儀式




明日はお休み。

任務が終わり報告書を届けに行ったカカシを、サクラは図書室で待っていた。
特別約束をしているわけではなかったが、どこにいても必ず見つけてくれる。
だから今日は図書室。

遅いなぁ…
また、火影様から呼び出し?

カカシは受け持ちの下忍達が休みのとき、よく上忍としての任務に就いていた。
アカデミーの生徒や下忍を担当している者は普通、個別に任務を与えられることはないらしいのだが、カカシの場合かなり頻繁に任務に就いていた。

『ほら、オレって腕利きだし…しょうがないでしょーよ』

カカシはそう言って苦笑していたが、到底サクラには納得できないことだった。

ナルトの奴がさっさと5代目になっちゃえばイイのよ!!
そうすれば私がナルトを脅してカカシ先生に任務なんか与えさせないんだから…しゃーんなろッ!

心の中で叫ぶと手にしていた本をパタンと閉じる。

帰ろっか、な。

サクラは本を棚へと戻すため席を立った。










お風呂上りでまだ濡れている髪の毛を拭きながらか鏡の前に立つ。
貧弱な体を見つめて溜息を吐く。

早く大人になりたい!
守って、あげたいの……

サクラは笑う。
大切なあの人のために笑う。

大丈夫。
今日も上手くやれるわ。
  
あぁ、窓を開けておかなきゃ!

カカシは任務へ向かう前、必ずサクラのもとへ立ち寄る。
ある『言葉』を聞く為に。

きっと今夜も来るだろう…










「サークラ!」

窓ぎわでうたた寝をしていたらしい。
もう月は高い。
冷えた頬を同じぐらい冷たい指でツンツンとつつかれる。

「風引くよ、サクラ」

カカシはサクラの腕を掴むと軽く引き寄せ、見た目よりガッシリとした胸に抱きしめた。

痛い、わ…

胸のポケットにはかなりの物が装備されており、ゴツゴツとした感触をサクラの頬に残す。
先生は胸の中で窒息しそうになっていた私を抱き上げるとベットに座らせ、自分は向かい合わせになるように床に膝をついた。

「明後日の夜には帰るよ」
「…うん」
「ねぇ、サクラ…聞かせて?」
「先生ったら、何度言わせたら気が済むのよ?」
「だって…」

まるで、だだっこのよう。
こんな先生知ってるの私だけよね。
先生の素顔も・・・・

「しょうがないわね」

サクラはカカシの額あてを取り、面布をずり降ろした。
何も付けていない先生の顔を小さな手で両手に挟み、左右色の違う瞳を見つめる。

「先生が死んでも、私は泣かないよ?」
「うん」

「他の誰かを見つけて、先生のことは忘れちゃう」
「うん」

「先生の後を追ったりしない」
「うん」

「だから…私の心配はしないで」
「…」

「大丈夫だから!」
「…うん」

極上の微笑を添えて。
唇へ、小鳥が啄ばむような、キスを。
心配性の貴方へ、おまじないのキスを何度も繰り返す。

こんなことしか出来ない私……

「行ってくるよ」

もう一度だけキスを…今度は深く、お互いの中を確かめ合ってから口を離した。
カカシは素早く額あてと面布を元通りにすると、入ってきた窓から音もなく飛び降りる。
そして、月の光でキラキラと光る青みがかった銀の髪の男は、すぐに闇と同化して見えなくなった。

月はもう真上に来ている。
風がひんやりと肌寒い。

泣かないわけないでしょう?
先生のかわりなんて見付けられるわけないでしょう?
先生を忘れるわけないでしょう?
大丈夫なわけないでしょう?

…きっと、後を追うわ…




サクラにとって、長い明日が始まる。









2001.12.11
まゆ



2008.12.06 改訂
まゆ