生まれたばかりの貴方へ




「何処も悪い所はないよ」
「本当ですか?よく診てください」
「お前…私の診断が間違ってるというのかい?」

凄まれて引き下がる。
綱手がそう言うのであれば本当になんでもないのだろう。
カカシは慌てて頭を下げ、更なる雷が落ちないうちに廊下へと避難した。

でもオレの身体は絶対におかしいのだ。
…こんなこと、今まで無かったんだから。










カカシはいつもの猫背を更に丸めて木の葉通りを歩いていた。

悪いところは無いって言われてもなぁ…

やはりまだ納得しきれないカカシは、それでも…どうする術も無くて。
ただブラブラと独り歩く。

「やだー!もう…冗談はやめてくださいよぅ」

右斜め前方。
30メートル先。
元気な声とともに瞳に飛び込んできたのは薄紅の髪の少女だった。

とくん。

心臓の音が聞こえた。
見間違えるはずの無い、元部下の『サクラ』。
駆け寄ろうとしたのも束の間、連れらしい人影を見つけてカカシは二の足を踏んだ。

隣に居るのは…知らない、な。
誰だぁ?

カカシは唯一覗かせている右目を凝らして伺い見る。
女ではない。
いつもサクラに纏わり付いているガイのとこの濃いガキでもなくて。
先日楽しそうに会話してた白眼のガキでもない。
記憶を遡ってみるが…やはり自分の知らないヤツだった。

どくん。

また、心臓の音が聞こえた。
先ほどとは違ってキリキリとした痛みがともなう。
急に重くなった頭を抱えて、カカシはその場に蹲ってしまった。

やっぱりオレの身体、どっかおかしいデショ。

動悸。
眩暈。
息切れ。
そして…意味不明の怒りと、同時に襲われるどうしようもない不安感。
サクラの隣で同じように歩を進める男の手がさり気なくサクラの腰に回った時、それはピークに達した。

自然と動いた足は自分とサクラの距離を一気につめる。
未だなおサクラの腰をさり気なく支えている細い少年の腕を跳ね除けて、わき腹に肘で一撃。
苦痛に歪む少年の顔を見た時、何故かカカシの頭痛もキリキリとした心臓の痛みも一瞬にして治まった。

「よ!サクラ」

笑みを浮かべたカカシはサクラにのみ挨拶した。
突然の出来事に翡翠色の瞳はめいっぱい開いてて…でも可愛かった。

「久しぶり」
「…一昨日も逢ったでしょーが」
「そうだっけ?」

そうだっけ、じゃなくてね…先生。
ネジさん相手に思い切り写輪眼で威嚇してたじゃないの。

「サクラ…何、怖い顔してるの?」
「はぁ?」

怖い顔ってオマエが言うなッッ!
さっきまでの先生の顔の方が怖いわよ…

「あの…じゃ、オレはこれで」

カカシの背後で小さな声が聞こえた。
サクラはカカシを押しのけて彼の前に立つ。

「あ、うん。今日はありがと!…ごめんね?」

申し訳なさそうなサクラに、少年はなんとか引きつった笑顔を浮かべ、「また」とだけ言った。
多分、「また」は無いだろう。

サスケが里を抜け、ナルトが自来也が修行に出てもうすぐ一年になる。
七班という優しい小さな世界から放り出された自分が死に物狂いで頑張ってきた一年。
意外に人見知りの自分が、一から築き上げた人脈。

それを…この男は。
考え無しに片っ端からぶっ壊しやがって!
もう何回目だと思ってんのよ?!
しゃーんなろーッッ!

サクラは心の中で叫び、実際は長い長い溜息を吐いた。
でもここまでやられたら…さすがに気づく。
わき腹を押さえてそそくさと退散してしまった友の背を見送ってからサクラはカカシに向き直った。

「先生。私の友達にガンつけないで」

妙に真剣な顔でサクラが告げる。
カカシはサクラの言っている意味がわからなくて首を傾げた。

「…ガン?」
「睨まないでってことよ」

あぁ、そういうこと。
って…オレ、睨んでた?

「脅すのもナシ」

はぁ。

「裏拳も駄目」

…駄目、なのか。
いやにスッキリして良い気分になったんだけど。

「絶、対、駄目よ。…わかった?」

カカシの、思案している表情を読んで、サクラが強く念を押した。
有無を言わせない迫力にカカシはただコクンと頷く。
それを見届けたサクラはやっと安堵の息を吐き、カカシの胸へと飛び込んだ。

「この際だから言っちゃうけど」
「…何デスカ?」

まだ言いたいことがあるのかと、カカシは恐る恐る問いかける。
カカシの腕の中。
ごつごつとした忍服のベストに頬を摺り寄せながら、サクラが怒ったように呟いた。

「先生、ヤキモチはもっとわかりやすく焼くものよ!」





しょうがないから…その病気、私が治療してあげるわ。
手始めに「サクラを愛してる」って言ってみて。
ほらね。
イライラが治まったでしょう?
まずは自覚することから始めないとね!





人を愛することを知った、生まれたばかりの貴方へ。

私から、祝福のキスを一つ。













昨日…てか、明け方に突発的に書きました。
なんとなくカカサクの原点に戻ってみたり(笑)
行き当たりばったりの文章ですが…勘弁してください。
イマイチ内容も無いけどね…(苦)

2005.05.01
まゆ



2008.11.30 改訂
まゆ