サクラ通信




「チョット聞いてよ!…最近、ヘンなの」

近頃特にキレイになったと巷で評判の喧嘩友達が仏頂面でグチリ始める。
いのはオレンジジュースの入ったグラスをストローでかき回しているサクラにばれないよう、こっそりと溜息をついた。

どうせ大したことではないんでしょ?

勝気なわりに奥手なこの少女に彼氏ができて以来、事あるごとにノロケられていれば真剣に話を聞く気もなくなるというもの。
本人は『グチ』のつもりらしいが、赤の他人からすれば『ノロケ』であることが多々ある。
サクラの場合、毎回がそれであった。

「聞いてる?いの!」
「はいはい、聞いてるわよ。セクハラ上忍がどうしたって?」
「…聞いてないじゃない」
「へ?」
「カカシ先生のことじゃなくって。私の身の回りのことよ」

セクハラ上忍=カカシ先生…そんなことをさらりと流してサクラが訴える。
少しだけ興味が沸いていのが聞き返した。

「何かあったの?」
「…最近、どこにいても誰かの視線を感じるのよね」
「はぁ?」
「冗談は抜きにして…ホラ、今だって…」

サクラが言葉を切り、自分達が座っているところからテーブル2つ分ほど離れた所へチラリと視線をとばす。
いのも同じ方向へと目をやった。
目隠し代わりの観葉植物の鉢の向こう側に『いかにも』ってカンジの黒い影。

あぁ…いるわね。
っていうか、今までもいたでしょーが。
…気付いてなかったのかしら?

ふー、と溜息を吐きながらいのは宙を仰いだ。
この調子では『サクラファン倶楽部』なるものの存在すら知らないに違いない。
もちろん、その会長が誰なのかも!!

くすくすと口に手をあて忍び笑いを始めたいのをサクラが怪訝な表情で見つめた。

「いの…私、本気で気味悪がってるんだけど?」
「あはははは!!」

サクラの言葉にとうとうお腹を抱え込んで笑いだした。

「なんなのよッッ!!」
「ははは。ゴメンゴメン。あれねー、アンタのファン倶楽部のメンバーだわ、多分」
「ファ…ン…倶楽部?!…私、の?」
「そうそう。知らなかったでしょう?」
「…」
「アンタがバスタオル一枚でセクハラ上忍に告白した時、周りに沢山忍びがいたじゃない?アレ、全部そうよ。」
「うそ…」
「ホント。ま、害はなさそうだし…ほっとけば?」
「…うん」

納得したのかしていないのか、サクラがとりあえず頷くのを見ていのは立ち上がった。
片手に伝票を持ち、サクラを促す。

「さぁ、今日は久々のオフなんだから…とっとと遊ぶわよッ!まずは買い物からね!」

悩み事があっけなく解決(?)され、キツネにつままれたようなカンジでサクラも立ち上がる。

こうして二人は待ち合わせていた喫茶店を後にした。










「ね、どう?」

今日買ったばかりの洋服に身を包み、サクラはカカシの前でくるりと一回転してみせる。
風にふわりと舞い上がるスカートの裾を眺め…イヤ、そこから覗くかわいい膝小僧を眺めてカカシはこくこくと頷いた。

「かわいいねぇ。もう…食べちゃいたいくらいだよ!」

もちろん、カカシの言葉は冗談ではない。
器用にサクラの両手を束縛するとそのまま床へと押し倒す。

「あ、ヤダッ…もう!!服がシワだらけになっちゃう」

身を捩るサクラもまたすごく可愛いくて…カカシにとっては行為を煽るものでしかないことをこの体の下の少女は知らない。

「大丈夫だよ、すぐ脱がしてあげるから」

片手を床とサクラの間に差し込みサクラの身体を浮かすと、言葉どおりすぐさま背中のファスナーが下げられ、カカシの大きな手が差し込まれた。
肩甲骨辺りから肩へと伸び、洋服の袖からサクラの両腕が引き抜かれると、サクラを包み込んでいた薄い布きれは腰のあたりに折り重なるように溜まった。

