avaricious love





貴方は柔らかな笑みひとつで全てを差し出すように促す。

伸びてくる白い指先が…誘うようにオレの頬を撫でた。



残酷なまでに、強欲な愛。









「だって、サンジくんは私が一番好きなわけではないでしょう?」

サラリと告げられて唖然とする。

…言葉が足りなかった?
こんなに貴方のことを想っているのに、何故伝わらない?

小首を傾げたままのナミの顔は完全に笑っている。
それは、オレの告白を明らかに本気にしていない証拠だった。

「一番だって」
「ふふふ。嘘ばっかり!」
「オレのものになってよ。他の誰にも渡したくないんだ」
「私は物じゃないわ」
「ナミさん…」
「酔ってるのね、サンジくん」

実力行使とばかりに詰め寄れば、抱きしめる前にするりとかわされ…結局のところお互いの立ち位置が入れ替わっただけだ。
ナミさんが言っているのは夕食の時に飲んだワインのことだろうが、そんなものとっくに抜けている。
サンジは深い溜息を吐きながら船の縁に背を預けると胸のポケットからタバコを取り出した。

「どうすれば信じてもらえるの?」
「全部くれたら」

青白い月の光に照らされ、ナミの微笑は妖艶に輝く。
太陽が良く似合う昼間の笑顔とは違ってオンナを色濃く匂わせるそれに、サンジは息を呑んだ。

「余すところ無く、全部よ?」

繰り返される言葉はセイレーンの歌声のようにサンジの脳髄を刺激する。
煙草に火を点ける手を止めて凝視するサンジに、今度はナミが近づいた。
白い指が伸びてきて口に咥えたままの煙草をそっと取り上げる。

「タバコ味のキスはあまり好きじゃないわ」

そう言いながら、まだ火の点いてないソレをサンジの胸のポケットへ滑り込ませた。
ネクタイを軽く引くとよろけたサンジとの距離が10センチを切る。
息の触れる距離。
それが…次の瞬間、ゼロになった。



「…ナミさん?」

キスというには凶暴過ぎた行為にただ立ち尽くす。
突然の出来事にサンジは完全に毒気を抜かれていた。

「私が欲しければ頑張ることね!」

勝者は完全にナミだった。
サンジの告白など軽くかわし、ひらひらと手を振りながら離れていく後姿はあっという間に船室へと消える。

世界中探し回ってもそうは見つからない極上の女。

その貴方が『全てを差し出せ』と言うのであれば、差し出すしかないだろう?
それが、貴方の…恋の常套手段だとわかっていても。



「魔女、か」

唇の端に滲む血を舐め取り、ベッドでの彼女を想像する。
先ほどのキスからして激しいものとなるに違いない。
野良猫のような貴方を押さえつけ…滑らかな肌、その日に焼けていない部分に所有の痕を残す。

貴方はどんな顔で答えてくれるのだろう?
どんな声を聞かせてくれる?

誰にも見せたくないし、誰にも渡したくない。
貴方の瞳に映るのはオレだけでいい。

…強欲なのはオレも一緒だな。



サンジは再び煙草を取り出すと、今度はすぐに火を点けた。
紫煙を吐き出しながら暗い夜の海を眺める。

ナミんさんを手に入れる算段を練らないと、な。
…綿密で抜かりの無いものを。



「とりあえず、明日のおやつは貴方の大好きなリキュールを落とした蜜柑のグラッセにしよう」












いつか書きたいと思っていたワンピ。
今更かよ…と自分に突っ込みいれながらも書いてしまいました(笑)
まぁ、いいじゃん。



2004.06.27
まゆ