木の葉上忍独身寮




「おかえりなさーい!ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ・た・し?」

フリルの付いたエプロンを身に纏い、片手にはお玉を持った部下が満面の笑みでカカシを出迎える。
部下。
そう、自分の部下なのだ…この少女は。
多少げんなりした風で俯く。と、同時に溜息が漏れた。

「サークーラー…」
「なぁに?」

可愛らしく小首を傾げて、翡翠色の瞳がカカシを見上げている。
その瞳をチラリと一瞥したカカシはまた一つ大きな溜息を吐いた。

ここは木の葉上忍独身寮。
その特殊性からも、たとえ里の忍びであろうと『オンナノコ』がおいそれと入れる場所ではないはずだ。
しかし、少女は現実に其処に…カカシの目の前に居る。
カカシがやっとの思いで絞り出した声は掠れてかなり聞き取りにくいものだった。

「…何処から入った?鍵、かかってただろう?」










ことの始まりはサスケのあの一言だった。

『ウザイ』

彼の口癖のようなそれは、サクラだってもう何度も言われていたはずなのに。
でも、その時は違ったのだ。
泣いているところをカカシは初めて見た。
思わず手を差し伸べて華奢な身体を抱きしめ、泣き止むまで辛抱強く背中を撫で続けたのだけれど…
何度考えてみてもこの出来事以外、サクラにこれほど懐かれる原因をカカシは思い浮かばない。
馴れない事をした結果がこれだ。
カカシはもう何度目になるのかもわからない溜息を吐き…サクラを見下ろした。










「何処からって…ちゃんと玄関からよ?」

カカシを見つめる真っ直ぐな瞳は少し不思議そうに答えた。

「だって、鍵は?」

サクラが満面の笑みでエプロンのポケットから取り出した鍵は管理人室に保管されているはずのマスターキー。
細い鎖で繋がったプラスチックのプレートには部屋の番号が記されている。
サクラはそれを指で摘まみカカシにちらつかせて見せた。

「へへへ」
「どうしたの、ソレ」
「もちろん借りたに決まってるでしょう?管理人のコハルさんに」

勝ち誇ったその口調にカカシはガックリと肩を落とした。

くそっ
あのババア…裏切りやがったな…

「センセ!ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ・た・し?」

再び繰り返される台詞。
どう対処するべきか頭を抱え込んだカカシとは裏腹に、サクラの…無垢な笑顔の奥の瞳はこれまでにないほどキラキラと輝いていた。







タイトル・・・Waltz
サークル・・・ふつつかな二人(かるて様/コフミ様)
発刊・・・2005年8月
かるてさんとコフミさんに差し上げた原稿です


2008.11.02 改訂
まゆ