彼女と犬と邪なオレ




遅い…遅すぎるッッ

時計は十時十五分を指していた。
約束は十時ちょうど。
もちろん、サクラは早めに来ることはあっても遅れたことはない。
カカシは落ち着きなく狭い部屋の中をうろうろと何度も往復した。

事故か?
いや、誘拐だろう?
だって俺のサクラはあんなに可愛いんだから!!

あー、もう限界!

居ても立ってもいられなくなって、カカシは起きたばかりのボサボサ頭のまま、急いで玄関へと向かう。
くたびれた上下黒のスウェットにサンダルを引っ掛けてドアノブへ手を伸ばした、その時。

ピンポーン。

「サクラーッッ!!」

勢いよくドアを開けたカカシはすぐさまやや下に視線を落とし、そこに桃色を見つけるとほっと胸を撫で下ろした。

「危ないわね、先生!!ぶつかるトコだったじゃない!!!」

鼻先スレスレで止まった鉄の扉に青くなりながらサクラが叫ぶ。
その声を完璧に無視したカカシがサクラを強引に抱き寄せた。

「何やってたのサクラ!連絡もしないで…心配したデショ!!」
「ごめんなさい。…でも、十五分しか…」

あまりの剣幕に咄嗟に謝ったサクラだが、ちらりと腕時計に目を走らせると呆れたように一言付け足した。

「十五分も、だろ?」
「先生…自分はいつもどけだけ人を待たせてると思ってんのよ!」
「そんなこと…」
「そんなこと?先週のデート、私をニ時間待たせたでしょう!忘れたなんて言わせないんだから!」
「…スミマセン」
「素直でよろしい」

いつもなら言葉を交わしながらさっさと部屋へ上がり込むのに、今日はまだ玄関の扉をくぐろうともしないサクラにカカシが不思議そうに訊ねる。

「部屋、入らないの?」
「あ、うん…ちょっと…お願いがあるの」
「何?」
「…」
「…深刻なこと?」
「あ、じゃなくて…ここへ来る途中でね、子犬がいて…」

子犬…
なんとなく、なんとなく話がみえてきたような…

「お腹が空いてそうだったから持ってたお弁当、分けてあげたの」
「…それで?」
「ついて…来ちゃって」

そりゃそうだろ。

「私のお父さんって、ホラ…犬ダメでしょ?」

…初耳だし。

「先生は大丈夫よね?あんなに沢山の忍犬飼ってるんだから」

そりゃーね、犬は好きな方だと思うよ。

「で?」
「一匹ぐらい増えても…なんでもないよね?」

縋る様に大きな瞳を潤ませて、サクラはカカシを仰ぎ見る。
予想通りの展開にカカシは苦笑を浮かべた。

「あのなー、サクラ。あいつ等は飼ってるって言ってもな…エサも自給自足だし散歩だって必要ないんだよ?」

…要するに、放ったらかしで飼ってるとはいえない。
そんなニュアンスがサクラにも解ったのだろう…黙ったまま俯いてしまった。

しょうがないか。
ホント、オレってサクラには弱いよなぁ…

桃色の小さな頭をぽんぽんと軽く撫でるとカカシはサクラに声をかけた。

「どこにいんの?、犬」
「先生…?」
「サクラが『お願い』するなら、いいよ」
「お願い?」
「そ。サクラの気持ち次第だね!…サクラからキスしてくれるとかさぁ?」
「先生大好きッッ」

カカシの言葉が終わるや否や、見事なまでのジャンプ力でカカシに飛びつく。
その首にしがみ付き、サクラはちゅっと音を立ててカカシの薄い唇に口付けた。
付き合い始めてかれこれ経つが、未だに恥かしがって…サクラからのキスなど滅多に、無い。
当然、こんなオイシイ状況をカカシが見逃すハズもなく、自分にぶら下がったままの細い身体を両手でしっかりと抱きかかえると、角度を変えては何度も口付けた。

「ン…ふぅ……」

時折洩れるサクラの吐息にカカシの体温も否応なしに上がる。

これより先は部屋へ入ってからのお楽しみ!

