先輩と僕。




「さすがですね」

『ヤマト』はそう呟いた。
カカシの病室の前で立ち止まったヤマトが、ほんの僅か殺気を滲ませた途端に飛んできたクナイと手裏剣。
それらは間違いなく自分の急所の位置に突き刺さっている。
カンも腕も…鈍ってはいないようだ。
ヤマトは笑みを浮かべてクナイの先が飛び出た、少し重い病院の引き戸を開けた。



「お久しぶりです。カカシ先輩」
「…なんだ、お前か」

相変わらず口が悪い。
随分と会っていなかったのに…あんまりな挨拶だ。
いや、覚えていてくれただけ良かったと思うべきか?
ヤマトは戸に刺さったクナイと手裏剣を引き抜き、カカシに近寄った。

「今は『ヤマト』です。先輩の代行でカカシ班を率いることになったのでご挨拶をと思いまして」
「…そう。やっぱりオレは置いてけぼりなわけ、ね」

カカシはそう呟くと真剣な表情で俯いてしまった。
何か気になることでもあるのだろうか?
ヤマトの背筋がぴんと張り詰めた。

カカシ班は…結成時、問題のある子が集められたと聞いている。
うちは一族、唯一の生き残り『うちはサスケ』
こちらはすでに里を抜けているが、九尾を封印されている『うずまきナルト』が健在だ。
それに『春野サクラ』は…

あれ?
春野サクラは、なんだっけ?
…何かあったかな?


「『見るな』『触るな』『話しかけるな』」


突然のカカシの声に、ヤマトが顔を上げた。

「はい?」
「『見るな』『触るな』『話しかけるな』…以上、厳守しろ」

二度も言わせるなと言いたげに、カカシの眉間にシワがよる。
ヤバイ兆候だ。
暗部時代の、キレたカカシが一瞬脳裏を過ぎる。
ヤマトはびくりと身を縮めた。

なんだ、ソレ?
話が全然見えない…

「あの…それはうずまきナルトへの対応ですか?」

恐る恐る問いかける。
カカシは呆れたように溜息を吐いた。

「違うよ。サクラのことに決まってるデショ!あれはオレのだから」
「……え?」

今、すごくとんでもないことを聞いた気が…した。
ヤマトがまじまじとカカシを見つめ、二人の間に妙な沈黙が流れる。

「お前さぁ…オレの話、ちゃんと理解出来た?」
「はぁ」
「サクラに手を出したらマジ殺すって言ってんの」
「サクラって…『春野サクラ』のことですよね?」
「他にサクラはいないだろ!!」

そんなこと、病室に響くような大声で断言されても困る。
ヤマトはたじろぎながらもざっと二人の歳の差をはじき出した。

14、ね。
…カカシ先輩がロリコンだったとは。

「『見るな』『触るな』『話しかけるな』…ですか」

カカシの命令、というよりは完全に個人的要望をヤマトは口の中で呟いた。
フツー無理だろ。
…それでどうやって任務を遂行させればいいんだよ?!

「『見るな』『話しかけるな』は根本的に不可能ですよ、カカシ先輩」

ヤマトはやんわりと断りを入れた。
出来ないことは最初から出来ないと最初に言っておくべきだ。
でないと、後が怖い。

「じゃあ、『触るな』つうのはやれるのね」
「はぁ、まぁ…それなら多分。僕は別に部下にセクハラする気はありませんし、子供にも興味ないですから」
「…セクハラ?…子供?」
「あ!イヤ、別にカカシ先輩がセクハラしてるってわけじゃないですッ!!」
「当たり前デショ。オレのは愛の抱擁だ」

マジっすか…。

「あの小さな胸がいいの」

…はいはい。
わかりましたから、もう。

「じゃ、これから顔合わせなんで」

ヤマトは後ずさりながら出口へ近づき、そして、挨拶もそこそこに廊下へ…カカシの視界から逃げ出した。

「いいか、サクラはオレのだからな!忘れるなよ!!」

念を押すように追いかけてきたカカシの声を振り切るために、ヤマトは耳を塞いで走る。



カカシ先輩…
あの偉大なカカシ先輩は何処へ行ったんですかーッッ?!






to be continue……?






カカサクだから。
…うん、カカサク。←言い切っちゃったよ(笑)

2005.12.11
まゆ


2008.11.16 改訂
まゆ