告白 「なぁに、話って」 カカシに呼び出され、サクラはアカデミーの中庭で缶コーヒーを片手にベンチに腰掛けた。 「あ、うん。ちょっと相談ごとっていうか…」 「相談?何?」 「…えーっと…まぁ、アレなんだけど」 「は?アレって何よ?」 いつまでたっても本題を話し始めないカカシに、サクラは眉を顰めた。 普段ずけずけと言いたい放題の先生にしては珍しく歯切れが悪い。 話し辛いことなのかと考えもしたが、いかんせん外は寒いのだ。 思いやりの気持ちなど一瞬にして北風に飛ばされてしまう。 「好きな人が居るんだけど…どうしたらいいかよくわかんなくて」 一分弱の沈黙の後、カカシがおもむろに口を開いた。 「す…す、好きなひとぉー?」 興奮のあまり声が裏返る。 サクラはコーヒーを一気に飲み干してゴミ箱に投げ込むと急いでカカシに隣に座るよう促した。 こんな面白そ…いやいや、重大な内容だとは! 「私、まさかカカシ先生に恋の相談を受けるとは夢にも思わなかったわ」 「…ごめんね。もうどうしたらいいかわかんなくて」 「いいのいいの!謝らないでよ。むしろ興味あったし」 「興味って・・・酷いなぁ」 「だって先生ったらいかがわしい本ばっかり読んじゃって、そのくせ浮いた話の一つも聞かないんだもの、しょうがないじゃない。で、どんな人よ?」 瞳をキラキラ輝かせて此方を見上げているサクラに、カカシは心の中で溜息を吐く。 ホントに…どうしたらいいんだろう。 この鈍い女の子を落とすには。 「…年下のくの一」 「きゃー!それでそれで?告白はしたの?」 「片思い。…じゃなければ相談なんかしないデショ」 「だよねぇ。所属は?」 「…今は主に医療班、かな」 「え!?私と一緒じゃない!…誰だろう?先生、他にヒントはないの?」 「…サクラ、オレ…真剣なんだけど」 「へへ。ごめん」 相談を受けているというよりは、芸能ニュースでゴシップネタに喰い付いているという見方が一番しっくりとくる。 腹立だしいほど意識されていない自分がなんだか切ない。 「でも実際のところどうなの?」 「どうって?」 「二人の関係がどういうレベルかってことよ。例えばさー、会話は普通に出来るとか…二人で食事したことあるとか」 「あぁ、そういうことね。それなら…この間オレの部屋にご飯を作りに来てくれたよ」 「ええ?!そうなんだ!じゃあ告っても大丈夫なんじゃないの?きっとその人もカカシ先生のこと好きだって」 「…ホントかなぁ」 「うん!だって女の子は絶対に嫌いな男の人の家にご飯作りに行ったりしないもの」 「そういうもの?」 「そういうものよ!」 胸を張って答えるサクラに、やはりまるっきり自覚は感じられない。 ほんの三日前、夕食を作りに来てくれたのは何処のどいつだ? 「でもさ、彼女…好きな人がいるっぽいんだよね」 未だにサクラがサスケを追い掛け回しているのは事実。 心なしかサスケの態度も柔和になってきている気がするし。 カカシは空を仰ぎ見た。 どんよりとした低い雲は今にも雪を降らせそうだ。 「無視無視!そんなの無視よ!!付き合ってるわけじゃないんでしょ、その人」 「まぁね」 「だったらいいじゃない。奪っちゃってよ、先生!」 サクラがカカシを見てにやりと笑った。 「多少強引な方が乙女はときめくものなのよ!しゃーんなろー!!」 「…サクラもなの?」 「もっちろん!」 ふぅん。 へー。 そうなんだ。 「またご飯作りに来てもらいなよ。それでちょっとお酒とか飲ませちゃって…押し倒す!!」 「…マジで?それ、本気で言ってる?」 「もち。あ、でも押し倒すのはちゃんと告白してからね?」 「…」 宙に視線を漂わせ、カカシが何か考えている。 先生に想われるほどの女の人だから、きっと素敵な女性に違いない。 相変わらず右目しか見えない顔だけど、すごく真剣なのが伝わってきて…正直、その人が羨ましいなって思った。と同時に寂しさを覚える。 先生に彼女が出来れば今までのように構ってくれなくなるだろう。 「ねぇ、サクラ」 カカシの声で我に返る。 先生は何か吹っ切ったような表情で私を見ていた。 「これから暇?」 「えぇ、まぁ」 「じゃ…晩御飯、ウチで一緒にどう?」 「あ、うん。いいけど」 「オレさー…鍋食べたいんだよね」 外での長話にすっかり冷え切ってしまった身体を両手で擦っている。 そんなカカシの仕草を見ればサクラも急に冬の寒さを実感してしまう。 落ち葉を舞い上げる風にぶるりと身震いした。 「鳥鍋とキムチ鍋、どっちがいい?」 ベンチから立ち上がりながらサクラはカカシに問いかける。 これからスーパーに寄って材料を買わなければ。 先生の家の冷蔵庫っていつも空っぽなんだもの。 「サクラは?」 「そうねぇ…鳥、かなぁ」 先にたって歩き始めたサクラに肩を並べば…先生の家に土鍋あったっけ、などとブツブツ呟いているのが聞こえた。 可愛い可愛い赤頭巾ちゃん。 今夜、君はオオカミに食べられちゃうんだよ。 隣の男がそんなことを考えているなんて夢にも思っていないだろうサクラの隣で、クククと笑いがこみ上げてくる。 カカシはサクラの歩調に合わせてゆっくり歩きながらいつもより早く打つ心臓をなだめようと大きく息を吸い込んだ。 強引に迫ってみよう。 お酒の力も借りて少しだけ強引に。 …だって、サクラが大丈夫だと言ったのだから。 久しぶりな更新で…。 ほのぼのカカ→サクもたまには良いものです。 え?ほのぼのじゃないって?(笑) 2007.01.27 まゆ 2008.11.30 改訂 まゆ |