「サクラ、ちょっとゴメン」

カカシはそう言うといきなりサクラを抱きかかえて走り出した。
途端に空から降ってきた大粒の雫が額に当たる。

さっきまで晴れていたのに…

問いただす前に理由がわかり、サクラはくすくすと笑った。
スピードを上げていくカカシに振り落とされないよう、しっかりと忍服を掴む。
サクラの視界のほとんどはカカシの胸で占められた。







「どうぞ。散らかってるけど入って」

ドアを押し広げ、サクラを中へと案内する。
以前に何度か部屋にあげたことがあるけれど、その時はサスケかナルトのどちらかが必ず一緒だった。

…二人きりって初めてかも。

意識した途端、カカシの心拍数が跳ね上がる。
いい歳をした大人が思春期真っ只中の少年のようだとカカシは俯いて笑いをかみ殺した。

「先生?」
「ん…あぁ、タオルはこっち」

玄関口で動かないカカシを先に部屋に上がったサクラが不思議そうに見ていた。
カカシは雫のたれる髪の毛を片手でかき上げてサクラの視線から逃れ、先導するように脱衣所へ向かった。



「乾燥機使えばすぐ乾くだろ」
「…良いモノ持ってるわね、カカシ先生」

少し古びた部屋には不釣合いな最新の乾燥機付き洗濯機を指差され、サクラは目を丸くした。

「独身男の必需品なんですー」
「アハハ!」

洗濯をしてくれる彼女は今はいないようだ。
サクラは小さくガッツポーズをとると笑顔でカカシから着替えを受け取った。







ピーという電子音が断続的に三回聞こえた。
どうやら乾燥が終わったらしい。
サクラは温くなったコーヒーの残りを飲みきって立ち上がった。

「…着替えて、くる」
「ん」

カカシが読んでいた本から目を上げて頷く。

引き止めてくれてもいいのに。
先生の馬鹿…

今、立ち上がったばかりのソファーから脱衣所までの距離はほんの僅か。
その数メートルの距離が憎らしい。
乾燥機の蓋を開け、すっかり乾いた忍服に溜息を一つ。

最新の器械っていうのも考えものよね…
こんなに早く終わるなんて思わなかったわ。

サクラは殊更ゆっくりと…時間をかけて忍服に袖を通した。







まだ雨は降り続いている。
狭い玄関口で一本しかない傘を差し出され、サクラは慌てて首を横に振った。

「駄目よ。絶対駄目!明日も雨だと先生が困るじゃない」
「でも…」
「駄目って言ったら駄目なの!!」

ぷいっと顔を背けたサクラはそのままスタスタと部屋の奥へと引き返し、カカシは行き場を無くした傘を片手に、一人その場に取り残される。

「もう暫く此処にいるわ。やむかもしれないし…ね、いいでしょう?」

そっなく告げられた言葉だが、その端々に不安が滲み出ているような気がするのは自分の都合の良い解釈なのだろうか?
思わぬサクラの行動に自然とカカシの頬が緩む。
カカシは傘立てに傘を突っ込むと、誰にも見せたことのない笑顔で小さな背中にコーヒーのおかわりがいるかどうかだけ尋ねた。







『雨なんてやまなければいい』


そんな二人の想いに応える様に、また、窓の外がぴかりと光った。









突発SS。
更新が滞ってるので…頑張ってみたよ。
所要時間2時間…でももう4時だ!!
新聞配達の人が来る前に一眠りしよう…

2005.10.28
まゆ



2008.11.30 改訂
まゆ