love & peace




「手を貸してみな」

言われるがまま差し出した右手の上に、綱手が左手を重ねた。
ほんのりと暖かさを感じたが、それは体温によるもので別段変わったことではない。
サクラが綱手に問いかけようと手から視線を外した途端、そこに異様なほどの熱が発生した。
やけどをするような、そんな感じではなくて。
しいて言えばお灸が一番近いように思う。

「相手の身体エネルギーを活性化させる。これが医療忍術の基本だよ」

目を見開いて驚いているサクラに、綱手は微笑んだ。

「やってみるかい?」

重ね合わさった手をくるりと回して上下を入れ替える。

「まず、ここに…チャクラを集める」

上になったサクラの手の甲を、綱手は空いた方の指先でトントンと突付いてコツを述べ始めた。

「印など必要ない。集めたチャクラでまず相手の身体状況を確認。皮膚の下、細胞組織…血管を流れる血流……」

綱手の囁くような言葉に合わせてサクラは徐々に意識を集中させていく。

「身体エネルギーは人それぞれ違うからね。全く同じということはありえない」
「はい」
「…ゆっくりと同調して……」

やがて熱を帯び始めた手を見つめ、綱手はにやりと笑った。

カカシの報告通り…
この子のチャクラコントロールは群を抜いている!

理屈を説明したからといってその場ですぐに出来ることではないのだ。
それほどまでに医療に関するチャクラの変換、及びコントロールは難しい。
予想を超える結果を出したサクラの肩を、綱手がポンと軽く叩いた。

「よし。明日から本格的な修行に入るよ」

サクラの側を離れて書棚へ近づき、奥の方から一冊の本を取り出す。
それをサクラに差し出して綱手は笑った。

「この本を明日までに読んでおくように」
「はい!」










「でね、この様よ」

そう言って突きつけられたいのの右腕は…かなり薄くなったものの、まだ他の皮膚より赤く見えた。
軽い火傷の症状だ。
よく見れば隣にいるシカマルの腕にも同じ痣がある。
それも一箇所…ではないようだ。
ナルトは恐る恐る問いかけた。

「それもサクラちゃんが?」
「…」

シカマルは無言で眉間にシワを寄せたが否定の言葉は発しない。
見舞いの人用に置かれた丸椅子に腰掛けたまま溜息をひとつ吐いただけだ。

「もうサクラの修行なんて付き合ってやらないんだから!アンタも気を付けた方がいいわよ。サクラにばったり会おうものなら…」

トントン。

いのが脅しめいた台詞を言い終わらないうちに、病室の扉がノックされた。

「ナルト、居る?」

その声は…。

サクラ!
春野!

顔を見合わせたいのとシカマルが先を競うようにベッドの下へ身を潜め、それと同時に勢いよく扉は開かれる。
返事も待たずにひょっこりと顔を覗かせているのは…予想に反することなく『春野サクラ』だった。

「ナルト、少しは元気になった?」
「うん。…サクラちゃんは綱手のバアちゃんとの修行、上手くいってる?」
「もちろん!どうしてそんなこと聞くの?」
「…いや、別に」
「実はさっきもちょっとしたテストを終えてきたトコよ。ちゃんと合格点をもらったわ!これもいのとシカマルのおかげよねー。あ!あの二人にはね、ちょっと協力してもらったんだ。今度お礼に怪我したら速攻で治してあげるつもりよ!」

一気に捲くし立てられナルトは顔を引きつらせた。
とにかく。
シカマルといの、二人の苦労は無駄ではなかったらしい。

「…そう。二人ともスゴク喜ぶんじゃないかな」

サクラから視線を反らして呟いたナルトの言葉に反論するように、ベッドが下から二度、突き上げられた。
もちろんサクラはそれに気付くはずもなく、話を進める。

「そうそう。また新しい術の練習に付き合ってくれる人を探してたんだけどね。いの達ばっかりだとさすがに気が引けちゃうし…」
「オ、オレはほら…まだ怪我が治ってないからさ」
「そんなことわかってるわよー。実はもう見つけてあんの」
「誰?!」
「ふふ。誰でしょう?」

サクラが口元を手で覆い、ニヤリと笑う。

「オレだよー」

聞き覚えのある、間の抜けた声が窓の方から聞こえてきた。
ナルトが顔を向けるとそこには窓枠に手を掛けて部屋へ入ろうとしているカカシがいた。

何で窓から…?!

「よ!久しぶりだな、ナルト。」
「カカシ先生…」
「なかなか見舞いにこれなくてすまん」
「そんなこと気にしなくていいってば」

今、木の葉の里がどれほど人手不足かなんて…ナルトにだってわかっている。
イルカさえも教職を休んで任務にまわっているのだ。
カカシに至っては一日数件の任務を掛け持ちだろう。

「それにしてもさー、サクラも人が悪いよね。初めからオレに相談してくれれば良かったんだよ。いくらでも協力したのに」
「…ちょっと待て。カカシ先生にはそんな暇、無いじゃん!」
「サクラの為なら任務なんて全部キャンセルするし」

疑問を前面に押し出したナルトに、彼らの上司はさも当然だと言わんばかりだ。
にっこりと笑って告げられると返す言葉もない。

そうだよ…
暫く会ってなかったから忘れてた!
カカシ先生はそんな奴だってばよぅ…

超鈍感なサクラのみが気付いていない。
彼女が絶大な信頼を寄せている上司から邪な視線で見つめられていることを…
自分が里でも三本指に入る上忍から狙われていることを!

サクラに警戒を促してカカシに睨まれるのはイヤだ。
ましてやカカシ本人に注意など…自殺行為だというのがサクラとカカシを取り巻く人達の一致した意見だった。

『触らぬ神に祟りなし』

サクラには多少の後ろめたさが残るが、これからも自分達はその方針を貫いていくだろう。
複雑な表情のナルトとベッドの下に隠れている二人はそっと息を吐いた。

「ねぇ、サクラ…早く練習しようよ!場所はオレの家でいい?」
「そうね」

カカシに促されて、サクラはナルトを申し訳なさそうに見た。
ナルトが気にしないでと胸の辺りで小さく手を振ると柔らかな笑みに変わる。
その間もずっと腰に回されたカカシの手を気にすることのないサクラは別れの挨拶を口にしてカカシと共に病室を出て行った。



「…さすがエロ上忍」

ベッドの下から這い出てきたいのが両手で軽くお尻の塵を払う。
シカマルも続いて立ち上がり腰を伸ばした。

「まぁ、何にせよ…助かったカンジしない?」
「…だよな」

サクラの練習相手はもうこりごりだといのとシカマルが肩を竦めてそう告げる。
ナルトだけがサクラの身を案じ、心配気に二人が去っていったドアに視線を向けた。

「でもサクラちゃん、大丈夫かな?」
「…ナルト、あんたねぇ…全て丸く収まったんだからそんなこと言うの止めなさいよ。それともあの二人を引き離してサクラの新しい術の実験台になった挙句、カカシに殺されたいの?」

慌てて首を横に振るナルトの肩をぽんぽんと慰めるようにシカマルが叩いた。

「自分のため=木の葉の平和のためだ。あいつ等には関わるな。そっとしとけよ…」












ファイル整理中に発見した書きかけのSS…
なんとか形にしてみましたが最初に書こうとしていた内容と微妙に違う気がする…
覚えてないけど(笑)

2006.01.01
まゆ


2008.11.02 改訂
まゆ