千年の春 1






9月も終わりになると、日が欠けるのが目に見えて早くなる。
夕焼けの空の下、猫背の男の影が長く地表を這う。

「・・・サクラ。話がある。」
「何?」
「大事な話なんだ。」
「ふーん?これからチョットいのと約束あるから・・・後でイイ?」
「ああ。」
カカシの返事に、サクラはちらり、とアカデミーの校舎に備え付けられている時計に目をやると、ほぼ4時を指していた。
「じゃ、6時に<たこ壺>でね。」
「たこ壺???」
   <たこ壺>は木の葉の里の中でもかなり賑やかな居酒屋だ。
   大事な話をするような場所ではない・・・
「そう。だって、私が泣いちゃうぐらい大事な話なんでしょ?あそこなら少々私が泣いたって、誰も気付きはしないわよ?!」
サクラはにっこり笑ってそう言うと、カカシの返事も聞かずに少し離れたところにいる、いのに向かって歩き出した。
カカシは、小さくなっていくサクラの後姿に、
   わかっているんだな・・・
と、ポツリとつぶやいた。

サクラが行ってしまった後、カカシは2時間あまりの時間をつぶす為、アカデミーの敷地内をブラブラしていた。
よくサクラと日向ぼっこをしたベンチを見つけ腰をおろす。
   一人でここに座るのは初めてかもしれない。
   いつも、サクラと一緒だったからな・・・


サクラに、付き合ってくれと告白したのはカカシの方だった。

自分は、いつか、そう遠くない将来、暗部へ戻ることになるだろう・・・
その時まででいい、一緒に居て欲しい・・・
と、先が見えている恋をサクラに押し付けたのだ。
   自分がどんなにバカなことを言っているか、十分に自覚はあった。
   それでも言わずにはいられなかったのだ・・・
   ほんの一時でも、一緒に居られたら!
   別れた後の年月も、ただ、その思い出だけで生きていけるだろう、と。
相手のことなど全く考えていない、自分勝手な想い。
とにかく、無茶苦茶な告白だった・・・

あの時の、サクラの顔は忘れられない。
大きなエメラルドの瞳が更に大きくなって・・・
次の瞬間、花が開くようなあでやかな笑顔に変わったのだ!
そして、笑いながらこう言った。
「その、『いつか』って、明日かもしれないのね?もし、明日ならどうするのよ?先生・・・」
   うーん、さすがに明日ってことはないと思うケド。
チョット真剣に考え込むカカシを見て、またころころと笑う。
   そういう所が大好きよ。
笑いすぎて涙目になったサクラは、涙をぬぐってカカシを見上げる。
「いいわ。先生・・・付き合ってあげる。でも、『いつか』がきたら、ちゃんと言って?黙って居なくなるのは許さないわ。」



あれから2年・・・。
カカシが予想していたより少し早かったが、とうとうその日がやってきた。
「はぁー・・・」
深いため息と一緒に、どうにもならない悲しみの塊を吐き出す。
   2年という年月を十分な時間だった、と思うべきなんだろうなぁー・・・
「雪・・・」
つぶやく声に、どこからともなく真っ白な犬が現れる。
カカシの忍犬だった。
立ち上がるとサクラとほぼ同じぐらいはあると思われる大きな体は均等な筋肉が付き、逞しく太い四肢は何里をも駆ける事が出来るであろう。
里の上忍と対等に渉り合えるレベルの忍犬・・・
雪の背をポンポン、と軽くたたき、発した言葉は掠れて音にはならなかった。
   あとを頼む・・・・


「そろそろ時間だな・・・・」
カカシは重い腰をあげ、立ち上がるとゆっくりと歩き出す。
雪は唯一の主を見送ると、いつものように音もなく姿を消した。


to be continue








2001.12.02
まゆ