楽しみは後に取っておくタイプの男、はたけカカシ26歳。元暗部。
不埒な計画を隠しつつ、にっこり微笑んでいかにも『大人』の発言をしてみせた。

「ちゃんとサクラが面倒見るんだぞ?」
「ウン。わかってる!!」

どうせその辺に連れて来ているのだろうとカカシがにらんだとおり、サクラは階段の踊り場までパタパタと走って行くと、なにやら黒いものを胸に抱えてすぐ戻ってきた。

「さ、部屋に入ろうよ!」
「…ちょっと待て。その薄汚れたヤツ、部屋へ上げるのか?」

玄関口でサンダルを脱ぐサクラの背にカカシが問い掛ける。
カカシの不満気な声に、部屋へ上がり込んでからサクラは目の高さまで子犬を引き上げた。

確かに、汚れてるわねー。
洗わなきゃ、だわ!

「んー…お風呂借りるよ。あ、そうだ。ついでに私も入っちゃおうかな?走ってきたから汗かいちゃったし」

はい?
今、何とおっしゃいましたか?…サクラさん。
犬と一緒にお風呂?
オレと一緒に入ったこともないのに?
……許さん。

「サクラ…オレこれからシャワー浴びるからさ、ついでに洗っとくよ。ソイツ貸して」
「じゃ、お願いしようかな」

サクラはカカシがそう言いだすのを待っていたかのように、腕の中の子犬をあっさりとカカシへ差し出した。
意外に知能犯なのかもしれない。
サクラは子犬に頭を撫でながらやさしく言って聞かす。

「イイ?言うことを聞いて綺麗にして貰うのよ、サスケ」
「…サスケ?」
「そう、サスケ。この子の名前よ!カッコいいでしょ?」
「…」
「やっぱり初恋の人の名前は特別だし。付けてみたかったのー!!」

付けてみたかったのって…サクラ。
犬にか?

流石にカカシも少しだけ…ホントに少しだけ、サスケが憐れに思えてきた。
最近やっとサクラへの恋心に気付き始めたばかりのサスケ。
なのにサクラの中ではもうすっかり過去の淡い思い出だ。

「カカシ先生だって覚えてるでしょ?」
「なにを?」
「初恋の人の名前」
「…」

ココで正直に『YES』というほど馬鹿じゃない。

「さて、コイツを洗いに行きますか!」

カカシは曖昧な笑みを浮かべて返事を避けると、暴れる子犬を片手にぶら下げてそそくさと風呂場へ向かった。











ウーッッ

ともすればサクラのいるリビングの方へと逃げ出そうとする子犬を足で踏みつけ、カカシは手早く服を脱ぎ捨てる。

「ほら、いくぞ」

低い声で唸り続ける子犬を慣れた手つきで軽くあしらい、蛇口を捻った。
カカシはシャワーのかかる位置に子犬を置き、また足を乗せて固定する。
両手に石鹸とシャンプーを持ち…暫く悩んだあげく、石鹸を戻した。

「やっぱ、シャンプーの方がいいか」

先に自分を済ませてしまうと、すっかり濡れそぼった子犬の身体にシャンプーを塗りつけ、ガシガシと力任せに泡立てる。

カプッ。

「ッテ!何すんだよ!!」

不意に指に噛みつかれ、振り払うとその隙に子犬は浴室の端っこまで走って逃げた。
相変わらず前傾姿勢のまま低い声で唸り続けている。

「オマエ、オレに喧嘩売ってんの?」

そう広くない浴室。
その角に追いつめ、首ねっこを摘み上げた途端、ぶるぶると体を震わされて子犬の汚れた泡を飛び散らされたカカシは不意に真顔になった。

…殺す。

「オレはね、慣れてんだよ。…オマエみたいなヤツの扱いにはな!」

大人気ない笑みを浮かべ、カカシはキラリと写輪眼をきらめかせた。











カカシが子犬と格闘していた頃、サクラもまた台所で格闘していた。
カカシのために作ってきたお弁当の大半は子犬…サスケにあげてしまったから。
勝手知ったる冷蔵庫の中を覗きながら自分の作れそうなメニューを考える。

んー、レパートリー増やさなきゃ。

ミネラルウォーターとビールを避けながら材料となりうる食材を探すがロクなものがない。

「ご飯に…味噌汁と卵焼き、ね!」

サクラはそれ以上は無理とばかりにさっさと諦めると米を研ぎ始めた。



…初恋のヒトの名前。
センセー、教えてくれなかったなぁ。
まぁね、いい気分にはならないと思うけど…知りたかったのに。
ほんっっとに自分のこととなると何にも話さないんだから!!

