懺悔




神様、どうか私に罰を………。

私は浅ましい人間です












サスケは里を抜けた。
ナルトはサスケを連れ戻すために里を空け、カカシは任務に多忙の日々。
自分の所属する班はもはや班とは呼べず、サクラは独り時間を持て余していた。
もちろんそれは綱手との厳しい修行の、僅かな合間だったけれど。

ふと気が付くといつもあの夜のことを思い出している。
会話の一字一句間違わず、何度何度も耳の奥でリプレイする。

『サスケくんが私と一緒にいてくれれば絶対後悔させない!毎日楽しくするし、絶対幸せになるはずだから!!』

あの時誓った言葉に嘘は無かった。
むしろあの言葉だけが真実だったのに。
…でも。
考えれば考えるほどこれで良かったのだと思えてくる。
いつかはいなくなる人だと…
自分には手の届かない人だと心のどこかでわかっていたから。

自分が幸せにするだなんて、なんて傲慢な考えだろう!

サクラはだんだん薄れゆくサスケへの気持ちに憤りを感じていた。
自分の中の何かが変わろうとしている。
取り返しのつかないことになりそうで…ただ、それが怖かった。










「先生は私にとっても甘いと思うの」

実に十日ぶりに会った上司に餡蜜をご馳走になった後、人通りの少なくなった夕暮れ道をカカシと肩を並べて歩きながら…サクラは不機嫌にそう告げた。
なにも餡蜜を奢ってもらったことだけを言っているのではない。
カカシが何かにつけて私を特別扱いしていることに気が付いたからだ。
…ごく最近のことだけど。
自分を見上げてくるサクラの真っ直ぐな視線に耐えかねて、カカシは困ったような、それでいて照れたような笑顔を浮かべた。

「うーん…でもね、それはしょうがないデショ。サクラは女で、オレは男だから」
「え?」

『上司と部下』ならともかく『男と女』だなんて…。
違和感のある言い訳にサクラの足がぴたりと止まる。
カカシも遅れて立ち止まり、一歩後ろにいるサクラを振り返った。

「サクラは本当の男を知ってる?」

急に何を言い出すのだろう…?
戸惑いの色を浮かべた瞳は次のカカシの台詞で更に大きく見開かれた。

「男はね、惚れてる女にはとことん弱いものなの」
「…惚れ、てる…女?」
「そ。オレにとってはサクラのことなんだけど?」

それは聞き逃しそうな、さらりとした告白。
半疑問で止められた語尾はサクラに答えを求めていた。
…サクラの気持ちを、知りたがっていた。

「わ、私は………」

言葉が続かない。
そんなサクラにカカシはほんの少し肩を竦めて苦笑する。

「もういい頃デショ」

アイツはオレより優しい?
アイツはオレより強い?
…まだ、忘れられない?

無言で問いかけてくるカカシに耐え切れず、サクラはくるりと踵を返した。
そのまま全速力で走り出す。が、すぐに行く手を阻まれる。

「逃げたって駄目」

あまりにもあっけなくカカシの腕に捕らえられたサクラはそのままきつく抱きしめられた。
男にしてはほっそりとした長い指先がサクラの顎にかかり…カカシのひんやりとした唇を受け止めた後、サクラの瞳から涙が一滴こぼれて落ちた。

「…先生のせいなんだからッ!」
「ごめんね」

違う。
先生が悪いんじゃない。
そんなこと…自分が一番良くわかってる。
でも誰かのせいにしなきゃ…私……

離れていくカカシの首に両腕を絡ませて引き止める。
二度目のキスはサクラからせがんだ。







たとえ、今、目の前にサスケくんが現れたとしても以前のように心躍ったりしない。

…私の心には違う男が住んでしまったから。











一応、単品でも読める…と思う。
やはり女としてはそばにいて優しくしてくれる人が(笑)

2006.02.20
まゆ



2008.11.30 改訂
まゆ