マイナスイオン




ようやく以前と同じ長さになりつつある髪の毛を首先に絡め、枝毛を見つけては携帯用の小さなはさみで処理していく。
単調で寡黙な作業。
そんな彼女の行動を伺い見ながら…カカシはこっそりと溜息をついた。

…年頃の女の子って、扱いにくい…

すごく機嫌が良かったり、些細な言葉で急にむくれたりする。
例え機嫌の悪い理由がわかったとしても、カカシには到底理解できないものがほとんどだ。

昼下がりの休日。
カカシの部屋の、ソファーの上。
カットされた薄紅色の髪の毛を撒き散らしながら…サクラは作業に没頭している。

現在の彼女の機嫌はというと…決して良くは、ない。
むしろ、すこぶる悪いと言った方がいいだろう。
でもそれは今に始まったことではなく…この二、三日ずっとこんな調子なのだ。
理由には少しばかり心当たりがあった。

「サクラちゃーん」
「…何」

猫なで声で呼びかけてもこの始末。
冷たくあしらわれ黙り込んだカカシだが、ここで引くわけにはいかない。
意を決して再び話しかけた。

「何をそんなに怒ってんのかなー、と思って」
「別に。怒ってなんかないわ。いつもと同じよ」
「…でも怒ってるデショ?」
「…」

怒っている人間に怒っているかと問いかけて、素直に頷くとも思えなかったが…サクラも例に漏れず、無言のままじとりと此方を睨みつけている。
カカシは仕方なく後ろ手に隠していた箱を黙って差し出した。

「…何、ソレ?」
「わかってるくせに。一日早いけど…サクラへの誕生日プレゼントだよ」
「いらない。そんな『物』はいらないって言ったでしょう?」

確かに。
三日ほど前カカシがサクラに欲しいものを尋ねたとき、サクラは『物』を強請らなかった。
しかしサクラの提示した『プレゼント』はカカシを十分に躊躇させるもので…即答を避けたのだ。
それこそがサクラの不機嫌の理由。

「開けるだけ、開けてみない?」

綺麗にラッピングされているものの、中途半端な大きさの箱の中身は想像に難しい。
通常男性が恋人に送るアクセサリーの類では決してないし、服でもなさそうだ。

先生なんて…その箱と一緒じゃん。
ホントに中途半端なんだから。
付き合ってくれって言ったのはそっちなのに、手を出してもくれない!

サクラは差し出されたままの箱を横目で見ながら溜息を吐いた。
そして、ひったくるようにして箱を奪い取り、思い切りよく両手でビリビリと包装紙を破り始めた。

「…あてつけなの?どうせ私の髪は枝毛だらけよッ!」
「そういう意味じゃ、なくてね」

出てきたものはドライヤー。
最新式の、マイナスイオンが出るヤツ。
実用性から言えば文句無しだし、確かに欲しいなって思ってた。
でも、誕生日に恋人に貰うには色気がなさ過ぎる。
それに…そもそもカカシに強請ったのはこんな『物』じゃないのだから。
予想を遥かに逸脱したプレゼントを握り締めて、サクラはソファーから立ち上がった。

「帰る」
「え…?あの、サクラ?」

カカシも慌てて立ち上がり、横をすり抜けようとしたサクラの腕を素早く掴んで引き寄せた。
バランスを崩して倒れこんでくる華奢な身体を受け止め、そのまま抱きしめる。
絡まってくる腕を押しのけるように、サクラは暴れた。

「…ち、ちょっと、離してってば!!」
「ドライヤー、持って帰られたら困るし。でも、サクラが家に帰るのは…もっと困る」
「は?」
「それは此処でサクラが使うの」

全くもって意味がわからない。
カカシの言わんとすることが理解できず眉間にしわを寄せたサクラの顔を、カカシは両手で包み込んで額と額を合わせた。
間近で見る大きな翡翠色の瞳の中に、少しだけ自信無げな自分が見える。
カカシは三日間悩んだ末の結論を告げるべく、軽く息を吸い込んだ。

「だーかーらー、そのドライヤーは、ね。明日の朝…サクラが起きたら使うんだよ。此処で」

カカシの言葉を、言葉通りに受け取ってもいいのだろうか?
明日の朝ということは…今日、此処に泊まるということで。
言い換えれば、夜を共に過ごすということ、だ。
それこそが自分がカカシに強請った『プレゼント』だったのだけれど。
サクラはカカシの真意を確かめるべくカカシを見つめた。

「…帰る?」

視線を逸らさないまま…笑みを含んだ声でカカシが尋ねる。
自分の胸に顔を伏せ、勢いよく首を横に振ったサクラの髪に、カカシは優しい口付けを落とした。








誕生日がきて一つ大人になるというけれど、13というのはまだまだ子供デショ。
いくら互いに好き合っていても、世間一般では受け入れにくい間柄だということをサクラはちゃんと理解してるのかな?
ましてや肉体関係ってことになれば自分のような大人の総称は『変態』か『ロリコン』だし。

サクラの身体に触れることは…正直、今でも迷ってんの。
でも、サクラがそれを望むのならば。



オレは『変態』でもいいかな、って思うんだ……










ちょっと早いですが、サクラ誕生日おめでとうvv
甘甘で恥ずかしいですが・・・まぁ、いいです(笑)
カカシ、カミングアウト!
お持ち帰りはサクラちゃんの誕生日まで。
こんなもんでも良かったらどうぞ。
一応BBSに名乗ってください。

2005.03.12
まゆ



2009.05.06 改訂
まゆ