幸せすぎて時々すごく不安になる。
サクラは味噌汁の味見をする手を止めて、ほっと息をついた。

ちゃんと愛されてるのはわかってるんだよ?今は、ね。
でも…いつまで私を見ててくれる?
十年年後は?
一年後は?
明日は?
   
もっと先生のことが知りたいの。
先生の気持ちが知りたいの。
先生の…全てが知りたいのに。











「サクラぁー」

首にタオルを引っ掛けたままカカシがリビングへと現れた。

「あ、先生!」

お玉を置き、ガスコンロの火を止めてサクラが振り返った。

「…どうしたの、ソレ?」

ソレ、とはカカシの顔に出来た引っかき傷のことを指していると思われる。
「コイツ」

むすっとした顔でカカシに突き出された『サスケ』はサクラの顔を見るなり尻尾をちぎれんばかりに振った。

なんなんだよ、コイツは!!
態度が違いすぎるデショ。

「わ!!きれいになったね」

パタパタと駆け寄ってきたサクラがカカシの手からサスケを受け取る。
黒っぽかった子犬は汚れが取れ、灰色ががった銀色になっていた。
頬を寄せたサクラはそのひんやりした感触に眉を寄せる。

「先に乾かさなきゃ!風邪引いちゃうわ」
「んー。大丈夫だよ、犬なんだから。それより、すげぇイイ匂いするんだけど?」
「お味噌汁、作った。でも、ご飯が炊けるまでちょっと待ってね」

そう言うとサクラはお泊りの時に使用するドライヤー(もちろん、サクラの持参品)を取りに洗面所へと向かった。



「なんか納得いかねー…」

リビングに一人取り残されたカカシは犬より後回しにされた感が拭いきれず、肩を竦めた。

それにしてもあの犬…
雲隠れの里の、じゃないか?
あそこの犬は確か門外不出になてたハズだが?

雲隠れの里の犬は最も忍犬に適しているといわれている。
太い骨格に強靭な肉体。
寒さにも強く、その性格は獰猛且つ忠実。
そのため里の外には滅多に出されないし、交配すらも里長の許可がいる。
そんな犬が木の葉の里の中をフラフラ歩いているわけがなく、ましてや野良犬だなんて…常識ではありえない。
盗まれてきたものか…もしくは、大名クラスのお偉いさんの所から何らかの理由で逃げ出した…そんなところだろう。

ま、今は雲隠れとは友好関係にあるから大丈夫だとは思うケド。
一応…報告しておいた方がイイよなぁ。

カカシはたとえ私服であろうと肌身離さず持っているクナイを取り出すとその先に指を押し付けた。
フツリと血の滲む指を走らせ忍犬を呼び出すと伝言を告げ、送り出す。

行き先は三代目火影の元。




リビングへと戻ってきたサクラがサスケを抱いてソファに座りドライヤーで濡れた毛を乾かす。
先ほどと同じ犬とは思えないほど大人しいその様にカカシは憎憎しげに睨み付けた。
サクラの膝の上ってところがまたムカツク。

「はい、お終い」

ドライヤーを止めてふんわりとした灰色の毛にサクラが顔を埋める。

「ふわふわー!先生も触ってみなよ」

サクラの言葉に手を伸ばしかけた途端、『サスケ』が低い唸り声を上げた。

ウーッッ

…いい根性だ。

「せんせぇ…お風呂場でイジメた?」
「そんなことしないよ」
「ホントに?」

上目遣いで小首をかしげるサクラはすごく可愛い。
抱きしめようと伸ばした手にサクラがサスケを差し出した。

「ちょっと抱いてて」

そう言い残して台所へと消える。
戻ってきたサクラの手には底の深いお皿と牛乳のパックがあった。

「サスケにはコレ!」
「あ!それはオレがサクラのミルクティー用に買って置いたヤツだぞっ」
「いいじゃない。少しぐらい分けてあげても」

『サスケ』をカカシの手から奪い取り、ちゅっと鼻先にキスをする。

「わー!わー!!」
「…なによ?」

流石に犬相手にやきもちを焼くのはどうかと思ったカカシがぐっと言葉を詰まらせる。
黙ったカカシを不思議そうに見ていたサクラの頬をペロリとサスケが舐めた。
ざらざらとした感触にくすぐったさが増す。