焦りは禁物。

この幼い少女に合わせてカカシは段階を一つづつ慎重に踏む。
まずは手をサクラの頬に添えて瞳を覗き込みながら軽く触れるだけのキス。
当然だけど…嫌がってないことを確認してからキスを深くしていき、同時に胸へと手を這わす。

「ふ…あ…ぁンッ」

重ねられた口の端から洩れるあられもない声に脳が溶けそうになる。
両思いになるまでの間、押せ押せムードで強引に接してきただけに、サクラから絡められた腕はそれだけでカカシの心を捉えて離さない。
どうにかこうにか…カカシははやる気持ちを押さえてサクラを抱き上げると寝室へ向かう為に歩き出した。
もちろん、後でサクラにシワになったと叱られないように床に残ったワンピースを椅子の背に預けることを忘れずに。










「う……うん…」

少し肌寒くなってサクラが目を覚ました。
手を伸ばし布団の上を探るが隣に寝ているはずのカカシの姿がなく、一気に覚醒する。

「せんせぇ…どこぉ…?」

明かりの燈っていない暗い部屋の中、サクラは不安げにカカシを探した。
いのには言わなかったが、不安なことはもうひとつあった。
こちらは当然カカシのことで…その不信な行動のこと。
約束の時間通りカカシの家へ遊びにきても居ないことが数回続いたのだ。
『寝ている』じゃなくて、『いない』。
かと思ったら、家の中には居たらしく…どこからともなく現れたり。
でも『任務』にしてはかなり不自然。

まさか…さっそく浮気なの?!
もしそうなら絶対許さないんだからね!

身体を起こし、徐々に暗闇に慣れてきた目であたりを見渡す。
と、怪しげに洩れる一筋の光。

なんなの、アレ?

そこはサクラの記憶違いでなければ…なにもないただの壁だったはずだ。
サクラはベッドから飛び降りるとそっと近づいた。
壁に手をあて、1センチほどの隙間から中を覗き込む。

隠し部屋?!

入り口は狭いが奥はかなりゆったりとしたスペースがありそうだ。
水道も引かれているらしく流し台も見える。

なにしてんのよ…?

サクラの方からはカカシの背中しか見えず、カタカタと小さな音だけが聞こえてくる。
サクラは中へと入るため、ゆっくりゆっくり慎重に…体が通れるほどの隙間を開けることに集中した。










カカシは『サクラファン倶楽部』なるものがあることを知っていた。
そう、サクラと付き合う以前から。
倶楽部会員には会報、『サクラ通信』が出回っていて自分の行動が逐一報告されていたことも。

うっとおしいとは思っていたが、雑魚の潰し合いだとタカをくくってたんだよな…

しかし、さすがに会員の中に暗部が含まれているとなると話が違ってくる。
実際、自分一人ならなんとでもなるが問答無用でサクラを奪いに来られると…いくら『写輪眼のカカシ』でもサクラを連れて逃げるには正確な人数の把握が必要だ。
打開策をいろいろと考えた結果、カカシが実行したのが『サクラファン倶楽部乗っ取り計画』だった…

第一段階として、『サクラ通信』を手に入れたカカシがそれを頼りに倶楽部運営者の何人かを探し出し全て病院送りにした。
もちろん、全ての会員に自分が…『写輪眼のカカシ』がやったとわかるように。
第二段階では、壊滅しかけの倶楽部へ変化の術で別人に成りすまし潜入。
口先三寸で皆を丸め込み主要メンバーとしてのし上がった。
このとき、カカシが撮ったサクラの写真が大きな効力を発揮したのは言うまでもない。
他の会員の隠し撮りと違って正面からのベストショットで撮られたカカシの写真は高く評価されたのだ。
こうしてカカシは素性を隠し、まんまと会長の座に治まった…





