ヒトリゴト 「先生は私のどこが好き?」 そう問いかければ「へ?」っていう間抜けな声が返ってきた。 すぐに答えられないなんて信じられない! …先生のバカ。 お願いだから私を不安にさせないでよ。 「あ…」 ぼんやり窓の外を眺めていたら百メートルほど先にカカシ先生を発見。 これでも視力は良い方だから絶対間違いない。 ていうか、愛の力かしら? 「春野…会議中なんだけど」 顔が緩んだ私をシカマルが呆れた声で咎めた。 「ごめん……あーッ!」 思わず椅子から立ち上がる。 ほんの僅か、時間で言うとコンマ何秒という目を離した間にカカシの隣に女が現れていた。 「今度は何だよ」 窓枠にへばり付く私の背後から、同じく席を立ったシカマルが外を覗く。 「あぁカカシか…浮気現行犯だな」 「そうとは限らないでしょ!」 「あの不自然すぎる距離…間違いなく浮気ですね」 「浮気だってばよ!」 「…先輩、昔からよくもてるから」 サイにナルトにヤマトまでが便乗し、サクラを不安にさせる。 こうなると恋する乙女は歯止めが効かないものなのだ。 「ちょ、ちょっと待て!春野ッ!!」 サクラはシカマルの制止も聞かずテーブルに散乱していた書類をかき集めるとほぼ真下にまで近づいてきていたカカシの頭上に派手にぶちまけた。 「何だ、コレ」 ひらひらと舞う紙の一枚を手にしたカカシがアカデミーの校舎を仰ぎ見た。 そしてその窓の一つにサクラと数人の顔なじみを見つけて「お前達の?」と問いかけたが…サクラから返ってきたのは答えではなかった。 「私はヤマト隊長達と会議中なんですけど、先生は何をされてるんです?」 言葉が丁寧な分だけ凄みがあって怖いがそれも愛情の裏返しってヤツだ。 カカシはサクラの不機嫌の元であろう自分に纏わり付く女を片手で押しやって、黙々と足元に散らばった書類を拾い始めた。 「カカシ先生!」 「…サクラが心配することは何もないよ。今からコレ持ってそっちに行くから」 書類の束をひらひらさせながらカカシがサクラに告げる。 その間カカシは「心配することは何もない」という言葉通り、確かに一度たりともサクラの知らない女に視線を向けたりしなかったのだが…そのことにサクラが気付く余裕があったかどうかは別の話だ。 サクラの感情は分かりやすくて、ホント可愛いとカカシは思う。 実は絡んできた先ほどの女なんて振り切るのもかわすのも至極簡単な事なのだが、サクラが見ていることに気付いてあえてそうしなかっただけだ。 足取り軽く、アカデミーの建物内に入る。 北向きの入り口は少し暗くて…ひんやりとした空気が心地良い。 「もっとやきもち焼けばいい」 カカシは思わず漏れる笑みを隠そうともせず、誰も居ない階段を一段飛ばしで上った。 「ねぇ…先生は私のどこが好き?」 昼間の出来事を思い出しながら、先生の部屋で二度目の質問。 でも今度はすぐに答えが返ってきた。 「やきもち焼きで我侭な所」 「それって…好きなところなの?」 「もちろん。愛情の裏返しだもん」 くくくと喉の奥で笑うカカシをサクラは複雑な顔で見上げた。 「オレも一つ聞いていい?」 「…何よ?」 「サクラはさー…サクラのことがものすごく好きで格好良くて…もう本当に文句のつけようがない若い男が現れたらどうする?」 「若い」という言葉を強調したカカシの質問にサクラも口元を綻ばせた。 自分と同じように先生にだって不安なことはあるのだ、と。 人の気持ちに絶対なんて言葉は相応しくない。 だからこそ確かめ合う。 「どうもしないわよ。先生が一番だもの」 「そっか。良かった。オレもサクラが一番だから」 手を伸ばして…サクラは見た目よりしっかりと筋肉の付いた身体にしがみ付いた。 人の体温の心地良さを教えてくれたその胸から聞こえてくる力強い鼓動が消えてなくならないように……自分だけを見てくれるように。 「明日…」 「んー?」 「明日カカシ先生が会うどの女の人にも負けないように今のうちにもっと私を好きになってよ。今のうちにいっぱい触って…そして私しか思い出せないようになればいい……」 「サクラ…」 不意に消えてなくなりそうな言葉を紡ぐ小さな身体をカカシがぎゅっと抱きしめる。 その締め付ける痛みにサクラははっと我に返った。 「なんてね!これは私の独り言だから気にしないで」 「…気にしなくてもいいの?ホントに?」 瞳の中を覗き込まれるようにしてカカシに問われる。 「そんなこと言ってるとどこかの女に声を掛けられた時、都合よくサクラのコト忘れちゃうかもよ」 「それは駄目!絶対駄目!」 「じゃあ、もう一回きくけけど…気にしなくいイイ?」 「……気にして下さい」 「了解!」 初めからそうやって素直に我侭言ってればいいんだよ。 そんな呟きを耳元で聞きながら…サクラはカカシの広い胸に包まれて瞳を閉じる。 今夜はきっと素敵な夢が見られるだろう。 もちろん明日も明後日も、ずっと。 自分を包むこの力強い腕がある限り…それは永遠に続くのだ。 甘い感じで。(笑) 珍しくフツーにカカサク。 2009.01.03 まゆ |