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私達は手を繋いで眠った。










窓ガラスをコツコツと遠慮がちに叩く音がする。
警戒しながらカーテンをそっと開けると、そこには白く浮き上がった人の姿があった。
頭からすっぽりとシーツを被っていて…サクラはそれがナルトだと気付くのに少し遅れた。

「ナルト!!何やってんの、こんなところでッ」

今日の昼間、木の葉病院へ様子を看に行ったときはまだ意識不明で面会謝絶だったのに。
それが何故?
周りに気を使いながら…でも、鋭く放たれた声に、ナルトはバツが悪そうに笑った。

「へへ」
「へへ、じゃないわよ!もうッ!!心配してたのよ?!」
「…抜け出すの、苦労したってば」

ナルトは手術着のままだった。
二十四時間看護体制の中、誰にも見つからずココまで来るには言葉どおり苦労したに違いない。
しかも、本来ならば歩けるような状態ではないはずだ。

「身体は…もう、いいの?」
「うん」

自分は今すぐナルトを病院へ連れ戻すべきだと思う。
黙って出てきたというのならなおのこと。
すでに皆がナルトを探し回っているかもしれない。

でも。

「…おかえり、ナルト」

優しいサクラの一言に、ナルトは一粒の涙を零した。










部屋を抜け出したサクラはナルトと共に、なるべく人のいない道を選んで歩く。
示し合わせたわけではない。
しかし、二人は確実にあの場所へと向かっていた。

木々の合間を抜けると開けた場所がある。
慰霊碑が建つ丘だ。
二人はその横を素通りすると、なにやら意味ありげに埋められた、3本の丸太へと近づいた。

「あの時の事、覚えてる?」
「もちろんだってばよぅ。オレ、ここに縛られてて…」
「ふふふ。私とサスケくんがお弁当を分けてあげたのよねー」

任務中に川に落ちたこと。
犬に追いかけられたこと。
大きな夕日を背に…四人で歩いた帰り道での些細な会話。

話は尽きない。
でも、肝心なことにも触れない。
そんなに昔のことではない昔話に、悲痛の表情でナルトは相槌を打つ。
耳に届く震える声…サクラの涙声は、次第に嗚咽に変わっていった。





私の気持ちを一番よくわかってくれるのはナルトで。
ナルトの気持ちを一番良くわかるのは、やっぱり私なのだ。

伝えるべきことを口にされなくとも…サクラにはナルトの瞳を見れば全てを理解できた。
サスケとナルトがどんな会話をし、どんな決別となったのか…それさえも。
敢えて聞く必要は無く、サクラは差し出された傷のある額当てを受け取り、それをただ握り締めた。



サスケくんに切り捨てられたなどと、思いたくは無かった。

私達は互いに慰め合う。

一枚のシーツを頭から被り、肩を寄せ合って。

ぽっかりと空いてしまった穴を塞ぐ手段を模索しながら………












見つけた!

夜明け前の、まだ仄暗い演習場。
3本の丸太の1つに目当ての子供達を見つけて、カカシはほっと胸を撫で下ろした。
ナルトとサクラの姿が消えたと連絡を受け、二人でサスケを追いかけたのでは?という最悪の事態まで考えてしまったが…取り越し苦労で済んだようだ。
カカシは木の枝から地面へと音も無く降り立つ。

此処に居たのか…

此処は『七班』の始まりの場所。
丸太を背に、薄いシーツに包まって眠る二人の姿は…まるで捨てられた子猫のようだった。

いつまでもベソをかいて母猫の帰りを待っているようでは…オレが困るよ。

カカシはサクラの、頬を伝った涙のあとを見つけて苦笑した。
敵はなにもオロチ丸だけではない。
暁という名の組織の存在も気がかりなうえに、日々追われるほどの任務。

お前達はそんなに弱くないデショ?
ぐっすり眠って目が覚めたら…また歩き出さないと!

ナルトとサクラ。

もう…そのどちらも欠けないように、カカシは両手で優しく二人を抱きしめた。
そしてサスケが里を抜けることを事前に防ぐことの出来なかった自分の不甲斐なさを噛み締めながら心の中で呟く。

まだ、イケる。
サスケはお前を殺さなかった。
お前達が居る限り…アイツはきっと戻ってこれるはずだ。

きっと大丈夫だよ。










此処は出発地点。

もう一度此処から、三人で………















2004.10.11
まゆ



2008.11.16 改訂
まゆ