゼントに私は素直に喜んだ。
指輪という『物』に対してではない。
優秀なナルトやサスケくんだけじゃなく、私のこともちゃんと見ていてくれているのだと実感できたから・・・それがとても嬉しかったのだ。










瞳を開けると、目の前にカカシがいた。

「せん・・せい・・・?」

綱手にカカシの帰還日を知らされてから、サクラはカカシの夢をよく見ていた。
またかと思いつつも手を伸ばせばリアルな肌の感触に思わず身を引く。
しかし、何故か思うように動けなかった。
カカシにすっぽりと抱きかかえられているのでそれも当然のことなのだが。
どうやら自分は少しの間意識をなくしていたらしい。
次第に戻ってくる記憶と感覚・・・下半身にある違和感。
それに気付いた時、サクラは羞恥のあまり真っ赤になってカカシに懇願した。

「あの・・お願いだから・・・抜いて・・・」
「何を?」
「先生!」
「ははは。まだ『先生』って呼んでくれるんだ?」

結婚していないとはいえ・・・婚約者も同然の男、サスケの留守中に抱いたサクラはカカシの言葉に顔を伏せた。
そんなほんのわずかな動きだというのに、繋がった部分には大きな刺激となって伝わる。
サクラの蜜でぬかるんだソコはくちゅりと二人の耳に届くほどの水音を
たて・・・笑みを浮かべるカカシとは対照にサクラは白い肩を震わせて恥ずかしがった。
さほど強い抵抗もなく抱かれたサクラは一体何を考えているのか・・・カカシにはわからない。
それにもう一つ・・・カカシが疑問に思うことがある。
サクラはこういう行為自体、慣れていないようなのだ。
本当に・・・サスケのヤツは何をしていたのかと失笑が漏れた。

「でも生憎と『先生』は廃業したんでね。カカシでいいよ」

全てを取っ払って、ただの一人の男として見て欲しい・・・そんな純粋な思いが今更伝わるのだろうか?
この強引な行為の後では流石にカカシも虫が良すぎる気がした。

「・・・もう、終わった?」
「え?」
「もう性欲処理は終わった?」

サクラの問にかっとなる。
確かにそう口走ったのは自分だが、その言葉に真実はない
気持ちを上手く伝えることが出来なくて・・・投げやりな、攻撃的な言葉だけがカカシの口をつく。

「・・・まだだと言えばヤラせてくれるの?明日も、明後日も・・・サスケの見てる前でも?」
「ちが・・ッあ・・ぁんっ」

否定の言葉は大きな律動に飲み込まれた。
腰を引き寄せられ、更にカカシと密着したサクラはそれだけで気がおかしくなるほどの快感を感じる。

「話を・・ッ・・ぁ・・・やだっ」

カカシはサクラの身体をころんと反転させて組み敷くと、その顔を覗きこんだ。
涙を拭う細い指には浴室で外したはずの指輪がおさまっている。
温泉の成分である硫黄のせいで黒くくすんだそれをカカシは噛み付いて奪い・・・ベッドの上から遠くへ吐き出す。

「あれはオレには役に立たないよ、サクラ・・・」

ここまで来れば威嚇にもなららない。
そう思わないか?
事実・・・・・

「もう何度抱かれたと思ってんの。この中はオレの精液でいっぱいデショ?」

カカシの冷たい指先がサクラの下腹部を撫でる。

「避妊せずにセックスするの、初めて。はは・・もしこれでサクラが妊娠しても絶対堕ろさせないから」

狂気じみた台詞の奥に、サクラは何か見つけたような気がした。

「・・・誰でも良いわけじゃ、ないのね?」

必死の思いで問いかける。
抱きながら愛してるって言ったのも、誰にでも囁く睦言じゃなくて・・・

「・・・私だから・・・?」
「サクラだから」

カカシはさらりと答えてサクラの胸に顔を埋めた。
もう何度もそうしたように硬くなった先端を口に含み、ちゅっと吸い上げる。
そうすれば下の口もカカシを締め上げて二人が深いところで繋がっているのを実感することが出来た。
サクラの中は暖かくてカカシを優しく包み込んで離さない。
とにかく、身体の相性は最高だった。

「ヤ・・ぁ・・・いぃ・・はぁんっ」

サクラの乱れた声を聞きながらゆっくりと腰を引き・・・最奥を目指してまた埋め込む。
そんな単純な動きにカカシは没頭していった。

「カカシ・・先・・せぇ・・・・」

飛びかける意識をかろうじて繋ぎ止め、サクラはカカシの名を呼んだ。
吐息の合間に『好き』と何度も囁く。
大切に暖めてきた気持ちがカカシの心に届くことを祈りながら・・・










絡みつく腕をそっと押し上げると、サクラは這うようにベッドを降りた。
カーテンから差し込む光は朝日と呼ぶには眩し過ぎて、太陽がすっかり昇ってしまっていることがわかる。
何か身に付けるものをと探りながら時計を見れば、既に正午を回っていた。

「どうりでお腹も減るわけだわ」

昨夜から何も口にしていない。
それはカカシも同じはずなのだが・・・彼は全く起きる気配がなかった。
四年という長期任務から戻ってきたばかりで疲れているうえに、明け方近くまで自分と交わっていたのだ、体力も限界だろう。
もう少しの間・・・何か軽い昼食を準備するまで寝かせておいてあげたい。
サクラはシャツを羽織り、胸元に残る無数に散らばった愛された痕を隠すと、もう一度ベッドの上のカカシに視線を向けた。
幾分若く見える寝顔に、知らずと笑みが浮かんでくる。
先生が目を醒ましたら先生がいなかった間のことを沢山話すつもりだ。
綱手様との修行の厳しさや任務での失敗談・・・もちろん、サスケくんとの恋の話も。
先生は執拗に誤解していたけれど、もう終わったことだとちゃんと説明してわかってもらわなきゃならない。
サクラは音をたてないようにそっと立ち上がった。
キッチンへ向かうその視線の先で・・・部屋の隅に転がっている指輪を見つけ、拾い上げる。

そうそう、指輪の話もしないとね!
今では小指にしか入らなくなったこの指輪をくれたのは先生なんだもん。
でももう何年も前のことだし・・・覚えてないかな?

それでもいいやとサクラは思う。
先生は帰ってきたばかり。
時間はたっぷりあるのだから・・・・・









長くなりましたが・・・ちとせさんに捧げます。えぇ、勝手にね。(笑)

サスケ王子とナルチョは大人なんですよ!
一番子供なのは先生。
だからヘタレ鬼畜に!(爆)

2007.03.18
まゆ