鎮魂歌 空から白いモノが舞ってくる。 白い…白い… 桜の花びらと見間違う白い『羽』 あの子と見た、いつかの桜吹雪のようだ。 「私を呼んだのは貴方?」 甘ったるい、幼さの残る少女の声。 薄紅の髪はいつの間に伸びたのか…腰に届きそうなほど長かった。 あぁ、そうか…とカカシは思う。 あの子に最後に会ったのはもう一年前の話だ。 「サクラ…」 そう呼ばれた少女は一度だけ羽を羽ばたかせて地に足を付けた。 「それは誰の名前?奥様?…にしては若いわね」 自分の手足を眺めて少女がくすりと笑う。 震えた翼からまたふわりと羽が舞い落ちた。 「私は死天使。貴方に死を告げに来た者」 「…オレは死ねるのか…?」 何度も何度も死にそびれ…敵味方問わず『不死人』と恐れられたカカシだがどうやらそれも今回で終わりらしい。 思わず笑みが漏れる。 正直な話…あの子が居ない世界なんて、とっくの昔に未練は無かったのだ。 「全てのものに死は訪れるわ」 「…だろうね。でないと不平等だ。それにしても…キミはどうしてサクラとそっくりなの?」 「貴方がそう見せてるのよ。私は貴方が今一番逢いたい人の姿を映し出しているにすぎない」 「…そっか。キミは本当にサクラじゃないんだね。あの子のことだから生まれ変わって天使になったのかと思ったんだけど」 カカシは再び笑おうとして頬を緩めたが…笑い声の変わりに吐き出したものはどす黒い血の塊だった。 カカシの体中を巡る毒は今回の戦争に初めて用いられたのであろう、新種の毒薬だ。 敵のクナイの先に仕込まれていたらしく、気が付いたときには身動きも取れない有様だった。 サクラが側にいれば…あるいはどうにかなったかも知れないけれど。 第四次忍界対戦。 暁が発端だとされているが実際はどうだかわからない。 カカシはこの場に居ない二人の元部下に想いを馳せる。 この対戦の終焉はナルトとサスケ…この二人にかかっているといっても過言でないだろう。 あの二人ならきっと手を取りあえるはず……たとえ今は袂を分けているとしても。 「何を考えているの?」 気が付けばサクラの姿である死天使がカカシの顔を覗きこんでいた。 「…別に大したコトじゃなーいよ」 「ふぅん」 「そんなことより…ちょっと寒くなってきた」 「そうね。そろそろ時間だもの」 そう言って死天使はカカシが身を寄せていた木の幹から自分の膝へそっと誘導した。 「どう?」 「…悪くないね。本物のサクラみたいだ」 小さな膝に頭を抱えられ、カカシはふと思う。 「サクラにも死天使は来たのかな?」 「もちろん」 「…それってオレの姿だったよねぇ?」 「さあ?知らない」 「おいおい、それはないデショ。ここは嘘でも『そうだった』とか何とか言って安心させてくれないと…」 「貴方は彼女の愛を疑うの?」 「…そんなコト、ないけどさ」 拗ねたようにそっぽを向く男に、『サクラ』は笑った。 「彼女が亡くなったのはいつ?」 「半年前」 「…そう。では今度は同じ年に生まれ変われるかもしれないわね」 死天使の言葉にカカシは思わず顔を上げる。 見透かされた心の奥の願いに一瞬ドキリとしたが、相手は天使だ。 そうだといいなと呟いて瞳を閉じた。 「…いい子ね。ゆっくり眠りなさい」 額にやわらかい唇を感じ、自分を蝕む毒が一瞬にして払拭される。 カカシは徐々に遠くなる意識の中、死天使の祈りの声を聞いた。 「貴方の願いが叶えられますように」 なんとなくノリで書いてしまいました… 2008.0.6.23 まゆ 2008.11.24 改訂 まゆ |