いちごみるくハニー




陽は傾き、歩道には長い影が伸びる。
木の葉商店街を抜けて自宅へ続く一本道を歩きながらシカマルは大きな伸びをした。
ついでに首をコキコキと鳴らし、誰に聞かせるわけでもなく一人ぼやく。

「めんどくせー…」

手に持ったスーパーの袋には醤油が入っている。
夕食を準備していた母に頼まれたものだ。

「醤油ぐらい自分で買いに行けよな」
「たまには手伝いもしなさいよ」

母親に似た口調で返事があった。
誰だ?などと考えるまでもない。
シカマルが振り返ると、そこには予想通りの人物が立っている。

「なんだよ、いの」

シカマルの顔を見るなり、いのは怪訝に眉を顰めた。
片方の頬が僅かに膨らんでおり、口から棒を突き出している。

「何ソレ?」
「は?見りゃわかるだろ。飴だよ、飴」
「そんなことわかってるわよ。アタシは棒付きのキャンディーなんてアンタには似合わないってことを言いたいの!」
「ほっとけ。オレは腹が減ってんだ。じゃーな」
「じゃーな、じゃないでしょう!!貰うまでは帰さないわよッッ」

いのは醤油を持つシカマルの腕をがっしりと捕まえた。

「何を?」

強引に引き寄せられたシカマルがよろけながら尋ねる。

「今日はホワイトデーよ?アタシに渡すものがあるでしょーが!」
「…そんだけ貰ってりゃいいじゃん」

いのはすでにお返しを3つ、片手で抱えるようにして持っていた。
一番大事そうに持っている包みはサスケからのものだ。
憮然としたサスケが事務的に…本当に事務的に配っているのをシカマルも見た。
同じ班の紅一点、春野サクラにお返しぐらいするよう諭されたに違いない。
お返しを貰う女の子の列は何かの配給を待っているようで…チョウジと面白半分に眺めていたので良く覚えている。
今日は下忍の女の子の大半が、今、いのが持つ同じ包みを持っているはずだ。
そして…飾り気のないファミリーサイズのクッキーの詰め合わせは言うまでもなくチョウジだろう。
しかも、無理やりいのが取り上げたとみた。
多分アレはチョウジの今日のおやつだぜ。
シカマルはチョウジを思い、気の毒そうに肩を竦めた。
残るひとつ、一番まともなソレはきっとアスマだ。
今後の円滑な任務遂行のために、自ら進んで差し出したであろうことは容易に想像できる。

「そぉいう問題じゃないッッ!」
「はいはい」

いのに掴まっていた手を振り切るようにしてシカマルが歩き出した。

「あ、逃げるな!」
「ったく…うるせぇな、お前は。これやるから勘弁しろ」
「え?」

シカマルは振り向きざまに自分の口から取り出した飴をいのの口にねじ込んだ。
口に広がるいちごみるくの味。

『間接キス』

そんな単語が、いのの頭の中を過ぎった。
瞳を大きく見開いてシカマルを見つめるいのの顔は見る見るうちに赤くなる。
お返しの包みがいのの腕の中からバラバラと地面へ落ちた。

「また明日」

何事もなかったかのようにシカマルはゆっくりと背を向ける。
いのがその場にへにゃりと座り込む気配を背中で感じながら、シカマルは笑いを噛み殺した。

普段大人ぶって仕切りたがるいのも所詮はこの程度だし、な。
不意打ちの間接キスぐらいでおたおたするなんて可愛いモンだ。

街灯の灯がともる。
シカマルは薄暗くなってきた道をのんびりと歩きながら、いのの赤面した顔を思い浮かべては何度も思い出し笑いを繰り返した。

覚悟しとけよ。
来年はこんなもんじゃすまさねぇぞ?












なんとなく思いついたので書いてみた。
ラブいね(爆)
それにしても…私が書くとみんな腹黒くなるのは何で?
くくく。
所詮、アタシが鬼畜好きだからか。(結論)

ちえりさん、こんなシカはどうですか?(笑)

2004.03.21
まゆ



2008.11.02 改訂
まゆ