二人でいる時間。




『逢えなくなって、初めてわかることがある』とはよく言ったものだ。
サクラはこの一ヶ月あまりの間にその言葉を実感していた。

一番意外だったのは…先生が筆まめだったということ。
しかも!読んでる方が恥ずかしくなるような言葉の羅列…
ホント、どんな顔をして書いてるんだか…










先生から届く手紙の終わりには、必ず『愛してる』と添えてあった。

愛されてるのは、わかっているのよ!!
それはちゃんとわかってる。
私はね、手紙じゃなくて…先生の声でその言葉を聞きたいの!
早く、帰ってきて…



サクラは、読み終えたばかりの手紙を丁寧に折りたたむと封筒に戻した。
はぁ…と大きな溜息が漏れる。
カカシが上忍としての任務を依頼されてから、はや一ヶ月が過ぎようとしていた。
初めから長期の任務になることがわかっていたのだが、三代目からの直接の頼みとあってカカシも断れず、渋りながらも里を出発したのが昨日のことのように思い出される。

…もう、一ヶ月も経つのよ?!
いいかげん、待ちくたびれちゃったわ…

「はぁ……」

もう何度目かわからない大きな溜息をついた時、サクラが腰掛けていた木の枝に向かって下の方から怒鳴り声が響いた。

「なにやってんの、サクラ!!昼休みは終わり!さっさと残りの仕事も片付けちゃうわよ!」
「いの…」

カカシがいない間、7班の3人は日によってアスマと紅の班に組み込まれ、任務にあたっていた。
今日はいの達と、里のみかん畑でみかんの収穫の手伝い。
あまり高くない木の枝からピョンと下へ飛び降りたサクラは、流れるようなサラサラの金髪の少女に八つ当たり気味の愚痴をこぼす。

「いのは、いいよね。いつも好きな人と一緒にいられて」

いのはなにも言わないが、シカマルと付き合っていることをサクラは知っていた。

同じ班。
同じ歳。
同じ時間。
同じ、同じ、全部同じ。

「くだらないこと言ってんじゃないわよ!あんた、自分でアノ男を選んだんでしょ?ヤならやめれば?」

いののキツイ言葉は自分を励ますためのものだとわかっているから。
サクラは苦笑いを返すしかない。

「そうよねぇ…」
「一緒にいる時は、あんなにウザそうに言ってたの、忘れた?」
「何を?」
「毎日毎日じゃ体が持たないって」

ニヤニヤと笑いながら自分を見つめるいのに、頬を桃色に染めて叫ぶ。

「だって、ちょっと…いの!大きな声で言わないでよ!!」

歩きながら話していたサクラといのの視界には、もうすでにナルト達が入り込んでいる。

「大丈夫、聞こえてないってば。…それよりさぁ、あのスケベ上忍が一ヶ月も女を抱かないなんて、ありえると思う?!」
「え?」
「浮気、してないって言い切れる?」
「…」

無言で考え込むサクラがかわいくて。
だから、やめられないのよねぇ…サクラをイジメるの。
そんなに考え込まなくてもわかるでしょ?
あんなにサクラにぞっこんのヤツが、浮気なんてするわけないじゃない!
他の女なんて眼中にないわよ。
絶対に。

集合場所が近くなり、いのはサクラをおいて走り出す。
取り残されたサクラは一人、今まで考えもしなかったことに頭を悩ませていた。

…まさか、ねぇ?










午後からの任務は散々だった。

みかんを摘み取るハサミで手を切っちゃうし。
梯子からは転げ落ちるし、収穫したみかんの入った箱はひっくり返すし。
これというのも、全部いののせいなんだからね!!
いのが、不安になるようなこと言うから…

俯いたサクラは先ほど切った指を見つめる。
指に巻かれたカットバンには薄く血が滲んでいて…

『逢えなくなって、初めてわかることがある』 
   
愛されているのだと思っていたけれど。
きっと、私のほうが何倍も『愛してる』のよ!
今、初めて気が付いたわ…二人でいられる時間の大切さを。





日も暮れる頃、ようやく作業も一段落し、任務完了となった。

「じゃあ、お前ら…気を付けて帰れよ。」

アスマの声に男共は各々家路へ向かったが、少女二人はまだソコに突っ立ったままだった。

「どうした、帰らないのか?」

アスマの質問に口を開きかけたサクラを差し置いて、いのが答える。

「サクラはね、受付に寄りたいのよ、アスマ先生」
「へ?…あぁ、カカシか」
「ご名答。先生、アノ男がいつ頃も戻るか知らない?」
「任務の内容がわからんからなぁ。何とも言えん。サクラ、お前手紙貰ってるんだろ?書いてないのか?」
「もうすぐ戻る、としか」

