キミと、ずっと。




「エッチしたい」
「…馬鹿?」
「今すぐ此処で交わりたい」
「言い方がいちいちエロいのよッ!」

一回死んでくればいい…だなんて恐ろしいことを口走る。
サクラは背後から絡みつく腕を解きながら、それでも手元の書類からは決して目を離さない。
今日中にまとめないといけない資料だか何だか知らないけど…ホントに真面目で困る。
少しぐらいは手を抜くことを覚えればいいのに。
カカシは苦笑しながらサクラの隣に回りこんで椅子に腰掛けた。

「あ、一回でいいの?…って、冗談だよ。冗談」

サクラの肩がふるふると震えてる。良くない兆候だ。
拳骨が飛んでくる前にカカシは素早く謝った。
五代目直伝の彼女の怪力はカカシにとっても今やちょっとした脅威となりつつある。

「先生、私忙しいの。見ればわかるでしょう?」
「サクラがキス…」
「しません」

キスしてくれるなら大人しく待ってる、そんな言葉さえ最後まで言わせて貰えないとはね。
いくらなんでもかまってくれなさ過ぎだと思うよ?

「ふぅん。じゃあさ、手を繋ごう。それならいいデショ」

サクラの左に座るカカシがぴったりと寄り添って肩を抱くように手を伸ばしてその右手を取った。
もちろん、紙面を走っていた…鉛筆を持つサクラの右手を、だ。

「…邪魔しないでってば」

大きなため息を吐いた後、サクラがやっとこっちを向いた。
しかし、それでも離さないオレの手を左手で押しやっただけで、すぐに視線は膨大な資料へと戻っていく。

「一週間ぶりの逢瀬なのにこの素っ気無さったら…ないよね?」
「いいから、三十分黙っててちょうだい」

カカシの見たところ、とても三十分では終わりそうにない。
真面目過ぎるのもどうかと思うけど、やっぱりそれがサクラなわけで。
…自分が好きになったサクラだから。

「わかった」

結局そう答えるしかなくて、カカシはコツンと机の上に頭を預けた。







やっと静かになった部屋の中、遠くから僅かに聞こえる子供達のはしゃぐ声が心地良い音となってサクラを包み込む。
隣で不貞腐れて眠っているカカシを視界に入れないように注意しながら、サクラは鉛筆を持ち直して文字を追った。
とにかく早くこの書類を仕上げてしまわないことには落ち着いてカカシと触れ合うことが出来ない。

だって…一度触れられると止まらないんだもの。

資料に目を落としたまま、サクラは顔が火照るのを感じていた。
どんなに我慢しても漏れる吐息や剥がれ落ちていく理性…カカシに翻弄される自分は嫌いじゃない。
むしろそれを望んでる、だからこそ…

こっちを先に片付けなきゃ駄目なんだってば。しゃーんなろーッ!

綱手様直々に頼まれたこの書類は明日の会議に使う重要なものなのだ。
カカシ先生とイチャイチャしてて、万が一、間に合わなかったりしたらどんな報復が待っているか…考えただけでも恐ろしい。
そもそも私と先生がつきあってること自体快く思っていないのだから、(綱手様曰く、私が先生に騙されているのだそうだ)先生を暗部に移動させるぐらいのことはやりかねない…と思う。

そんなの、冗談じゃないわよぅ!

「百面相」

ぼそりと声が聞こえた。
寝ているはずのカカシが起きていて…いや、体勢的には寝ているのだが目だけはぱっちりと開けてこっちを見ている。

「わっ!」
「わっじゃないよ。赤くなったり青くなったり…ソレだって全然進んでないデショ」

トントンと書類を指で突付かれて、サクラは思わず俯いた。

「だって…」
「ほら、サクラ」

逞しい腕が伸びてきて、サクラの後頭部に手を添える。
優しく誘われれば…サクラは机に右頬を押さえつけてカカシと向き合う形になった。

「キスをしてくれないか、サクラ。一週間ぶりに里へ戻ってきたんだ。お帰りなさいのキスを…」

低い声が机を振動させながらサクラの耳に届く。

「してくれないなら…オレがただいまのキスをする」

後頭部に添えられたままの手がサクラを引き寄せ…サクラは間近でカカシの瞳を覗き込んだ。
悪戯っ子のように輝く瞳の、その奥の不安。取り除いてあげられるのは自分だけだと自惚れさせて。

「ホントに我侭なんだから」

サクラはカカシの面布を引き下ろして現れた唇に自らのそれを重ねた。
そっと触れるだけのキスが徐々に深いものに変わっていく。
奪われる主導権、失われる理性。
ヤバイと思ったときにはもう逃げられなくて。
隅々までも確かめるように動くカカシの舌に、サクラは甘い吐息を漏らした。

「エッチもしちゃう?」

離れていく唇を名残惜しそうに見つめれば勝ち誇ったようにカカシが囁く。

「…馬鹿」

最初と同じ台詞でも、そこに含まれる雰囲気は全く違っていた。

「頑張るから、待ってて」
「うん」

そう答えたかと思うと、カカシは身を起こしサクラの膝にころんと頭を乗せた。サクラの腹部に頬をすり寄せながら両手で細い身体を抱きしめる。

「なるべく早くね」

サクラはカカシの素早い行動に唖然としながらもそれを止めようとはせず、返事の代わりに一度だけ銀色の髪を撫で…机に転がったままの鉛筆を拾い上げた。
いつの間にか子供達の声も消えている。
そろそろ夜の帳も下りてくるだろう。
今度こそ本当に眠ったらしいカカシの寝息を聞きながら、サクラは笑みを浮かべた。



「今のうちに睡眠とっておいてね。今夜は寝かさないんだから…」









桜月の原稿から外れた代物デス。
外れた原因は…エロくないから。←うそうそ。

2007.10.28
まゆ



2008.11.30 改訂
まゆ