「ヤダ、ちょっと…ははは、サスケったら!」

ハッハッハッ…
『サスケ』の荒い息とサクラのはしゃぐ声。

「ん、コラ!やん!もぅ…サスケ、くすぐったいってば!!」

ぷちん。

何かが切れる音がした。
サクラにじゃれるのをやめそうにない『サスケ』をカカシが強引に引っぺがす。

犬だろうがなんだろうが関係なーいッッ

「サークーラーぁ」
「…なによ?」
「先生イジメて楽しい?」
「は?」

いわれのないことにサクラが聞き返す。

「コイツ、嫌い」

掴み上げられてバタつく『サスケ』をポーンと放るとカカシは素早くサクラを抱きかかえた。

「サクラを舐めるなんて百年早いよ」
「え?え?」
「消毒」

カカシの舌が『サスケ』が舐めたところを丹念になぞる。

「先生!ちょっと待って…」
「待てませーん。しよ?」

そう言うが早いかカカシの足は寝室へと向かっていた。
足元に絡みつく『サスケ』を追い払い、パタンと扉を閉める。

「先生!サスケが戸を引っかいてるよ!!」
「いいのいいの。やらせとけばぁ?」

サクラを強引にベッドへと押し付けると片手でファスナーを引き降ろした。

「先生、ヤダ!!」

サクラの言葉すら飲み込んで、強引に合わせられた唇は忙しげに首筋へと移動する。
その間、あっという間に剥ぎ取られた服は丸めてベッドの下へと落とされた。

「っあ…ヤ!」

意識に反して、止まらないカカシの愛撫を追うように反応する自分の身体を持て余し、サクラはとうとう涙を零し始めた。

「先生に必要なのは私の身体だけ?」
「…なんでそうなるの?」
「だって!いつも何も言ってくれないじゃない!!」
「言わなきゃ、わかんない?」

澄んだエメラルド色の瞳がカカシを見上げて小さく頷いた。

例えば初恋のヒトの名前。
覚えてるけどそれがなんになるのさ?
…腕の中にはサクラが居るのに!!

過去のオンナ?
そんなものよりサクラが大事。
何よりも誰よりもサクラが大事。

信じられなければ何度でも言うよ?
わからなければ何度でも教えてあげる。

オレは君が好きなんだ。
手放すつもりなどはさらさらない。
今までもこれからも君だけを…アイシテル。

「愛してるよ、サクラ…」
「…魔法の言葉だね」

たった一言で私をこんなにも幸せにするのだから。
全てを…何もかもを許してしまう『魔法の言葉』。

胸に擦り寄るサクラをころんとひっくり返して、カカシはゆっくりと体を沈めていく。

「ぁ…んんっ…せんせぇ……」


その時。

バタン!と突然開いた寝室の扉の向こう、現れたのは青くなったイルカだった。

「何やってるんですかー!!」

その叫び声にビックリしたサクラの体がキュッと締まり、あわば抜けなくなりそうだったカカシ自身をカカシが慌てて引っこ抜く。

「いやん、イルカ先生のえっち」

サクラの体を素早く掛け布団で覆い隠し、カカシは言葉とは裏腹に殺気だったクナイを飛ばした。
イルカが慌てて扉を閉めるとそこへ突き刺さったクナイの先がイルカ側に3センチほど顔を覗かせる。
イルカは冷や汗を流しながらついさっき見たものを思い起こした。
あの目を疑う光景を!!

押さえつけられてた。
あれは…たしか……

「はるのぉ?!」

ドンドンドン!!!

「大丈夫か春野!!開けて下さい、カカシ先生!!」

ドンドンドン!!!

「カカシ先生!!今すぐ開けないと三代目に報告しますよッッ!!!」

ドンドンドン!!!

