虚無なボクら




サクラがどんどん遠くなる。
それを私達は此処から見ていた。

何も出来ず、
何も言えず。

ただ、自分を哀れんで………










木の葉病院の、向かいにある小さな公園。
そのベンチに座る先客はサクラの上司だということを除けば自分とは何の接点もない男だった。
会話が成り立つとは思えない。
挨拶を交わす必要もないだろうと回れ右をした自分に、意外にも男の方から声を掛けてきた。
しかし、視線は相変わらず正面の…木の葉病院へ向けられたままだ。

「…いのちゃん、だっけ?」
「そうですけど」
「…いのちゃんも、サクラを見にきたの?」
「違いますッ!」

反射的に声を荒げた。
これでは肯定しているも同然だ。
どう取り繕うかといのが言葉を捜しているうちに、カカシの方が先に口を開いた。

「今ね、サクラは綱手様と第三治療室に入ったトコ」
「…そーですか」

この男…結構、苦手なタイプかも。

人の話を聞いているのか、聞いていて無視をしているのか…多分後者だろうけれど…わからない。
いのはとりあえず相槌だけを返した。

「今日はどんなコト習ってるのかな?」
「さぁね?気になるんだったら聞きに行けばいいと思いますけど」
「嫌」
「はぁ?」

…嫌ってアンタ。

いのがカカシの一言に眉を顰めた。
子供じみた台詞を吐いた男は一回り以上年上で…しかも、現在、木の葉一とも言われている忍びなのだから。

「邪魔したくない」

ポツリと呟かれたカカシの声にはどこか悲壮感が漂う。
むしろ、いのは邪魔をしたいと思った。
私の存在をどんどん小さくしていくサクラに罰を…与えたかった。

「いのちゃんはさぁ…サクラのコト、一生自分の背中に隠れていればいいのよって思ってるデショ?」

いのの肩が不自然に揺れた。

「ずっと…自分を頼っていて欲しいんデショ?」

掴み所が無いうえに、鋭い一言で心を抉る。
やっぱりこの男は苦手だと心の中で愚痴りながらいのは顔を背けた。

今日は通常任務が休みの日。
いのは一緒にショッピングをするつもりでサクラの家に行った。
…でもサクラは居なかったのだ。

約束をしていたわけではないが、今までなら逢いたい時には必ず逢えた。
以心伝心とでも言うのだろうか?
その奇妙なバランスが狂いつつある。

泣き虫で優しいサクラ。

自分と対等になろうと足掻いていた少女は自分を追い越し何処へ行くというのか?
いのが向けた視線の先に治療室から出てきたばかりの綱手様とその隣を歩くサクラが見えた。

語りかけると返事は返るのに。
手を伸ばすと触れられるのに。
それでも、今、サクラは遠く感じられる。

「アンタに答える義理はないわ!」

ナンセンスだといのは片手で髪を掻き揚げた。
アンタと呼ばれたことを少しも気にした風もなく、猫背の男は乾いた声で笑う。

「オレ達、似たもの同士だねぇ」
「どこがよ?」
「わかっているくせに」
「…」

意味深な物言いをするカカシを無言で睨みつけた後、蜂蜜色の髪の少女は踵を返した。
あっという間に見えなくなる背中を、カカシは同情の眼差しで見送る。

あの子も感じているハズだ。
変わっていく…変わらないサクラを。

「…寂しい」

いのが去った今、カカシの独り言は誰に聞きとめられる事もない。
再び戻した視線の先にサクラが映った。

サクラはいつまでオレのことを『先生』って呼んでくれるのかな?

ふとした疑問に心が揺れる。
あの愛くるしい瞳を輝かせ、忍服の裾を掴み…甘えてくるサクラはもう自分だけのものではないのだから。

急に静かになった身の回りはとても居心地が悪く、落ち着かない。
カカシは髪の色で辛うじてサクラと判別できる、そんな距離でサクラを見つめながら深い溜息を吐いた。

「寂しいよ、サクラ……」










絶対この二人は気持ちを共有できると思うんですよね。
カカシ先生ってば寂しがり屋さん。
一人で 『元気出せカカシフェスタ』 開催してみました!(爆)
またの名を 『カカシヘタレ祭り』

2004.11.07
まゆ



2008.11.30 改訂
まゆ