全面降伏




『十年後…絶対、後悔させてやるッ』
『はいはい、十年後ね。お待ちしております』


サクラからの告白を、そう軽くかわしたのは三年前。

ごめん、サクラ。
十年も要らなかったみたいだ……












「だってさー、オレは『先生』で『上司』な訳よ」

子供なりに真剣なのは十分に伝わってきたが、それでも到底恋愛対象として見ることは出来なかった十四のサクラを思い出し、カカシは大きな溜息を吐く。
それが今になってこんな気持ちになるなんて……
三年前の自分にとって『今』は全く予想外の未来だ。

窓の外には現在十七になるサクラが一人で弁当を広げているのが見える。
何処にいても目立つ薄紅色の髪が相変わらず短いままであることをカカシは以前から少し残念に思っていた。
…伸ばせばいいのに。
長い方がサクラには似合うのだから。

「では…ずっと先生でいればいいじゃないですか、先輩」
「嫌だ。それじゃあサクラが手に入らない」
「…嫌だって…アンタ、駄々っ子じゃあるまいし。それなら先生を辞めなさいよ」
「それも嫌なの。オレはずっとサクラの先生でいたいもん」

時には厳しく、時には優しく導く絶対の存在。
尊敬と憧れの眼差しはカカシの自尊心をくすぐる。
サクラからのそれは特に。

上忍控え室で恋愛相談。
初体験は十二で済まし、それ以後女に不自由したことのないこのオレが…テンゾウと紅を相手に恋愛相談かよ……

「そもそもサクラちゃんに告白されたのは三年前の話なんでしょう?」
「…そーだけど」
「まだアンタのことを好きでいる保障なんてどこにもないじゃないの」
「そうですよ、先輩。それに彼女…最近サイとよく一緒にいるみたいですし、ナルトともいい雰囲気なの知ってます?」

先輩の存在なんてとっくに忘れられているのではないですか。
そんなテンゾウの鋭い指摘に耳を塞ぎ、カカシはサクラを見つめ続ける。
そこへ噂の…ナルトとサイが現れた。
サクラを挟んで両脇を陣取った二人はサクラ手製の弁当に手を出し次々に口へと放り込んでいく。
サクラも怒る素振りを見せないことが更にカカシの苛立ちを増した。

「…くそっ」

カカシが睨みつける窓の外。
視線の先に何があるのか何となく分かる気がして。
次第に不機嫌になっていく横顔を紅とテンゾウは面白そうに眺めていたが…その終わりはあっという間にやってきた。

「もー…無理。もう限界!」

そう吐き捨てたカカシが居ても立ってもいられないとばかりに窓枠に足をかけ、終にはそのまま外へ身を躍らせてしまったから。





カカシの飛び出した窓から二人が下を覗き込む。
文字通り降って湧いたカカシに目を丸くしているサクラと…サクラの隣から引き剥がされ憮然としているナルトとサイ。
その二人に理不尽な説教を振るっているカカシ。

「格好悪いですよ、先輩」
「なりふり構わずね。…あら」
「どうかしました?」
「いいえ、何でもないわ」

サクラがカカシを見ているその頬がバラ色に染まっていることに気付き、紅は一人笑いを噛み殺した。









どんな話にしたかったのか…今となっては謎の代物。
きっとヘタレな先生を書きたかったに違いない…

2008.0.9.17
まゆ



2008.11.30 改訂
まゆ