目を伏せて呟くように答えたサクラが今にも泣きそうで…アスマは励ますようにサクラの細い肩をバンバンと叩くと、普段から大きな声を更に大きくして、がははと笑った。

「そうか。じゃ、報告書を届けるついでにイルカにでも聞いてみるか?その後、メシでも食いに行こうや」
「ラッキー!!先生の奢り!早く、報告書出しにいこう。私、お腹減っちゃったわ!」

げんきんないのが片手にアスマ、片手にサクラの腕を絡め取ると、引きずるように受付へと向かった。





「ご苦労様です」

丁寧に頭を下げながら報告書を受け取るイルカに、アスマが訊ねた。

「カカシ、帰ってきたか?」
「いえ、まだです」

イルカの返答にがくりとあからさまに落胆するサクラを見かねてイルカは言葉を続けた。

「でも、一昨日、先立って任務完了の報告が入ってるから…今、戻ってきてる所だよ、サクラ」

心配しないで、と続けられるはずの言葉は発せられず…そのかわりイルカは満面の笑顔でサクラ達の背後を指差した。
振り向いたサクラの視界に飛び込んできたものは…ひょこひょこと歩いて受付に入ってきた背の高い男。
男は青銀の髪を掻き揚げながら驚いた声を上げた。

「あれぇ?サクラ、迎えにきてくれたの?」

先生!!

サクラは駆け寄るとカカシへ飛びついた。
勢い余り…抱きとめたカカシはバランスを崩し、その場へ倒れこむ。

「…サクラ、元気そうだね。ただいま」

カカシを押し倒した格好で、サクラは『お帰り』ではなく、別の言葉をかけた。

「脱いで」
「は?」
「脱ぐの!!」

サクラは血があちらこちらに飛び散り固まっているジャケットを脱がしにかかった。

「ちょっと、サクラ…これはオレの血じゃないんだって!」

それでも、聞く耳もたないサクラの様子に、カカシは苦笑しながら血まみれのジャケットを脱いだ。
アンダーシャツには傷らしき傷も無く、出血の痕も見られない。
カカシは、『な?大丈夫だろう?』と、サクラを安心させるように微笑んでみせた。
しかし、カカシの腹の上に馬乗りになっているサクラは、アンダーシャツも脱がそうと躍起になっている。

しょうがない。
気がすむまで付き合いますか…

カカシは観念すると、アンダーシャツも脱いだ。これで上半身はハダカになったのだが…面布も邪魔だ、とサクラに取られてしまった。

一体、何をしてるんだ?サクラは。

サクラは両手をカカシの胸に突っ張ると、首の周りに顔を近づけ、右からも左からも念入りにチェックしている。
そんなサクラの真剣な様子に堪りかねたいのが大声で笑い出した。

「勘弁してよ、サクラ!!おかしいったらないわ!」

ぷくく、と笑いが止まらないいのに、傍に立っていたアスマもサクラに声をかけた。

「春野、背中も見ておいたほうがイイぞ?ツメの痕とかあったりしてな」

これまた笑いながらの悪友の言葉に、カカシはやっとサクラのやってることの意味が理解出来た。

「…先生、背中…見せて」
「アスマ、余計なこと言うな!…ほら、サクラも!んなもん、ないって」

カカシは片手でサクラの両手首を捕まえると、サクラが転げ落ちないようにゆっくりと上体を起こした。

「オレって、信用ないのね…」

寂しそうに苦笑するカカシにサクラはやっと、『お帰りなさい』と微笑みかけた。

サクラにこんなにやきもちを焼いてもらえるとは思わなかった。
たまには長期の任務もイイね。
ホント、たまにでいいんだけど…。

「さて、今度はオレの番だよな?、サクラ」
「え?」
「サクラの身体も隅々までチェックしないと!!」

ニヤニヤと笑いながら、カカシは掴んだままだったサクラの腕をぐっと引き寄せて抱きしめると、空いているほうの手を背中へまわし、つう…っと背骨にそって指を滑らせた。

「ひゃ!」

カカシの腹の上でサクラがビクンと跳ねる。

「先生!こんなところで…」
「わかってるって。さぁ、家に帰ろう」

そう言ってカカシは、押し倒された体勢から器用にサクラを抱きかかえて立ち上がると、投げ出されていた報告書を拾った。
それを唖然としたままのイルカに手渡すと、スタスタと出口へ向かう。
そんなカカシの後姿にアスマといのの声が重なった。

「…らぶらぶね?」
「…だな」





さあ、これからゆっくりと二人だけの時間を楽しもう。
身体を重ねて。
愛の言葉を囁けば…一ヶ月の空白も、すぐに取り戻せるさ。

「逢いたかったよ?」
「…私も」 










もに様に捧げます!
いつもお世話になります♪
こんなものしか返せない私を見捨てないでくださいよ?(笑
また、ICQとチャットで遊んでください。
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2002.02.21
まゆ


2009.05.06 改訂
まゆ