HERO




自分にとって『彼』は絶対的な存在だった。
いかなるときも間違うことなく完璧で……
弱音を吐いている姿など、一度も見たことがない。

師であり四代目火影である『彼』は、今も語り継がれる里の英雄だ。



昔は自分も『彼』のようになりたいと、そう願っていたのに。










「もう!ほんっとに大袈裟なんだから!!」

背中でサクラが何度目かの愚痴を漏らした。

「大袈裟なんかじゃないデショ?」

包帯の巻かれた足首は痛々しいほどに腫上がっている。
すぐに手当てはしたが二、三日は腫れは引かないだろう。
カカシは気づかれないように溜息を吐いた。

「それにしても早かったわね。あんなに遠くに居たのに」

サクラが言っているのは自分がサクラの元へ駆けつけた時間のことだ。
事の次第は今日の任務に遡る。
もう何度目かになる、マダムしじみの『迷子ペット捕獲』依頼。
ナルト達も慣れたもので、最近では『トラ』の捕獲で賭けなんかしていたようだが…
今日の勝者はサクラだった。
そう。
…最後に木から落ちたりさえしなければ、ね。

自分がついていながらみすみす怪我をさせてしまうなんて、失態としか言い様がない。
今回は捻挫ですんだものの…最悪の事態を想像してカカシは一瞬身体を強張らせた。

「でも、間に合わなかった」
「まぁね。ていうか、先生のせいじゃないんだから気にしないでよ」

意外に沈んだカカシの声にサクラが慌てて言葉を返す。
が、返答はなかった。

「…先生?」
「ん?……あぁ」

カカシの、完全にそれとわかる生返事にサクラがキレた。

「これは私のミスなのッ!先生のせいじゃないの!!…だから、気にしないで」

怒鳴りながら、裏腹に、細い腕が優しくカカシを抱きしめる。
カカシは胸の奥から暖かいものが溢れ出すのを感じながら微笑んだ。

「…じゃ、次からは気をつけるように」










今は…『彼』のような英雄になろうだなんて、そんな大それたことは思ってもいない。
淡々と流れる季節を経て、いつの間にか大人になっていた自分は『彼』にはなれないことに気が付いた。
なる必要がないことも。

サクラが悩み立ち止まるとき、背中をそっと押してやれればいい。
躓いたなら手を差し伸べて。
敵に襲われたならば身を挺して庇いたい。

そんな男でありたいと思うだけだ。

上司
先生
家族
…恋人。

立場なんて何だっていい。
サクラの傍に居て。
サクラの為に。
…この命を。

オレはただ一人サクラにとっての英雄であればそれでいい。





背中の体温が名残惜しい。
サクラの家は、もうすぐそこだ。
真正面から射す夕焼けが眩しくて、カカシは目を細めた。
そして、わずかに俯いて独りごちる。
サクラは…自分をおぶっている男がこんなことを考えているなんて夢にも思わないだろうなぁ、と。











ミスチルのHEROから。
カカッスィーはサクラちゃんだけのHEROであってほしいと勝手に願ってみたり。

2004.07.12
まゆ



2009.01.06 改訂
まゆ