ありふれた日常 <寝起き>




「せんせぇ、おなか減った」

カカシの腕の中で目を覚ましたサクラがもそもそと動く。
普段は神経質なカカシもサクラと二人きりの時は安心しきっているようで、簡単には起きてくれない。

「ねえ、先生ってば!」

サクラは自分の腰に回されている力強い腕を軽くつねる。

「…痛い」

カカシはちっとも痛くなさそうな寝ぼけた声でそう呟くと、うっすらと目を開けた。
息が触れるほど近くで覗き込む大きな翡翠の瞳に微笑みかけ、頬をくすぐる薄紅の髪を指で梳く。
指を離れた髪がサラサラと再びカカシの頬に流れて落ちるなか、サクラの後頭部へと添えられた手がそのまま彼女を引き寄せる。
軽く触れるだけの、バードキス。
それを何度か繰り返した後、やっと朝の挨拶がかわされた。

「…おはよ、サクラ」
「おはよう。先生」

なんとなく、見詰め合ってくすくすと笑う二人。
二人で目覚める朝は初めてではないのに、この瞬間だけはいつまでたっても慣れない。
…気恥ずかしくて。



「おなか、減ったの」

サクラの言葉にカカシは枕もとの目覚まし時計を引き寄せた。

「…あぁ、もう十時過ぎてる……」

カーテンの隙間から差し込む明るい日差しが、今日の天気の良さを物語っていた。

「外で食べるのもイイかもな。お弁当とか持ってさ」

カカシの提案にサクラは満面の笑みを浮かべる。

「うん!…でも、その前に…」
「その前に?」
「プリン!!」
「…」
「プリン、取って来て!!」

昨日の夕食のデザート。
…食べ損ねたヤツ。

食べ損ねた理由はもちろんカカシにあったのだが、本人は自覚ナシだ。

食べるまで待って、って言ったのに!
強引に私をベットへ運んだのは、誰?!

「えー?」

カカシの不満たっぷりの声に、サクラのそれが重なる。

「食べたいの!」
「…どうしても?」
「ど・う・し・て・も。今!!」

微かな怒気を含んだサクラの声を敏感に察したカカシは、しぶしぶベッドから出て立ち上がった。

「先生、ちょっと!!!」

まだ何かあるのかと振り向いたカカシに、サクラは真っ赤な顔で叫ぶ。

「パンツぐらい穿いてよ!もう、信じらんない!!!」

掛け布団を顔が隠れるまで引き上げて上目遣いで睨む。

「何言ってんの…今更。昨日の夜、サクラ、ココにもキスしてくれたデショ」

堂々と自分の下半身を指差すカカシ。

「そ、そんなこと、口に出して言わないの!いいから、パンツ穿く!」
「はいはい。注文の多いお姫様だねぇ」

カカシは脱ぎ散らかした服の中からパンツを拾い上げて穿き、キッチンへと向かった。



だんだん遠くなる足音を聞きながら、サクラは枕に顔を摺り寄せて瞳を閉じる。

任務が休みの朝。
ゆっくりとお昼まで眠り…
目が覚めて、初めに見るのは愛しい人の寝顔。
こんなありふれた日常が…すごく幸せだなー…なんて。

「こらこら、取りに行かせておいて寝るなよ」

戻ってきたカカシがサクラのおでこにコツンとプリンのカップを当てる。

「起きてますよぉーだ」

サクラは上体を起こすと、再びベットへ潜り込んできたカカシにありがとうを言ってからプリンを受け取り、さっそく食べ始めた。

「先生も食べる?おいしいよ」

カカシの目の前に差し出されたスプーンの上でプリンが揺れる。
ぱくり、とスプーンを咥えると冷たくて柔らかな感触が喉を伝い、そのあまりの甘さにカカシは眉間にシワを寄せた。

「ね、おいしいでしょ?」
「…うん」

サクラはムリして頷くカカシを見て笑うと、食べ終えたプリンのカップをベット脇のサイドテーブルへ置き、Tシャツを羽織っただけの格好でカーテンを開けた。
大きな窓から射す柔らかな日差しにサクラは目を細める。

「ホントにいい天気よ、先生。お弁当もって公園へ行こうよ!」

カカシは自分を振り向いたサクラの腕を掴み、ベットの中にずるずると引き戻した。

「…もう少し、後でね?」
「せんせぇ…」

言う傍からおでこに、頬に、耳たぶに、と唇を落としていくカカシはサクラの困った声などお構いナシだ。

「…こんなにいい天気なのに、ベッドの中にいるなんて。私達、とっても不健全だわ」

諦めたようなサクラの呟きに、カカシは苦笑しながらもTシャツの下の柔らかな膨らみへと手を滑らせた。











2002.04.18
まゆ



2009.03.22 改訂
まゆ