「春野ぉー!!」

イルカの声はもうすでに涙声に近い。

「何か用ですか?イルカ先生。ヒトん家、無断で上がりこんで」

寝室の扉が開き、顔を覗かせたカカシが笑顔でイルカに訊ねる。
ただし、目は笑っていない。

「春野は?!」
「イルカ先生の剣幕にビックリしちゃって…怖がってますよ。(っていうか、恥かしがってるんだけどね)そんなことより何の用ですか?」

イイところを邪魔されてさっさと追い返したいカカシは冷たく言葉を繰り返す。

「…三代目から頼まれて犬を受け取りに来ました…」
「あ、そう。その辺にいるからさっさと連れていって」
「はぁ」
「『サスケ』連れて行っちゃうの?何で?!」

イルカの間の抜けた返事とサクラの哀しげな声が重なった。
当然サクラは恥かしさのあまり布団の中で丸まっていたのだが、『サスケ』に関することらしい会話に顔を出さずにはいられなくなったらしい。
カカシが上半身だけ覗かせている扉の下のほうからカカシのシャツを羽織ったサクラがちょこんと顔を出している。

「春野!!…どういうことですかカカシ先生!!どうしてココに春野が居るんですかッッ!」
「どーもこーもしませんよ。付き合ってるんです。それが何か?」

思い出したかのように繰り返される質問に悪びれるふうもなく、きっぱりと答えたカカシ。
イルカは二の句が告げなくて押し黙った。
カカシのあっけらかんとした態度にこっちの方が悪者のような気がしてくる。

「…そうですか」

イルカはやっとの思いでそれだけ告げた。

「イルカ先生、犬、連れて行っちゃうの?」

腰の辺りから聞こえるサクラの声にイルカは片膝をつき視線を合わせる。

「ああ。ごめんな。この犬、飼い主がいたんだよ」
「…そっか。じゃ、しょうがないね」

手を伸ばし、慰めるようにサクラの頭を撫でていたイルカの視線が…サクラの首筋についた赤いシルシでピタリと止まる。

「カ、カ…カシ先生ッッ!」
「はいドウゾ」

視界を遮った灰色の塊。
イルカはそれが犬だと気付くのに暫くかかった。

「コレ持ってさっさと帰ってください。邪魔です。アンタもこの犬。」
「じゃ、じゃま…」
「ホラ、諺にもあるデショ?恋人達の邪魔をする者は写輪眼を持つ元暗部に刺されて死んでしまうって」

馬に蹴られて…だろ?
しかもなんなんですか!!
『写輪眼を持つ元暗部』って!?
どう考えても一人しか思い浮かばない…

「…ワカリマシタ」

これ以上何か言えば命がなくなるであろうことを悟り、イルカは子犬を受け取る。

春野も…ムリヤリってわけではなさそうだし、ココは自分が引くべきなんだろうなぁ…

「では…失礼しました」

自分で自分をなんとか納得させ、律儀に頭を下げるとイルカは足早に玄関へと向かった。



パタンと玄関の戸が閉まる音を聞いてから、カカシがサクラの顔を覗き着込む。

「やっと帰りやがった。さて、続きをしよっか。…サクラ?」

サクラの視線は真っすぐ伸びた廊下の先の…今しがたイルカが姿を消した玄関へと向けられたままで……

「サスケ…」

呟いたあと、若草色の瞳には透明な雫が盛り上がっていた。

「そんなに犬が飼いたかった?」
「…」
「犬なら…いるデショ」
「…どこに?」
「ココ」

カカシは自分自身ゆび指した。
それにつられ不思議そうに自分を見上げているサクラを床へと押し倒し、覆い被さる。

「わん」
「ちよ…ちょっと、わんって…先生!!…あっ!んっ…」

本物の犬さながらに舌で愛撫を始めるカカシにサクラが思わず甘い吐息を漏らした。
嬉しそうに笑うカカシと目が合う。

こんな犬…嫌ッッ!!!

しかし、先ほどまでの行為で身体の火照りが収まりきれていないサクラがカカシに流されてしまうのは時間の問題といえる。
早くも疼き始める身体を自覚しつつ、サクラは心の中で叫んだ。

覚えてなさい!!
今に調教してやるんだからッッ!











以前に企画したカカサクパラレルの参加者の皆様へ差し上げた作品です。
UPしていただいているサイト様がありますので、いいかな?とリンクを切っていたのですが…
ご要望によりリンクを繋げさせていただきます。
お問い合わせいただいた方、有難う御座いました。

まゆ



2009.06.14 改訂
まゆ