I like … 「遅くなりまして…」 受付に座るイルカに、カカシは今日の分の報告書を手渡した。 「ははは、カカシ先生で最後です。相変わらず、報告書は苦手なんですね?」 実際、カカシの班より後に任務を完了した者たちは、さっさと提出して帰宅している。 「イヤ、まぁ。こんなモン、書くことなかったから」 暗部にいた頃は報告書なんて一度も書かなかったよなぁ?…確か。 暗殺が主な仕事のため、『ターゲットの死』ただそれだけが意味をもつ。 わざわざ紙面に記する必要などなかった。 「さてと…」 カチャカチャと幾つかのカギが一纏めになったものを持ってイルカが席を立つ。 「報告書も受け取りましたし、戸締りをしたら帰ります。まだ、図書室に春野がいるんですよ」 「え?、サクラが?」 「はい。何でも、読みたい本があるとかで…」 ふぅーん? 「…あぁ、そういえば…解らない術印を教えてやる約束してたっけ?」 ウソ。 「じゃ、オレ戸締りしときますんで、イルカ先生は先に帰っといてください」 それだけ言うと、イルカの手の中からカギの束をすばやく取り上げて廊下へと出る。 唖然としているイルカに、カカシは思い出したかのように振り向き、再度声をかけた。 「ナルトが会いたがっていましたよ」 これは、ホント。 「早く帰って構ってやって下さいね」 イルカは、カカシの右目にやわらかな光を見て微笑む。 暗部上がりだなんて少し心配していたけれど、ナルトは良い上司に恵まれたようだ。 「じゃあ、お言葉に甘えて…先に帰らせてもらいます」 その言葉に片手を上げて答えると、カカシは真っ直ぐ図書室に向かって歩き出した。 図書館の戸を音もなく開けると、窓際の席に見慣れた桃色の頭が見える。 カカシは気配を消して後ろから忍び寄ると、ここへ来る途中に買ったミルクティーの缶をサクラの首筋に押し当てた。 「ひゃあ!!」 意味のない悲鳴と共にサクラの体が椅子から飛び上がるほど跳ねる。 「何、読んでんの?」 サクラが振り向くより早く聞き慣れた声が頭の上から聞こえて来たため、クナイに伸ばしかけた手を止めた。 「先生!!驚かせないで!」 肩越しに振り返り、自分の真後ろに立っている男を確認すると、すぐにまた視線を本へと戻した。 構ってもらえなかった男は、軽くため息をついて隣の席へ腰をおろし、いつものようにサクラの長い髪へと指を絡めて口付ける。 本を読んでいる時に邪魔をするとサクラは凄く怒ることは経験済み。 それを承知で何度も指で髪を梳く。 カカシの手から桃色の髪がサラサラと滑り落ちる度に、柑橘系のニオイが鼻をかすめた。 こっち向いてくれないかな? …向いてくれればイイのに… カカシは執拗に『髪を梳く』動作を繰り返す。 こっち向けってば!! サクラが突然パタンと読んでた本を閉じ、カカシの方へ向き直った。 「いいかげんにしてよ、先生。本を読むの邪魔されるのキライって言ったでしょう?」 何度言ったら…と続けかけた言葉はカカシの笑顔によってどこかへ行ってしまった。 犬、みたい。 耳をピンと立てて尻尾を千切れんばかりに振っている犬みたいだよー、先生。 しょうがないわ。構ってあげる。 やっと自分の方へ顔を向けてくれたサクラにカカシはミルクティーの缶を差し出した。 「ミルクティー、好きだったよね?」 「うん!ありがとう、先生」 喉が渇いてたのと言いながら嬉しそうに受け取ると早速プルを引く。 ミルクティーの甘い香りが辺りを漂った。 「サクラってさぁー、好きなもの沢山あるよね」 唐突なカカシの言葉にサクラは首をかしげた。 「そう、かな?でも、キライなものが沢山あるよりイイんじゃない?」 先生が何を言いたいのか分からない。 「図書館、好きだろう?」 サクラは、コクンと頷く。 「読書も好きで、演習場の大きな桜の木もお気に入り」 また一つ、コクンと頷く。 「ミルクティーも、チョコケーキも…」 サクラは頷くのも忘れて、まじまじとカカシの顔を見た。 視線は逸らされていたが、淡々とサクラの好きなものを上げていくカカシは、サクラには小さな子供が拗ねている風に感じられた。 「イルカ先生も、ナルトやサスケも…」 そりゃ、もちろん好きだけど…。 「それで、オレは?」 …はい? 「オレはサクラの何番目の『好き』?」 暫くして、やっとカカシの言っている意味が飲み込めたサクラは徐々に自分の頬が赤くなってくるのがわかった。 カカシはサクラの頬にそっと手を伸ばす。 少し冷たい指先が頬を滑り、唇をなぞる。左手で素早く面布を引きおろすと軽く触れるだけのキスをした。 甘いミルクティーのニオイ。 カカシは唇を離した後、おでこをコツンと引っ付けてサクラの大きな翡翠色の瞳を覗き込んだ。 「サクラの一番は誰?」 さあ、オレに教えてくれないか…? 2001.12.03 まゆ 2009.05.06 改訂 まゆ |