カタカタカタ…
机に向かってキーボードを叩く。

カカシが『サクラファン倶楽部』を乗っ取ってから会報『サクラ通信』はその名を変えず電波を通して配布されていた。
今までどおり紙面での配布だと(カカシがやったように)調べる気になれば意外と簡単に製作者を見つけられるためである。
HPも開設した。
そこで会員の登録が行われ、名前、年齢住所はもちろんのこと、所属する部署及び忍者登録番号までも書き込むようになっている。
いまやカカシの会員の把握は完璧だ。

今夜も隠し部屋に篭り週に一回のHP更新をしている所だったりする。

「意外と大変なんだよねー…会長って」

言葉の割りにニヤけた顔でサクラの写真をレイアウトしているカカシの背後から、突如冷たい声が掛けられた。

「なに、やってんの?」
「!!」
「会長って…何?!」
「サ…サクラ!!」

咄嗟にモニターを背に庇いながらわたわたと慌てるカカシを…胸の前で腕を組んだサクラが仁王立ちで睨み付けていた。

「え?…あの……えっと…」
「それ、私じゃないの?」
「そ、それって?」
「なにすっとぼけてんの!その背中に隠してる画面、見せなさいよッ」
「イヤ、これは…ちょっと!」

ムキになって隠す所が怪しいのよ!

「先生のこと…キライになるわよ?」
「ヤダ!!」

駄々をこねるように即答したカカシの瞳は捨てられた子犬のようで…しかも心なしか潤んで見えた。
それでもサクラの容赦ない追求は続く。

「じゃ、見せるのね?」
「………」
「見せて!!」
「はい…」

うなだれるように俯いたカカシはすごすごとその場を移動した。
サクラの目の前に現れたパソコンのモニター。

「…コレ、なに?」

映っているのはまさしく自分。
しかも………
…コレ。
数時間前に着て見せたばかりの新しい洋服じゃない!

「いつの間に撮ったのよ?!こんな写真…」

壁際まで下がってこちらを伺い見るカカシに不信な眼差しを向ける。

まさか…隠しカメラ?!

サクラの表情で思ったことを読み取ったのかカカシは慌てて否定した。

「ち、違うよ。隠しカメラなんて使ってない」
「じゃあ、どうやって撮ったのよ?」
「…」
「また黙んまりなの?…いいわ、先生なんて別れてやるんだから!!」
「ゴメンナサイ!捨てないでっ」

Tシャツを羽織っただけのサクラにしがみ付きながらまたしても即答のカカシにサクラがホッと肩の力を抜いた。

「ホラ、怒んないから…」

サクラの優しげに先を促す言葉にカカシは心の中で叫んだ。

うそだー!!
絶対怒るデショ!!

…そう思っても逆らえないのが惚れた弱み。

「やってみたら…出来たんだ」
「は?」
「試しにやってみたら、上手くいったの」
「だから一体なんのことなのよ?!」

話が見えなくて苛立ったサクラにカカシが自分の左目を指差して見せた。

「…コレ」
「写輪眼?」
「そ。コピーしたの。でね、こっちの…」

といいながらカカシが出してきたのは使用前の新しいフィルム。
それをコツンとおでこに当てて見せた。
不思議そうに小首をかしげるサクラに一言だけ告げる。

「念写」
「うそー!!」
「ホントだって!出来たんだもん」
「わかった、わかったわよ」

ムキになるカカシはなぜか幼児退行するらしい。
その語尾に

写輪眼に新しい機能(?)が見つかったのは良しとして…
私の写真を撮るのも…まぁいいわ。
   
「で、会長って…何?」
「え?」
「え、じゃなくて。なんの『会長』してるのよ?」

ここまできたら観念するしかないと悟ったのかカカシが小声でボソっと呟いた。

「…ファン倶楽部」
「なに?聞こえないッッ!」
「サクラファン倶楽部!!」

…先生が会長?
私の…ファン倶楽部の…会長ぉ?!

