初恋




好きで好きでたまらない………











止め処なく溢れ出す気持ちはやがて小さな卵になった。
日増しに輝きを増す卵。

サクラは両手でそっと包み込み、頬を寄せる。
仄かに暖かい其れは自らカタカタと僅かに振動した。

ねぇ、いつ孵る?

サクラが愛しむように微笑んだその時。
手の中から突如卵が消えた。
慌てて探せど見つからない。
突如、視線を感じて振り返ったサクラが見たものは…今までに見たことのないような大きな蛇だった。

…いや。
一度だけ…どこかで。

動けないでいるサクラをあざ笑うかのように大蛇はその口を開ける。
中には…!

返して!!
それは私の大切な卵なの!

手を伸ばす。
しかし届かない。
駆け寄ろうとした足は縺れ、サクラは地面を舐めた。

やだッ
お願い、其れがないと私………

涙を拭って立ち上がる。
そんなサクラの目の前で、大蛇が今…ゆっくりと嚥下した。



嫌ーッ!!!












無意識に伸ばした手を握り返してくれたのは、サクラもよく知っている大きな手だった。

「…カカシ…先生……」

自分を覗き込んでいる瞳に陰りが見える。
カカシもすでにサスケが里を抜けたことを知っているようだった。

「目が赤いぞ?サクラ」

カカシ越しの見慣れた背景に此処が自分の部屋だと気付く。
自分は木の葉正面入り口に通じる道沿いでサスケを待ち伏せしていたはずだ。

いや、サスケには逢った。
それから…?

サクラは全てを思い出してカカシに言葉をぶつけた。

「嘘つき。また昔のようになれるって、そう言ったじゃない!!」

一気に捲くし立てて細い肩を震わせる少女をカカシは無言のまま優しく引き寄せた。
子供をあやすようにポンポンとその背を撫でる。
何度も何度も。
カカシのベストは瞬く間に染みを広げた。






どれぐらいの間そうしていたのか解らない。
やっと落ち着いたサクラは両手でカカシの胸をそっと押し戻し、その顔を上げた。

「ありがとう…って、そう言ったの」
「そうか」

サクラの言葉に、カカシは短く答えた。
誰が?などと聞く必要も無い。

「…私、振られたのかな…?」

カカシの瞳に無理に笑おうとしているそのぎこちないサクラの笑顔が痛々しく映った。

「そんなことないデショ」

指通りの良い薄紅の髪をゆっくりと梳きながら、カカシはただ大丈夫だよと繰り返す。

「……やっぱり先生は嘘つきね」

再びサクラの頬を、暖かい雫が、伝った。










『サスケくんが好きで好きでたまらない』

この気持ちが消え去る日なんて、来るのだろうか…











2003.08.12
まゆ



2008.11.16 改訂
まゆ