早くおいで……
こっちの水は甘い。

こっちの血は、甘い…



甘い甘い赤。










「まだ泣いてるの?」

カカシの声にゆっくりと顔を上げたサクラは泣いてはいなかった。
だがそれは、とうに涙が枯れ果てただけのことであり、その表情は泣いているも同じだ。
虚ろな若草色の瞳が宙を漂う。

「どうしてサクラがサスケを止められなかったのか、ていうか…どうしてサスケがサクラを連れて行かなかったのか、教えてあげようか?」

サクラがやっと真っすぐ『カカシ』を見た。

「別にアイツはサクラのことを思って連れて行かなかったわけじゃない。邪魔だからだよ。忍びとしての特異体質を持つわけでもなく、技術があるわけでもなく、体力に至っては並み以下。多少頭が良くったってそんなことにサスケは魅力なんて感じないだろうからね」

ズケズケと容赦なく言い放つカカシの言葉にサクラが再び俯いた。
小刻みに震えている背中はとても小さく頼りない。

「それに…」

カカシは言葉を切り、サクラへと手を伸ばした。
涙でカサカサになった頬を撫で、張り付いた髪を優しく払いのける。

「それに、今のサクラでは本当のサスケの気持ちなんてわからない」
「わかってるわよッ!」
「それは自己満足のサクラの解釈」

まだ何か言いたげなサクラを差し置いて、カカシが先に言葉を紡ぐ。

「サクラ…お前はサスケやナルトとは住んでいる世界が違うんだよ。自分でも本当はわかってるデショ?」

…そう。
わかっている。
だからこそ、ナルトに頼んだ…
サスケくんを連れ戻してって、ナルトに頼んだのよ!

先に視線を反らしたサクラにカカシは意地悪く笑った。

「サスケの全てを理解したいのなら、サクラもコチラ側へ来るべきだ。」

コチラ側?

意味深な言葉にサクラが眉を顰める。

「コワイ?」

からかう様なカカシの声。
サクラは頭の隅で響く警告音にあえて耳を塞いだ。

「……どうすれば…いいのよ?」










もうとっくに絶命した目の前のそれに、何度も何度もクナイを振り下ろす。
繰り返される行動は病的だったが、一寸の狂いも無い。
飛び散る血は生暖かく…サクラを赤く染めあげた。

「もういいヨ、サクラ」

カカシの声に、サクラはようやく獲物から顔を上げた。
しかしまだ極度の興奮状態の為か…恍惚とした表情でカカシに問う。

「私、上手くなった?」
「うん。なった、なった。イイコだねぇ、サクラは」

『先生』の褒め言葉はとても嬉しい。
サクラはゆっくりと花がほころぶ様に笑った。
伸びてきたカカシの指が飛び散った血を拭い、更にそれをサクラの唇へと塗り付ける。
象牙の肌によく映える、赤。
チロリと舌先で舐めとりながら、サクラは夢心地に呟く。

「サスケくんも褒めてくれるかなぁ?」

カカシはそれには答えず、サクラを両手でそっと抱きしめた。







一人だけ、キレイなままでいないで。
もっともっと血に染まって。
オレが傍で見ていてアゲル。

そのうちサスケのことなんか忘れるデショ……?

ウサギに、猫に、犬。
今日は鹿。
クナイを肉に突き立てる感触だけで嘔吐していたサクラはもう何処にも居ない。
カカシは喉の奥で低く笑うと、独り考えを巡らせる。

次はもう少し大きな獲物を用意しよう。
そろそろ…人間でも、イイヨネ?








淡い紅色の光など、コチラ側には届かない。
でも。
今、薄汚れた世界で放ち始めたサクラの光は……



深紅。











オロッチー風サスケVSナルト…のジャンプ感想。(どこが?)
お昼休みにジャンプ読んでてなんとなく思いついた話。
皆で仲良く黒。(笑)


2004.06.17
まゆ



2008.12.06 改訂
まゆ