赤い指




パチン、パチンと不規則な音が耳に障る。
読みかけの本から顔を上げ、サクラは音の発信源を横目で見やった。
カカシが爪を切っている。
さっき古い新聞を広げていたから多分間違いない。
ベッドの上からだと背中しか見えないが…やたらと顔が近いような気がした。

「先生…視力、落ちた?」
「…」

返事は無い。

「先生ってば!」

サクラは猫のようにするりとベッドを降りるとカカシの背中に飛びついた。

「…あー…何?」
「視力落ちた?って聞いたの」
「んー…どうだろ?落ちたかもね」
「ふぅん」

適当な相槌だと思う。
でも、さほど答えを聞きたかった訳でもないし。
先生も気にした様子は無いから…それはそれでいいの。

「サクラぁー…針持ってる?」
「あるよ」

やっとカカシが自らの指から視線を外して私を見る。
サクラはポーチの中からソーイングセットを取り出し、糸が付いたままの針を一つ手に取った。
以前、忍服のほつれを修復するのに使用した時のままの、赤い糸が付いた針だ。
カカシは礼を述べてそれを受け取ると、爪の隙間へと刺し込んで詰まった塵をほじり始めた。

「深爪になっちゃう」
「んー…大丈夫、大丈夫」

何が大丈夫なんだか。
ホント、意味の無い会話ね。

サクラの見ている目の前で、赤茶けた粉がはらはらと新聞の上に舞い落ちる。
それが何なのか、もちろん自分は知っていた。

「…ねぇ、先生。ヤスリは私がかけてもいい?」
「いいよ」

カカシは即座に頷いて、サクラに手を差し出した。
男の人にしては綺麗な指をしている。
色が白い。
細くて、長くて。
そして…人の命を簡単に奪うことの出来る指だ。
サクラは人差し指から丁寧にヤスリをかけ始めた。

「綺麗にしてね、サクラちゃん」
「何言ってんの」
「だってサクラに傷がついちゃうと困るし。サクラも痛いの嫌デショ?」

カカシの、爪を切りそろえた指がゆっくりと内腿を撫で上げる。
下着をずらし、淡い茂みを掻き分けて…目的の場所は更に奥深く……
火傷しそうなほどに熱を持った、私のナカ。

「今、想像した?」
「…しないもん」
「嘘吐きだねぇ、サクラは」

カカシは新聞を丸めて屑篭へ放るとサクラを床に押し付けた。
狙いを定めて、唇を奪う。

「ふぅ…んッ」

有無を言わせない強引さも嫌いじゃない。
自分はもともと流されやすいタイプなのだ。
舌を探り取られて吸われれば、それだけでもう目の前の男のコトしか考えられなくなる。
サクラを拘束するように床についてあった手が、頬を撫でた。

「……怖い?」

カカシの問が、これから起こる行為のことを指しているのではないことぐらい分かっている。
サクラはカカシの手を取り自分の指と絡めてちゅっと軽く口付けた。

「全然」
「…そっか」

見れば自分の爪にも赤茶けた塵が所々にある。

…よく洗ったつもりだったのに。

サクラは昨日綱手のサポートとして手術に参加した。
心臓移植の、外科手術だった。

人の命を繋ぐ指と、奪う指。
共に血にまみれたそれを絡めあって……
自分達は何処までいけるのだろうか?

「ねぇ先生…早く続き、しよう」

煽るように、サクラの赤い舌がカカシの下唇を舐める。
カカシは一瞬だけ泣きそうな顔を見せたが…すぐにいつもの掴み所の無い表情でそれを覆い隠した。

「うん。しよう」


サクラの指が解かれて。
カカシの指はサクラの胸を這う。


「あ」

服の裾からするりと滑り込んできた手は器用にブラを押し上げる。
小さな胸を鷲掴みにされた時、皮膚を引っかくような僅かな痛みを感じた。

そういえば…親指の爪、ヤスリかけ忘れたかも。
終わったらちゃんとやっとかなきゃ。

サクラは忙しなく動く指にゆっくりと思考を手放していく。

…覚えてたらの話だけどね。



自信は半々だった。









なんとなく思いついたので言葉にしてみました(笑)
気だるい午後のひとときですー

2006.09.02
まゆ



2008.11.30 改訂
まゆ