「ホラ、サクラが告白してくれたあの時…周り忍びに囲まれてたデショ?」

サクラが…ってトコに力が入ってたのは気のせいにしておいてあげるわ。

「ウン」
「その中に…暗部もいたんだよ?それも一人じゃなくて、ね」
「…ホント?」

内容が内容なだけに不安げに揺れる翡翠の瞳は真っすぐカカシを見つめた。
一蹴即発のあの状況を思い出し、サクラがぶるっと身震いする。
そんなサクラを優しく引き寄せてカカシは愛らしいおでこに唇を落とした。

「サクラが怪我するのだけは絶対我慢できなかったから…だからオレ、ファン倶楽部潰そうと思って。でも、サクラ…オレがむやみに人殺しちゃうのヤだろ?」

っていっても…カブト。
アイツだけは殺っちゃうケドね。

「当たり前でしょ。そんなことやめてよ!」

人を殺す…
任務でもないのに人の命を奪うなんて!!
そんなこと、させたいわけないでしょーが!!
私のこととなるとさらりと恐ろしいことを言うのだ、この男は。

「んー…だからね、潰すんじゃなくて牛耳っちゃおうかなって。逆転の発想だよ」
「…先生にしてはいい考えだわ…」
「だろだろ?それにさーやってみると意外に楽しいんだよ」
「会員のみんなって…会長が先生だって知ってるの?」
「んなわけないデショ!変化して登録してるから…ただのカメラ小僧だと思ってんじゃない?」

だよね。
あ、もう…どうでもよくなってきちゃった。

よくよく考えるとカカシがファン倶楽部の会長だからって別にサクラにはなんの被害もない。
浮気だなんて考えていた自分が馬鹿馬鹿しくて…安心したのか急に睡魔が襲ってきた。

「…私、眠たくなってきちゃった」

カカシの腕の中でサクラが小さなあくびをした。

「じゃ、一緒に寝ますか」

片手を伸ばしパソコンの電源を落とすとカカシはサクラをお姫様抱っこで抱き上げた。

「もう一回シテからね!」

そう言うが早いか、Tシャツの上から微かにわかる胸の蕾をパクっと口に含む。

「んふっ…」

突然の刺激にサクラの身体がビクンと跳ね上がり…その足の先が壁際の本棚にぶつかると、ドサっといくつかのバインダーが落ちてきた。
反射的に下を向いたサクラが見たものは…床に散らばった無数の写真。
写っているのは自分なのだが…かなりキワドイものばかり。
…目を覆いたくなるようなものまである。
カカシの服を握るサクラの手がふるふると震えた。

「…先生?」
「いや…これは…その……」

言えないッッ
ヤってる最中の写真だなんて…絶対言えないッッ

カカシは押し黙ったまま何も言わないが…これは…この写真は誰がどう見たって……

「先生の馬鹿ー!!なんて写真撮ってんのよー!!!」

…住人の迷惑を顧みる余裕のないサクラの叫び声が深夜の木の葉の里に響き渡った。










翌朝。
珍しく遅刻もせずに集合場所へ現れたカカシ。
その額あては瞬間接着剤で皮膚にしっかり張りつけられていたそうな。



あや様

大変お待たせしてしまって…申し訳ないです。
ところで、これってギャグですか?
ギャグって…書こうと思ったらなかなか書けないですね…。
何度も書き直してこの始末。
もう、死んでお詫びするほかありません。 ぷしゅー(切腹。)

2002.10.14
まゆ















あや様

大変お待たせしてしまって…申し訳ないです。
ところで、これってギャグですか?
ギャグって…書こうと思ったらなかなか書けないですね…。
何度も書き直してこの始末。
もう、死んでお詫びするほかありません。 ぷしゅー(切腹。)

2002.10.14
まゆ



2008.11.16 改訂
まゆ