曖昧




貴方の言葉はいつだって曖昧で不鮮明。






「私のコト、好き?」

私は幾分伸びた髪の一房を指先で弄びながら先生に問いかけた。
何をするわけでもなく、ただ時間だけが過ぎる空間で初めて交わされる言葉。

「…割とね」

少し間を空けて返ってきたのはそんな答えだった。
いつもに増して面倒臭そうな声。
愛読書から片時も目を離さないし。
それどころか、私がこの部屋に遊びに来てから先生は一度もまともにこっちを見てない。

割とって…どれぐらいのパーセンテージなのかな?
60%?
それとも70%?
まさか、50%以下ってコトはないよね?!

サクラは大きな軟らかいソファーに身を沈めて考え込む。
時折聞こえてくる、カカシがページを捲る音だけがサクラに独りではないことを感じさせた。




「しないの?」

再び訪れた長い沈黙を破ったのはやはりサクラの方だった。
それは「何を」と聞くまでも無いこと。
やっとカカシがサクラの方へ顔を向けた。

「したいの?サクラがしたいのなら…」

付き合ってあげてもいいよ、って?
先生は?
先生は、本当はどうしたいの?

カカシの視線に耐え切れなくて、サクラは膝を抱えて丸くなる。
会話はそこで呆気なく打ち切られた。
僅かに空かした窓から生温い風が入る。
カカシは小さな溜息と共に本を閉じた。

「ちょっと出てくる」

一方的にそう告げてサクラに背を向けるとスタスタと部屋を出て行く。
やがて膝を抱えたままのサクラの耳に鉄の扉が閉まる音が重く響いた。










いつの間にか部屋は真っ暗で…明かりなしでは家具の形さえもつかめない。
カカシが出て行ってどれほどの時間が経ったのか。
その時のままの姿勢を崩すことなく、膝の間に顔を埋めたサクラは浅い呼吸をただ繰り返す。
小さな窓の隙間からは細い三日月が見えていた。

軋む様な金属音にサクラが顔を上げた。
人の、気配。

「…まだ居たの?」
「まだ居たの」

部屋の主の帰宅だ。
サクラはオウム返しに言葉を返して薄く笑った。

「今日はアイツの所へは行かないんだ?」

暗い部屋の中、まるで全てが見えているかのように真っ直ぐ近づいてくる声。
サクラの座るソファーの前にはガラスのローテーブルがあったはず。
それすらも器用に避けて、カカシはサクラの前に立った。

「サスケくん?サスケくんなら任務で里には居ないよ」

『うちはサスケ』
私の、婚約者の名前。

「…サクラはどうしたいの?」

わかってるんでしょ?
意地悪しないで。

「キス、してよ」

カカシに向かって両手を伸ばす。
サクラの前で腰を屈めたカカシが自らゆっくりと面布を剥いだ。

重ねられた唇が這うようにして下へ下へと降りてくる。
時折きつく吸い上げられ、サクラはその度に甘い吐息を漏らした。

「明日も此処に居る?」

答える代わりにサクラは無言でカカシの胸に頬をすり寄せる。
少しアルコールの匂いが鼻についた。



私の態度こそが曖昧なのだと気付いているけれど。
でもどうしようもないの。
私には決められない………






私のコト、好きなら奪って。

その腕に閉じ込めて、

光すら与えないで…









ケータイに打ち込んでたSS。
ケータイだとどうしても簡潔な文章になっちゃうんだよね(笑)
雰囲気だけのSSですが…結構こういうのも好きだったりします。

2005.09.13
まゆ



2008.11.16 改訂
まゆ