上弦の月




久々に舞い込んできたAランクの任務は暗部のサポートだった。
ミーティングに集まった見知った顔ばかりの面々(とはいっても実際の顔を知っている者はあまり多くはなかったが…)に自己紹介の必要はなく、カカシは必要な打ち合わせのみに集中する。

『取り逃がした敵の始末と退路の確保』

…それがカカシの担当と決まった。










血の…味がする。



手の甲で頬を拭うと、べっとりと紅い染みが出来た。

あー…ヤダヤダ。
久しぶりだからなぁ……ヒト、殺すの。

敵の手裏剣をかわし、数度クナイを交えてとどめを刺す。
地面に折り重なるように倒れた肉体の傍には水溜りのようなものが出来上がりつつあった。
紅い水溜り。
それを無表情に眺めながら、カンが鈍ってるといわんばかりにカカシは首を竦めた。

この程度のヤツに傷を負わされるなんて。
『写輪眼のカカシ』ともあろうものが情けない…。

「あいつらも何人取り逃がしてるんだよ。現役暗部だろ?」

また一人、敵の影を見つけて一人ごちる。
カカシは逃げることに精一杯の敵の背後に回りこみ頚動脈へ素早くクナイを滑らせ…今度は一撃で仕留めた。





任務は3日間。
今日の明け方にはあの子と二人、暖かい布団で眠れるはずだったのに。

敵を排除し退路を確保したものの、肝心の仲間が戻ってこない。
苦戦を強いられているのだろうか…そう思ってもカカシにはどうすることも出来なかった。
自分の持ち場を離れること、すなわちそれは全滅の可能性を示唆する。
カカシは身を潜めたまま、ゆっくりと進む時間に苛立ちを覚えた。





「遅い!」
「悪りぃな。待たせたか?」
「かなり、ね。今日中に里へ戻れないかと思ったよ」

不機嫌さを隠そうともせず、カカシは愚痴った。
子供っぽいその態度に男は目を丸くする。

「…お前、変わったな。何かこう…図太くなった。気がする。うん」
「なんだよ、それ。馬鹿にしてる?」
「違うって。これでも褒めてんだよ。人間臭くなったってね」

刹那的な雰囲気が影を潜め、変わりに本来ヒトが持つ暖かさというのだろうか…柔らかな空気を纏っている。

「お前もやっと生への執着が生まれたか」
「それって…イイコト、なのかな?」
「良い事じゃねぇの?さあ任務も終わったことだし…さっさと里へ戻るぞ」

そう告げながらすれ違いざまに肩を軽くはたいて遠のいていく元同僚の背中を、カカシは少し複雑な思いで見送った。










細く尖った新月が弧を描く満ちたものになるように、徐々に取り戻されるヒトとしての感覚…それが忍として生きる自分にとって良い事なのかわからないけれど。

今から疾走すればあの子の誕生日にギリギリ間に合いそうだ。
用意された料理はきっと冷めているだろう。
ケーキだって半分食べられているかもしれない。
でもそんなことは関係ない。デショ?
誕生日プレゼントは沢山のキスで誤魔化して…次の休みに一緒に買いに行くのだ。



早く帰ろう!

サクラが、待ってる。









掘り出し物です。
パソのファイル整理してたら出てきました(笑)
多少手を加えて・・・サクラの誕生日ネタに…
うん。取って付け加えた感が…ね。(爆)

2009.03.21
まゆ